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2010-07-28up

Kanataの「コスタリカ通信」

#011

コスタリカの有機農園でボランティア

 先日、コスタリカでは数の少ない有機農園でボランティアとして10日間ほど働いてきました。コスタリカに着いたばかりの頃に行った大きな野菜市場でも、ざっと数えて80店舗以上の中、2、3店舗しか有機野菜を売っているお店はないそうです。なぜ、有機野菜を買わないのかと聞くと、「高いから」、「小さいから」といった答えが返ってきます。例えば、ニンジン1kgが通常なら500コロン(1コロン=約0.2円)のところ、有機野菜だと800コロン、というくらい差があるということです。

レタス。小さいがおいしい。

 今回なぜ有機農園に行ったかというと、日本で農園に通っていたのでこの国ではどのような野菜がつくられているのかということ、有機農業がどのような状況で行われているのかということに興味があったからでした。

雑草、生ごみ、ヤギや馬の糞などを積み重ね、雨水を使って作った堆肥。

 今回訪れた有機農園は、首都のあるサンホセ市の隣、カルタゴ市にあるLa florという小さな村にあり、ドイツ人女性が12年前に設立したThe Association for the Development of Environmental and Human Consciousness (ASODECAH)という団体(直訳すれば、環境と人間の意識を開発するための組織)の農園です。多くの自然が残されていることで有名でありながら、単一栽培や農薬による土壌や河川の汚染などの問題が深刻化しているコスタリカで、単一栽培や牧草地として使われていた土地を買い取り、植林を行ったり、有機野菜や薬用植物をつくったり、地元の子どもたちに環境教育を行ったり、ということを続けてきたそうです。

奥からレタス、ホウレンソウ、バジルが植えられている。

 具体的にお手伝いした仕事は、馬糞やヤギの糞、抜いた雑草などを山のように積み重ねて堆肥をつくる作業、畑を耕してバジルを植える作業、除草、苗床の掃除、ヤギ小屋の掃除やヤギの餌やり、料理の手伝いなどでした。わたしのようにボランティアとして各国の人々がやってきていました。ドイツ人、カナダ人、フランス人、アメリカ人など、いくつもの言語が飛び交い、おもしろい空間でした。特におもしろかったのは、作業中にオジギソウを見つけた時のこと。「あっ、オジギソウだ」と思ってみんなに見せると、コスタリカ人は「dormirona」(よく眠る人のこと)、アメリカ人は「shy guy」とそれぞれ違う呼び名を教えてくれました。同じ植物でもそれぞれ違う形容をしているのが興味深かったです。

ヤギがごはんを食べているところ。高床式のようになっているこの小屋に入り、ひたすら木の隙間からヤギの糞を下に落とし、それを堆肥に利用する。小屋の中で掃除をしているとズボンや髪の毛まで食べられそうになった。

 料理の手伝いをした際に、地元のお母さんたちに聞いてみると、「ここ(農園)では有機野菜を使っているけれど、うちでは高くて買えない。」というお母さんたちも多くいました。実際に有機野菜をつくること、そしてそれを食べ続けることが難しいのはコスタリカでも同じようです。

無農薬のパイナップル。こんな風にパイナップルができるとは知らなかった。無農薬でつくると1年以上かかってしまうので、多くの農家がガスをかけるなどして、成長を早めているらしい。

 また、気になったのは排水のことです。ここでも例外なく、とてもきついにおいのする洗剤でお皿を洗ったり、小屋の掃除をしたりしていました。ゴミの分別や有機野菜を使うということは徹底していてコスタリカの組織としてはかなり意識が高いと思いましたが、その水はそのまま畑に流れていくと思うし、垂れ流しという部分ではもう少し改善が必要なのかと思いました。コスタリカでは都市部でさえ未だに、下水整備が行われていません。そのため、生活排水は垂れ流し状態で、パイプが細いせいもありますが、トイレに紙を流すことはできません。路上でもよく白濁した水が流れているのをみかけます。そういった状況も路上のポイ捨てに拍車をかけているのだと思います。

都市部の路上にある排水溝。洗剤などで白く濁っている。

 一方、農園での食事は三食すべてほぼ野菜だけで作られていて、卵やたまに魚(10日間いた中で1度だけ)が出てくるといった感じでした。使われている野菜は農園で採れているものか、もしくは他の有機農園から購入しているものだと言っていました。わたしはベジタリアンではないので、最初は「お肉がなくて平気かな?」と思っていましたが、とてもおいしくいただきました。生ゴミもすべて堆肥や鶏のえさに使われていて、都市にいるとゴミの分別はほとんどと言っていいほどなされていませんが、ここでは徹底していました。

ある日のお昼。野菜だけの料理はとても手間がかかるが、とてもバリエーションが多く、おいしかった。

 サンホセに帰って来た途端、汚い路上と喧騒の中に帰って来たのだと実感しました。そして、帰って来てからの我が家のスープに入っている冷凍されていたトウモロコシやプラタノ、炊飯器で炊いたお米がとても不味く感じられました。有機野菜を食べていたことで、コスタリカの人たちがどういうものを食べているのかということを自分の舌で感じました。それでも食べないわけにはいかないので、食べることでまた味覚が農薬を使った野菜に順応していくのがとても怖いです。

すごく見にくいが、写真中央に写る小さな球状のものがハチドリの巣。ハチドリのお母さんが卵を温めている。

 排水を垂れ流すことや体に悪い野菜を食べ続けることは、もちろん良いか悪いかと言われれば、「悪い」と誰もが答えるはずですが、「悪い」ことでも慣れてしまえば平気で、身体の感覚を落としていけば順応してしまいます。「環境問題」と考えるととてつもなく大きく、自分の遠くのことのように感じますが、まず自分が身体の中に入ってくるものに対してどういう反応をするのかに感覚を研ぎ澄ましていくことからでなければスタートできないのではないかと思います。その中で、これはまずいと動き出すことのむずかしさ、そして小さな力でもそういった問題に取り組んでいる現場が実際にあるということを実感する10日間でした。

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「環境先進国」とも言われるコスタリカ、
有機農業についてもなんとなく進歩的なイメージですが、
必ずしもそうとばかりは言えないよう。
国は違っても、共通する問題はここにもあります。

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KANATAさんプロフィール

Kanata 大学を休学して2010年2月から1年の予定でコスタリカに滞在。日本の大学では国際学部に所属し、戦後日本の国際関係を中心に勉強をしている。大学の有志と憲法9条を考えるフリーペーパー「Piece of peace」を作成し3000部配布した。
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