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40歳からの機動戦士ガンダム:バックナンバーへ

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40歳からの機動戦士ガンダム【第6回】「兵器によって左右される戦争」

 プロ野球にはあまり興味ないし、愛知県出身でもないのですが、最近、中日ドラゴンズの行方が少し気になっています……。って、なんだか「スポーツコラム」のような始まりですが、実は中日ドラゴンズの監督・落合博満さんも大のガンダムファンなんですね。いつぞや見たテレビ番組では、自宅で食い入るようにガンダムのDVDを見る落合さんの姿が映し出されていました。優勝を逃すと家族から「ガンダム禁止令」を出されるなんてこともあると、ネットに書かれていました。考え抜かれた打撃理論によって現役時代は3度の3冠王を獲得し、監督となってからもプロ野球界きっての戦略家として知られる、あの落合さんをも、ガンダムは魅了しているということですね。
 ということで、ワケあって3週間も休んでしまいましたが、今週からまた物語に沿いつつ、話を進めていきたいと思います。


新しい兵器によって変わる「戦争のやり方」
30倍の国力差を縮めた「人型ロボット」

 今回は、まず訂正から。前回、「人型ロボット」の利点について書いたところ、大阪府の「青天 霹靂」さんからご指摘がありました。私は、宇宙空間において「その場でクルリと反転できる」ことが人型ロボットの利点だと書きましたが、「大気のない宇宙空間では戦艦や戦闘機も空気力学で飛んでいるわけではなくロケットの噴射次第でどちらにでも動くので、機体各所についている姿勢制御ロケットを左右互い違いに吹かせば『その場でクルリと反転』できます。(中略)手足を振り回す(AMBAC)ことで限られたロケット燃料を消費せずに反転できる」ことが人型ロボットの利点だというご指摘です。

 確かにそうでした。宇宙空間と地球上とを、私はごっちゃにしていました。バックナンバーも、ご指摘のように訂正しておきます。「青天 霹靂」さんありがとうございました。

 さて、ガンダムは「地球連邦軍VSジオン軍」という「戦争の物語」であるということはすでに触れたとおりです。

 地球連邦傘下にあったサイド3が「ジオン公国」を名乗り、独立のための戦争を仕掛けてきたわけですが、私は最初にガンダムを見たとき、地球連邦傘下のサイドのひとつにすぎないジオン公国が戦争を仕掛けるという設定に少し違和感を覚えました。解説書などによれば、ジオンの国力は地球連邦の約30分の1と圧倒的に劣っています。常識的に考えればジオン公国が仕掛けた戦争は「無謀な賭け」の一言で片づけられてしまうわけです。しかし、ここに前回説明したミノフスキー粒子と人型ロボットが関係してきます。

 レーダー機器等を無効にするミノフスキー粒子の開発によって、「接近戦」の戦争が到来することを予測したジオン軍は、人型ロボットを生産し、戦争の初期段階から前線に投入。宣戦布告から約2週間後に行なわれた連邦軍との会戦「ルウム戦役」では、ジオン軍の人型ロボットは接近戦での圧倒的な優位さを証明します。以前も紹介した、私が原稿を書く際に参考にしている『総解説 ガンダム事典』(講談社)には、「連邦軍の投入戦力の80%を壊滅させる圧倒的勝利を収めた」と書かれてあります。

 もちろん、その大勝利は人型ロボットの功績によるものだけではないでしょう。しかし、新たな兵器の登場によって、それまでの戦艦を主力にした遠方からの砲撃という「戦争のやり方」が変わらざるをえず、戦局にも大きな影響を与えたのは間違いありません。

