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2012-09-12up

「マガ9学校 第20回」

8月25日(土)14:00~17:00
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

「山本太郎さんと学ぶ 非暴力行動って何?」講師佐藤潤一さん(グリーンピース・ジャパン事務局長)×山本太郎さん(俳優)ゲスト富樫泰良さん(少年活動家)

各地で繰り広げられている脱原発デモも、金曜官邸前抗議行動も「非暴力」による行動です。仕事帰りのサラリーマンや子ども連れの家族が気軽に参加できるのは、"脱原発デモは非暴力""怖くない"という認識が共有されているからではないでしょうか。暴力的な手段を使わずに社会を変えようとする行動は、市民運動への参加の敷居を下げ、継続させてくれます。今回のマガ9学校は、そんな「非暴力行動」という概念を改めて学ぶ時間でした。講師の佐藤潤一さん、山本太郎さん、そして飛び入りゲストの富樫泰良さんと一緒に、「非暴力行動」の強さと可能性を考えました。

佐藤 潤一(さとう じゅんいち)グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。コラム「カエルの公式」が好評連載中。 twitter はこちら→@gpjSato

山本 太郎(やまもと たろう)1974年生まれ。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の「ダンス甲子園」出場がきっかけとなり芸能界入り。その後テレビドラマや映画に俳優として数多く出演。舞台やバラエティ、トーク番組の司会を務めるなどマルチな才能を発揮して活躍中。2011年4月9日、ツイッター上で「脱原発宣言」をして話題に。その後、所属事務所を辞めフリーに。原発の危険性や日本の未来について、自らの言葉で発信を続けている。twitter はこちら→@yamamototaro0

富樫 泰良(とがし たいら)1996年生まれ。中高生が主体となり次世代の育成のために取り組む国際ボランティアグループを中学1年の時に設立し、現在代表。「みんなで決めよう『原発』都民投票」のボランティアスタッフとして、署名活動のため奔走。フリー・ザ・チルドレン・ジャパン こども代表委員。

 第一部は、佐藤潤一さんの講義から始まりました。講義の詳細は佐藤さんのコラム「カエルの公式」に紹介されていますが、脱原発などの社会運動にかかわる人は「提案派」「行動派」「関心高い市民派」「啓蒙派」の4タイプに分類されます。それぞれを社会変化のプロセスに当てはめると、問題が顕在化する前の段階では、まず少数の「提案派」が行動するとのこと。「例えば原発事故が起こる前から、太陽光発電の普及を訴えていた人たちがそうです。当時、日本の技術は世界のなかでも進んでいました。でも、国のエネルギーシステムそのものが太陽光を重視しなかったから、どんどん落ちた。提案派は既存システムの中で物事を変えようとするので、システムが変わらないことには実現が難しい」と佐藤さんは言います。
 しかし、原発事故のような大きなきっかけが起きて社会の不満が爆発すると、今度は「行動派」が急増し、後を追うように「関心高い市民派」が増えます。問題が広く共有され、政府が「原発ゼロ」方針を明確に打ち出すなどの第二のきっかけとなる出来事が起こると「提案派」が上昇。そして「啓蒙派」がゆるやかに右肩上がりを続けて、社会システムの変化を確実なものにしていくステージへと向かうそうです。

 佐藤さんの見立てによると、脱原発の4タイプのうち山本さんは行動派に当たるとか。実際、昨年末には、ドイツまで足を運んで放射性廃棄物輸送の抗議集会に参加した山本さんは、現地の様子を報告してくれました。
 「ドイツでは、フランスで再処理された放射性廃棄物を鉄道で国内に輸送しているのですが、移動距離が長くて危険だという抗議行動が起こっています。フランスとの国境に近いドイツ北部の町にはベースキャンプがあり、毎回2万人以上が参加しています。農家の人たちも大勢集まっていて、参加者に食べ物を提供していました。キャンプ内の食事はフリーなんですよ。参加者は、『土地が汚染されるのはいけないことだから』という16歳の少女、70年代から運動している中年男性、福島の事故をきっかけに参加した人など様々でした。雰囲気はまさに音楽フェス。音楽に身を委ねながら、原発反対を叫んでいます。原発問題に関係なく行ってみたいと思わせる、この雰囲気作りが大切だと気づきました」(山本さん)

