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40歳からの機動戦士ガンダム:バックナンバーへ

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40歳からの機動戦士ガンダム【第1回】

 事実上初めてとも言える「政権選択選挙」の話題で日本列島が盛り上がるなか、「この国のかたち」とは、これっぽっちも関係ない「ガンダム(注1)」に関する連載の開始であります。

(注1)ガンダムは数多くのシリーズがありますが、特に断り書きがない限りこの連載では、「ガンダム」とは1979年4月から全43回放送されたいわゆる「ファーストガンダム」のことを指します。

 ガンダムの初放映から30年となる今年は、東京・お台場に高さ18メートルの等身大ガンダムが完成したり、関連商品が次々に発売されたりするなど、ファンの間では「かつてない盛り上がり」となっていますが…。たぶん、マガジン9条読者のなかには「ガンダム? そんなの子ども向けの単なるロボットアニメでしょ?」と思っている方もいるかもしれません。実は、かくいう私も、つい3年前まで、「ガンダム」というアニメに全く興味を持っていませんでした。ガンダムに限らず、アニメをほとんど見る習慣がなかった私は、まさに「子ども向けの単なるロボットアニメ」と軽蔑していたわけです。

 シリーズ作品が次々に作られていることや、プラモデル(いわゆるガンプラ)が異常に売れていること、そして漫画・小説ほか関連本が無数に出ていることなどは知っていました。この30年の間に「ガンダム、絶対見るべきだよ」と薦めてくれる人は何人もいました。でも、人生の折り返し地点をかなり過ぎた40歳(当時)になるまで、「何がガンダムだよ。けっ!」と思っていたのです。 それが今では……。

 ガンダムがいかに大人の鑑賞に耐えうる普遍的なテーマを持った作品なのかということを、「ガンダム歴」たかだか3年のくせに、飲み会の席などで、周囲が引き気味なのも無視して語っているわけです。


あの「人型ロボット」を
「兵器の一種」と考えれば、
「子ども向けアニメ」という偏見がなくなる

 今までさんざん言い尽くされていることですが、ガンダムで描かれていることの「ほんの一部」をあげるとすれば、次のようなことでしょうか。

 戦闘で真っ先に犠牲になる民間人、悪化する食料事情、軍が全てにおいて優先される戦時下の社会、「誤爆」による犠牲、核兵器使用の是非、自分の意思に反して戦争に協力させられる民間人、軍指導部の腐敗、兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障害)、そして戦争によって引き裂かれる親子・兄妹・家族の情などなど。

 主人公側の人たちも、それに敵対する側の人たちも、その多くが「本当は戦争なんてしたくない」という思いを持っていながらも、戦争という巨大な渦に巻き込まれていくという——。

 あの「人型ロボット」(注2)の強烈なイメージがあるため勘違いしている方も多いでしょうが(私もそうでした)、ガンダムには怪獣も宇宙人もまったく出てきません。登場するのは人間だけ。ガンダムはロケットパンチやスペシウム光線なんて武器や技は持っていません。

 あの「人型ロボット」は、言ってみれば、戦車、飛行機、戦艦などと同じ人間が操縦する「単なる兵器」。だから故障はするし、しょっちゅう弾切れになるし、操縦するのも最初はマニュアルを見ながらといった具合です。  映画『スター・ウォーズ』シリーズは、今さら説明の必要もないほど世界で大ヒットしたSF映画。この作品にも、四足歩行や二足歩行の巨大なロボットのような兵器が登場しますし、大きさは違いますがガンダムと似たような「人型ロボット」もたくさん出てきます。でも、それを理由に『スター・ウォーズ』を「子ども向けの作品だよ」と言う人は少ないでしょう。

 ガンダム、あの「人型ロボット」は「兵器の一種」なんだ—— そのことを理解した瞬間、30年近く私が持ち続けていた「子ども向けの単なるロボットアニメ」という偏見がウソのようになくなりました。そして、前述の「戦時下の人間ドラマ」に、ぐいぐい引き込まれていったのです。

(注2)ガンダムでは、正式には「ロボット」ではなく「モビルスーツ」と呼びますが、その辺の違いについては次回以降書いていきます。


2割の「憲法&安保ギョーカイの人」と
8割の「残りの人」、 両者の「架け橋」に
なりえるかもしれないガンダム

それにしても、「なんでマガジン9条でガンダムなの?」と思った方。実に正しい疑問です。

 マガジン9条創刊の目的は、護憲だ改憲だと言う前に、「憲法や安全保障」といった「硬くて難しい問題」について、多くの人(特に若い人)に興味を持ってもらう、そのきっかけを作ることでした。創刊前からスタッフの端くれとして関わってきた私も、この5年間、そのことを考えてきたつもりですが、「多くの人に興味を持ってもらうこと」の難しさを、改めて今実感しています。

 今年6月末、憲政記念館で開かれたある会合で、民主党前衆議院議員の枝野幸男さんは「日本の憲法論議は、極論を言う両側(改憲派と護憲派)それぞれ1割ずつが盛り上がっているだけで、残りの8割は蚊帳の外だ」というようなことを言っていました。ウマイこと言うなと思いましたが、マガジン9条にも投げかけられた言葉なのだと勝手に理解しました。「憲法・安全保障に興味のある」2割の人たちと、「あまり興味のない」8割の人たち。この両者の間に横たわる「深くて長い河」。これを乗り越えるための「架け橋」にガンダムがなりえるかもしれない——。そんなことを思ったのが、マガジン9条での連載につながった理由の一つと言えましょうか。

 当面、この連載が主な対象とする読者は、3年前の私のようにガンダムを「単なるロボットアニメでしょ?」と思っているような方です。そんな方に「まあまあ、そう言わずに」と軽く肩を叩きながらガンダムの魅力らしきものを語りかけていくことを、当面の目的とします。

 間違ってもガンダムファンに向けて、何かを語るコーナーではありません。だって私、何度も言うように、たかだかガンダム歴3年なんですから、そんな大それたことはできません。

 ちなみに、連載タイトルの「40歳からの〜」「ミドルエイジのための」に深い意味はありません。強いて言えば、私のようにガンダムを知らないまま「いい大人」になった方に対して、「まだ間に合いますよ」という意味を込めたということです。で、どうしても今週からこの連載をスタートさせたかった理由も、まさに「まだ間に合う情報」を一刻も早くお知らせしたかったから。

 ガンダムが「ロボット」ではなく「兵器」だと思えるかどうかが大きなポイントだと書きましたが、現在お台場に展示されている等身大ガンダムこそ、「兵器としてありだな」ということを理屈抜きに実感させてくれます。この展示、とりあえずお台場では8月31日まで。ヴィーナスフォートに買い物に行ったついででもいいですし、フジテレビのお台場合衆国に家族で行った帰りでもいいです。とにかく、騙されたと思って、この夏、等身大ガンダムをまず体感しておくことをお勧めします。

(氷高優)

いきなりですが、読者プレゼントのお知らせです。連載のスタートを記念して、等身大ガンダムが展示されている、お台場でしか売ってない「ガンプラ」と「30周年記念パンフレット」をセットにして、抽選で1名の方に差し上げます。できれば、「お台場に行く機会がない」という地方在住の方の手に届けばと思いますが、それよりも「欲しい!」というマガジン9条の読者、果たしてどのくらいいるのでしょうか。

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