 過去の歴史でも同様のことは起きています。というよりは、新しい兵器の登場によって、「戦争のやり方」はその都度変化してきたと言えるでしょう。

 例えば、第1次世界大戦(1914〜1918年)における戦車の登場です。
 第1次世界大戦では、ヨーロッパ大陸を縦断するように数多くの塹壕が掘られました。お互いが塹壕に籠ってにらみ合う、まさに泥沼と言える膠着状態の模様は、『西部戦線異状なし』などでも描かれていますが、その戦況を打開するために考えられた新兵器が戦車でした。

 1916年9月の「ソンムの戦い」で英軍が初めて戦車を実戦に投入。49台出動した戦車のうち9台が数キロメートルにわたって敵陣を突破するという程度の戦果しかあげられませんでしたが、塹壕を突破するという目的は達成されました。そのため、この戦いのあと、英国総司令部は1000台もの戦車の注文を出したそうです。
 その後、1917年11月に行なわれた「カンブレー会戦」で英軍は、10キロメートルの戦線に約400台の戦車を並べて侵攻し、わずか12時間でドイツ軍を壊滅させ、ドイツ陣内10キロメートルまで進入。同様の戦果をあげるには、3カ月の月日と40万人の兵士の犠牲が必要と考えられていたと言いますから、新しい兵器である「戦車」によって、短時間のうちに大きな戦果をあげることができたわけです。

※「ソンムの戦い」「カンブレー会戦」の記述は、財団法人防衛技術協会発行の『戦車は ミサイルは いつ、どのようにして生まれたのか!?』から抜粋・要約。

 戦車は第1次世界大戦の行方を大きく決定付けるほどの働きを必ずしもしたわけではありませんが、「塹壕に籠っての睨み合い」という戦争のやり方に変化をもたらしたことは間違いありません。そして、現在にいたるまで陸上での戦争において戦車は主力兵器として位置づけられています。

 ガンダムにおける人型ロボットも同様で、投入当初からすべてにおいて完全な働きをしたわけではありませんが、ミノフスキー粒子散布下の「接近戦」において地球連邦軍の戦艦等を駆逐していきました。

 ちなみに、主人公アムロの永遠のライバルとなるジオン軍のシャア少佐の名前は、この連載でも何度か出てきていますが、シャア少佐は、前記の「ルウム戦役」において自分が操縦する1機の人型ロボットによって連邦軍の戦艦5隻を撃沈し、その名を一躍轟かせることになります。

 ガンダムのテレビ版では、ミノフスキー粒子やそれに伴う人型ロボットの開発・実戦投入などの細かい経緯については触れていません。解説書などによれば、地球連邦からの独立を画策していたジオン公国では、国力の差を縮めるための新兵器としてミノフスキー粒子や人型ロボットの開発を積極敵に推し進めていた、ということになっています。つまり、それら新兵器の存在があったからこそ、国力30倍の地球連邦への宣戦布告が可能になったとも言えるでしょう。


たった1カ月で両陣営の総人口の半分が戦死
戦争は、一般市民を巻き込んだ総力戦に

 ガンダム第1話で、主人公の少年アムロ(15歳)が住むサイド7にジオン軍が侵入してきたことや、それによって住民に多数の被害が出たことが描かれていることはすでに触れたとおりです。なぜ、ジオン軍がサイド7に侵入したのかと言えば、そこにガンダムを含む連邦軍が開発した人型ロボットがあったからです。開戦以来、ミノフスキー粒子散布下での人型ロボットによる攻撃を受け、劣勢に立っていた連邦軍もようやく人型ロボットを開発したわけです。

 サイド7に侵入したジオン軍の人型ロボットが攻撃を仕掛けてくるなか、アムロはガンダムを偶然にも操縦することになります。ガンダムの性能や構造が飛び抜けていたこともあり、結果的に、アムロはガンダムを操縦して敵の人型ロボット2体を倒してしまうのですが、機械いじりが好きな少年とはいえ、いきなり操縦するのは無理。そのため、目の前に敵がいるにもかかわらず操縦マニュアルを見ながらの戦いになります。