 一方で、佐藤さんが「非暴力行動は、必ずしも『穏便に済ます』ということではない」という通り、山本さんが経験したドイツの抗議集会でも、「日本ではちょっと無理かも?」と思える行動がとられていたそうです。
 「放射性廃棄物を積んだ列車が通る線路と、自分の腕を手錠でつないで、コンクリートで固めている人がいましたね。日本だったらすぐに逮捕されそうですが、ドイツではそこまで大きな話になりません。最終的には警察官が3~4人がかりで抱え上げて"排除"するのですが、そこも日本とは違いました。警察は、排除する前に3回くらい『どいたほうがいいんじゃないか』と意思確認をしますし、周囲には注意深くチェックする市民がいます。もしも警察が手荒なことをしたら大ブーイングなんですよ」(山本さん)
 山本さんは長時間の座り込みの末、警察に抱えられて排除される最中の映像を見せてくれました。「ただいま排除中」と少し笑顔を見せながらレポートする山本さんの姿からは、日本との違いを感じさせられます。

 排除された人たちは、広場に集められて警察の事情聴取を受け、解放される段取りだそうです。山本さんがその場に居合わせた人たちにインタビューをすると、次のような言葉が返ってきました。
 「抗議行動をして世の中が変わるのは当然だし、それによってドイツは大きく変わった。すごく意味のある行動だ」「興味はあっても参加しない友人や知り合いもいた。でも僕たちはヒッチハイクでここまできて、『やればできる』ことを証明した」「日本の人たちにも、原子力という巨大な敵と戦うために立ち上がって欲しい。自分の人権を守り、子どもたちを守り、未来を守ることだから」
 ドイツでの抗議行動を経て、山本さんは「音楽と若者の力が社会を変える」と感じたといいます。音楽フェスのような雰囲気が醸成されると人が大勢集まり、若者が行動に移せば社会は盛り上がる。その中から、「本当に必要がないもの」が自ずと明らかになっていくというのです。

 若者といえば、この日は15歳の少年活動家・富樫泰良さんも駆けつけてくれました。富樫さんは、中高生のメンバーが中心の国際ボランティアグループ「クラブ ワールド ピースジャパン」の代表を務めています。この夏、カナダのバンクーバーに行ったときに感じたことを語ってくれました。
 「バンクーバーでは、デモ行進がしょっちゅうあるのですが、誰も不快そうにしてないのが印象的でした。日本のように警察のパトカーがデモ隊を分断するなんてこともありません。自転車に乗った警察官が先頭と後ろにいるだけで、横にはいないんです。道路は全て青信号になるし、白バイが通行規制をしてくれます。デモコースの出発地は、日本のお台場みたいなところで到着地がビーチ。帰りにはきれいな夕日を眺めながら海岸を歩きます。実は僕、好きな女の子がいて、彼女と一緒に夕日を見たくてビーチに行ったんです(笑)。そこでデモ隊に遭遇して、毎週参加するようになりました(笑)」

 佐藤さんは「海外では、町の中でデモに会うことはよくありますよね。市民運動がデモやパレードの権利を守ってきたからです。やればやるだけ一般化していきますから、日本でもそういう雰囲気を作り上げたい」と強調しました。

 第二部では、佐藤さんのレクチャーのもと、「非暴力直接行動」のワークショップが開かれました。手を挙げた6人の参加者のうち、1人は市民役、ほか5人と山本さんは警察役となって、原発反対で座り込みをする人の排除行動を演じます。警察役に取り囲まれた市民役の男性は「威圧感がありますね。ここに座ったことをちょっと後悔するような……」とコメント。誰もが不安に感じそうなシチュエーションですが、佐藤さんはこうアドバイスします。
 「こういうときは心を落ち着かせねばなりません。敵対しない。抵抗しない。対峙する人に敬意を払う。声をあげないことが大事です。あと手を肩より高く上げないことですね。こちらから攻撃しないことを見せるために頭の裏で腕を組むとか、ピースサインにするとか。本人は極めて冷静にいることです」(佐藤さん)

