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2010-12-08up

Kanataの「コスタリカ通信」

#018

ニカラグアへ行って来ました

ニカラグアの古都グラナダの様子。瓦屋根のコロニアルな建物が並ぶ。教会も多く残っている。

 コスタリカでは長かった雨季がようやく終わり、動きやすくなりました。

 ビザ更新のため、2カ月ほど前からコスタリカとの領土問題で揺れているニカラグアに行ってきました。10月中旬ごろから両国の国境沿いに流れるサン・フアン川の土木作業のために、ニカラグアがコスタリカ岸部に労働者を配属させたこと、武装したニカラグア人がそこに侵入して、滞在し続けていることを主権侵害だとしてコスタリカが米州機構に訴えました。その後、米州機構の加盟国27カ国のうち22カ国がコスタリカに賛成し、ニカラグアに立ち退きを命じましたが、米州機構の決定をもってしてもニカラグア側は納得せず、ついに国連まで持ちこまれています。

今回の旅で一番驚いたことは、ニカラグアで一番人気のあるスポーツは野球であるということ。中米はコスタリカのようにサッカー一色だと思っていた。グラナダの街のはずれで子どもたちが野球の試合をしていた。近くにも野球のスタジアムがある。

 以前からコスタリカとニカラグアの間には領土についての問題はありましたが、15カ月ほど前にオランダのハーグ国際裁判所にて、国境に関する紛争はいったん終了したはずでした。しかし10月末に、もともと領有権が問題となっていた無人の島に、武装したニカラグア軍が侵入し、そこにあったコスタリカ国旗を降ろし、ニカラグアの旗を掲揚したり、サン・フアン川の浚渫作業後に出た泥をコスタリカ岸側に捨てたりしたことに対してコスタリカが苦情を言ったことから状況が変わりました。さらに、グーグルマップの国境線が二国間の書簡で定められたものよりも300mほどコスタリカ寄りであったことにより、問題は複雑になりました。

グラナダのグアダルーペ教会。12月8日の聖母受胎を祝うために9日間お祭りがおこなわれている最中だった。この期間中は、1日ごとに通りを変えて、毎晩お祭りがあり、最後には白馬の山車に乗った聖母が教会まで運ばれていく。

 今回の旅で多くのニカラグア人と話をしましたが、ほとんどの人が親戚や家族の誰かがコスタリカで働いていると言っていました。その語り口からは、違う国に住んでいるという感覚よりは、ちょっと離れた地方に住んでいるといったくらいの感覚なのではないかと感じるほどでした。また、「私たちは兄弟だ」とか「あれは政府だけの問題で国民同士は敵対していない」と言っている人も多くいました。
 実際に、コスタリカのコーヒー農園やプランテーションなどの肉体労働の現場では、仕事が少ないニカラグアから来た多くの人々が働いています。さらに女性も家政婦などとして働いています。そのため、お互いが依存し合い、切っても切れない関係になっているのだと思います。彼らの話を聞いて、地続きに隣り合わせでずっと過ごしてきたこの二国が今回の一件でどうこうなってしまうことはないのだな、大丈夫だなと感じました。今回のニカラグアのダニエル・オルテガ大統領の言動に対し、来年行われる大統領選挙のために国民のナショナリズムを煽っているのではないかという見方もあるようです。

ニカラグアの首都マナグアに残るカテドラルの廃墟。今は立ち入り禁止になっている。1972年に起きた大地震からまだ完全には立ち直っておらず、貧しい地域も多くある。

 とはいえ、「コスタリカは悪い。コスタリカの領土の約半分は昔はニカラグアのものだった。今、観光客を集めている海岸だって、みんなニカラグアのものだったのに。そしてさらに今はまたさらにニカラグアの領土を奪おうとしてるなんて!」と言っているニカラグア人も実際にいました。また、ニカラグアの新聞には「コスタリカ側が『国境警備隊』としているものは、『軍隊』である」という内容や「(コスタリカ大統領の)チンチージャは『侵入』と言っているがこれは『侵入』ではない」とするものもありました。このように、二国間の中で国境に対する違和感があることは間違いのないことなので、この話し合いをしっかり続けていく必要はあると思います。

国民の父は、詩人のルベン・ダリオとアメリカ合衆国に対抗し闘ったサンディーノであるといわれている。(写真は両方ともサンディーノ)

 この問題に関して、コスタリカ大統領のラウラ・チンチージャは一貫してコスタリカは60年間軍隊を持たずにいる国家であること、そのため武力に訴えることはできない、これはただの国境論争ではなく、武装した勢力によるコスタリカへの侵入であること、を訴えていました。
 「自分たちの国が中立で武力を持たずに平和国家である」という明確なスタンスのもとに、今回の事件を武力なしに解決するために世界的世論を形成しようとする姿からは、軍隊を持たない国であるからそうするしかないということもありますが、その方法で今までもやってきたし、これからもやっていけるという考えが感じられました。長年信頼関係を築いてきた台湾との関係をあっさりと断ち切り、多大な援助をしてくれる中国との国交を結ぶなど、必ずしも完全に中立で平和のために尽くしている国と言えるわけではないと思いますが、「そういう国」としてやっていくというスタンスは明確であると思います。それをもとに世界へ注目を呼びかけるというのがコスタリカのやり方であり、コスタリカの外交のうまさを感じる一件でした(領土をめぐる論争は現在も進行中)。

多くの人で賑わう市場のあるマサヤにて。バナナやプラタノが並んでいる。

 そう考える時、日本の「国としてのスタンス」とは何でしょうか。「日本は戦後60年、誰一人殺さなかった」と主張する人もいますが、わたしには在日米軍基地から多くの米兵が戦地に向かったことなどを考えると、この主張が正しいようには思えません。世界においてどういう国でありたい、どういう理念を持っていきたいという考えを明確に持つこと、そこからでなければ国内のあらゆる問題についても、対外関係についても、進むべき道は見えてこないのではないでしょうか。

コスタリカ・サンホセの教会の写真。掃除している彼に「なぜ、ニカラグア国旗があるのか?」と聞くと、「みんなそれを聞くけれど、我々には二国間の平和を願う権利がある」と言っていた。
(写真右がコスタリカ国旗で左がニカラグア国旗)

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日本でも、尖閣諸島や北方領土などの問題が注目を集めています。
そこに対して、どんな「スタンス」で臨むのか? 
その場しのぎの対応にならないために、重要な視点といえそうです。

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KANATAさんプロフィール

Kanata 大学を休学して2010年2月から1年の予定でコスタリカに滞在。日本の大学では国際学部に所属し、戦後日本の国際関係を中心に勉強をしている。大学の有志と憲法9条を考えるフリーペーパー「Piece of peace」を作成し3000部配布した。
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