 いきなり主人公が超人的なパワーを発揮するような展開でないあたりも、ガンダムならではの描写と言えるかもしれません。主人公のアムロが、超人どころか、いわゆる「ヘタレ」的要素あふれた人物であることが、ガンダムの大きな魅力になっていることは、多くのファンが指摘しているところですが、その辺のについては回を改めて触れます。

 ガンダムを含めた連邦軍の3体の人型ロボットは、やはり連邦軍の新兵器である軍艦「ホワイト・ベース」に収容され、サイド7を脱出します。ジオン軍の攻撃によって連邦軍の軍人が多数死亡したため、ホワイト・ベースに乗り込んだのはアムロたち多数の民間人と、少数の軍人たちです。

 この第1話の時点で連邦軍とジオン軍による戦争が8ヶ月を過ぎていることは以前書きましたが、戦争開始後わずか1カ月あまりの時点で両陣営合わせて総人口の半分を失うという、とてつもない戦争となっています。

 第1話では、アムロの父親テム・レイが、自分の息子アムロの写真を見ながら、若い連邦軍兵士に語りかけるこんなシーンがあります。

 「(連邦軍の新型兵器)ガンダムが量産されるようになれば、君のような若者が実戦に出なくとも戦争は終わろう。(中略)こんな(息子アムロと同じ)歳の子がゲリラ戦に出ているというが本当かね?」

 このセリフからも、正規の軍人が次々に死んでいき、若者たちが戦場に駆り出されていることが推察できます。また、物語の終盤第42話でも、ジオン軍の指揮官が自軍の人型ロボットの動きが鈍いことを部下に問い質すと、部下が「学徒動員のパイロットが多いようですから」と答えるシーンがあります。

 これらのセリフやシーンからも、地球連邦軍とジオン軍の戦争は、両陣営の市民も巻き込んだ総力戦になっていることが、よく分かります。

 ホワイト・ベースに多くの民間人が乗り込んだことは前述のとおりですが、正規の軍人が不足していることから、アムロを含む若者たちは臨時の軍属として借り出されることになります。

 このホワイト・ベースで宇宙を移動し、地球に降り立ち、再び宇宙へと行く、これがガンダムにおける物語の行程表とも言え、物語の進展と共に、主人公アムロの成長や悲惨な戦争の模様などが描かれていきます。

 ガンダムは、軍艦ホワイト・ベースに乗り込んだ人たちを描いた「ロード・ムービー」と言えるかもしれません。

 と、ここまで書いて、実はまだ第1話までしか触れていないことに気付きました。ガンダムの魅力を詳しく解説することがこの連載の目的ではありますが、いくらなんでもちょっとゆっくりしすぎました。このペースでいくと、全43話を語り終わるころには連載250回ぐらいになってしまいます。

 ということで、次回からは、各話を横断しながら、テーマ別に語っていきたいと思います。次回は、ガンダム以前のアニメではあまり描かれてこなかったであろう、「戦時下の食糧事情」についてです。

(氷高優)

AwakEVE
↑「儚くも永久のカナシ」ほか全14曲が収録されたUVERworldのアルバム『AwakEVE』。
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皆さんは、UVERworld(ウーバーワールド)というバンドをご存知ですか? 昨秋から放送されていた「機動戦士ガンダムOO」セカンドシーズンのオープニングテーマ「儚くも永久のカナシ」を歌っている5人組のバンドです。「ガンダムOO」を見ていた頃から気にはなっていたのですが、先日、あるフェスで彼らの生演奏を体感したところ、すっかりファンになってしまいました。かっこいいんです、歌うまいんです。40歳半ばになって、自分より一回り以上も下の若い人たちの音楽にこんなに夢中になれるなんて、正直驚いています。ガンダムに対して「子ども向けのアニメでしょ」と敬遠していたのと同様に、若い世代の音楽への興味も薄れる傾向が強くなっていましたが、やはり「食わず嫌い」はいけませんね。

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