 1人では心細い座り込みも、仲間がいるとだいぶ違うようです。ワークショップの後半では、市民役が3人になり、背中で腕を組んで座り込みました。先ほどまで「威圧感がある」といっていた男性は、「隣に人がいると少し心強い。安心しますね」と一言。警察役が排除しようとしても、力を抜いて腕を組んでいるとなかなか立ち上がらせることができません。佐藤さんは「時間をかせぐことで、いかに反対しているかを示すのがキーです。問題を止めたい心が強いほど、非暴力の精神がなくなってムキになりがちです。でも、感情的な人と落ち着いている人の、どちらの話を聞きたいと思いますか? 相手(警察側)にどう受け取られるかを意識したうえで行動することが大事です」と説明しました。
 山本さんも「相手も人間ですものね。そこにいた警察に歯向かっても、本人には決定権はないし、上から動かされているだけです。むしろ抗議行動の雰囲気が悪くなって、そんなところをテレビに映されたりする」と共感を示しました。一瞬のことであっても、暴力的な行為がテレビなどで報じられて"デモは怖い"というイメージを与える事態は避けたいものです。
 なお、この日のようなワークショップを経験しておくことで、いざというときも心を落ちつけられるそうです。非暴力の精神はもちろん、実際に行動するときの振る舞いも学べるマガ9学校でした。

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

大変面白く、役に立つ講座でした。(児玉千津子)

佐藤さんの非暴力行動についての説明がとても分かり易く、現在自分が行っている行動の位置づけ、これから生きるための指針にもなりそうです。山本太郎さんのドイツ取材の動画は、ご著書の写真の何倍も空気感が伝わってきて、もっと多くの人に見て欲しいと思いました。役者としても、きっとこの先、今の体験が大きな力となり、大成されるものと思います。(匿名希望)

ワークで排除者の役をしましたが、デモ中の周囲にいるおまわりさんも、きっといろんなことを思っているのだろうと思いました。相手も人間、家族があって大切なものがある。相手に敬意をもって自分の大切なことを自信を持って伝えることが大切だ、ということがよくわかりました。(河合澄恵)

知らなかったことをたくさん知って良かったと思います。(河合茉莉)

非暴力は見え方が大切! ということでなるほど〜と思いました。コミュニケーションの一部という考え方がストンと落ちました。すごーく役に立ちました。今後の反原発行動のためにも…。(魚住依未)

ヨーロッパの市民運動の自由さにおどろきました。日本の警備が厳し過ぎるのは知っていましたが、実例を(映像で)見ると、その落差に愕然となります。自由そうに見えて日本は本当に制限されてますね。とにかく続けることや、受け取られ方を想像することが大事なのだとわかりました。(橋爪徹)

グリーンピースについての印象がまったく変わりました。佐藤さんのお話はお人柄もふくめとても良かったです。太郎さんもお元気そうでうれしく思いました。(匿名希望)

ドイツの活動の仕方というものが映像で見られて、また知ることができて良かったです。本当に野外フェスのような雰囲気で楽しそうだった。日本のデモというと、荒々しくて堅苦しいかんじがするが、こういう風なやり方もあるんだと考えさせられました。(匿名希望)

とても良かったです。毎週官邸前アクションに行ってますが、今後、今日お聞きしたこと実践したいです。(匿名希望)

佐藤さんのお話はとてもわかりやすかった。山本さんのレポートとお話は、人をひきつける力を持っているので、これからもがんばって「有名人」も声をあげるよう、リードしていって欲しいです。富樫さんにはびっくり。若い人たちのパワーに期待したいし、できる限り応援していきたいと思います。(匿名希望)

山本太郎さんのドイツのお話が聞けて良かった。日本も変わっていかなければと思う。佐藤潤一さんからのデモ参加などの心がまえ、参考になりました。(匿名希望)

非暴力行動についての知識がありませんでしたが、良い機会になりました。(匿名希望)

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