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2010-06-02up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第15回

2010年5月27日@携帯電話

「3月の首相会見に参加された方は申込書一枚で大丈夫になりました」
(首相官邸報道室)

●二転三転の「事前登録申請」に振り回され

 3月28日にようやく「セミオープン化」された鳩山由紀夫首相の記者会見。2回目の「セミオープン会見」が開かれたのは、それから2ヵ月後の5月28日のことだ。この日は社民党の福島瑞穂大臣が罷免されたりするなどのゴタゴタがあったため、会見は当初予定の17時から21時に開始時間が変更された。会見の中身は首相官邸のホームページに動画と全文が掲載されているのでそちらを見てほしい。

 前回は煩雑な事前登録手続き(提出書類の多さや、寄稿する雑誌の推薦状の提出も求められた)や、締め切りまでの時間があまりに短かったこと(実質9時間半)を書いた。その時にもさんざん「ひどいじゃないですか」という話を官邸報道室にはしたので、さすがに今回は簡素化されるだろうと思っていた。

 だが、またしても登録手続きに翻弄された。

 今回、私が事前登録の開始に気づいて官邸報道室に連絡を取ったのは26日夕方のこと。パソコンのポータルサイトをヤフーから首相官邸に変えて毎日チェックしていた私は、官邸ホームページの隅に掲載された「事前登録の案内」を偶然発見できたのだ。

 発見とほぼ同時に、知り合いの記者からも「28日に首相会見があるよ」という電話をもらった。記者クラブのように情報が飛び込んでこないフリーの記者にとっては大変ありがたい連絡だ。私も知り合いのフリー記者数人に「事前登録が始まった」と連絡した。みんな私からの電話があるまで、この発表には気づいていなかった。

 私が報道室に電話をした際、当初は「前回と同じように必要書類をすべて提出してください」と告げられた。ある程度は予想できた答えだったので、私は淡々と準備を進めた。

 ところが5分後に、今度は官邸報道室から電話がかかってきた。いわく、「やはり前回参加いただいた方は申請書だけで結構です」という。

 どっちなんだろう、と思いながらも書類の準備を進めていると、さらに5分後に「前回から2ヶ月経っているので、やはりすべて提出してください」と電話がかかってきた。

 まさに二転三転。どんな罰ゲームだ。結局、私は26日夜中に前回同様、寄稿する雑誌編集部からの推薦状を含めて必要書類29枚を官邸報道室宛にファクスした。

 ところが! 一夜明けた27日。締め切り時間として設定された12時を回ったところで、またしても官邸報道室から電話が鳴った。

「昨日から何度も変更があってすみません。やはり、3月の会見に参加された方に同じ書類を提出していただくのは非常にご面倒をかけてしまうので、申込書一枚で大丈夫ということになりました。締切時間も伸びます。その旨、ホームページにも掲載しました」

 ええ~~~!

 たしかに首相官邸のホームページを見てみると、締切時間が「午後7時」に延びている。コピーした紙が全くの無駄になってしまった。エコじゃない。地球温暖化が心配だ。

※写真・総理が会見する演台(足元には会場に設置されたマイクから拾った音声を流すスピーカーがある。そのため遠くの記者の質問も総理には鮮明に聞こえる)

●ペン記者席からの撮影禁止のルール

 それで、だ。首相官邸での記者会見には、実はいろいろと制約がある。そのひとつが、「会見中はペン記者席からの撮影は禁止」というもの。本当は私も写真を撮りたかったが、3月に引き続き、今回もルールを守ってじっと我慢した。

 ところが!

 鳩山首相が会見の冒頭に話を始めると、なんと、首相の真正面、前から3列目の席に座っていた記者クラブの記者が、小さなデジカメを頭上にかざしてパシャリパシャリと写真を撮り始めたのだ! ズルい!

 約1時間の記者会見中、私は質問しようと手を挙げ続けたが、今回も指名されることはなかった。残念だが、ペン記者だけで130人近くいるのだから仕方がない。会見中の写真も手元には一枚もない。それも残念だが、ルールだから仕方がない。

 私は会見終了後、ルールを破って撮影していた記者に「どうしたら会見中に写真を撮ることが許されるのか」を聞きに行こうとした。なにか特別な裏技を使えば会見中も写真を撮れるのかと思ったからだ。ところが会見が終わるやいなや、その記者は猛ダッシュで記者クラブ室(フリー記者は立ち入ることのできない)へと走っていってしまった。

 そこで私は会見場で片付けをする官邸の職員に聞いてみた。「記者席から写真撮影してもいいんですか?」と。すると職員からは「ダメダメ! ぜったいダメだよ!」との答えが返ってきた。「でも、記者クラブの記者サマは撮っていましたよ」と私。「ええ~? ホント? ダメなんだよ。それは代表撮影のカメラじゃないの?」。「代表カメラって、家庭用のかわいいデジカメなんですか? ど真ん中の前から3列目で撮っていましたよ」と私。「代表は最前列だからな…。それが本当なら問題だ。でも、記者席からは一切、撮っちゃダメなんだよ」。

 一般に、着席での撮影が禁止される理由のひとつに、セキュリティの問題がある。それはカメラが「凶器」である可能性があるからだ。たとえば世界の要人の記者会見などに出る場合、会場に入る際にカメラのシャッターチェックが行なわれるのをご存知だろうか?

 シャッターチェックとは、事前に警備担当者の前で空シャッターを押し、そのカメラが「凶器ではない」ことを確認するための行為だ。これはカメラの形をした「銃」や「爆発物」などの危険から要人を守るためである。

※写真・官邸会見室の様子(フリーランスは進行役からも一番遠い位置に集めて「座席指定」された)

 私は以前、ロシアのプーチン大統領(当時)が日本の迎賓館で記者会見をした際、会場の入り口でカメラのシャッターチェックを受けさせられた。アメリカで大統領選の取材をしたときにも、金属探知機はもちろん、シャッターチェックを受けている。初めてシャッターチェックを受けた時など、やり方がわからずにうっかりカメラを警備員に向けてしまい「ダメダメ! 私には向けないで!」と本気で怒られたこともある。万が一カメラが凶器だった場合、弾が飛び出したらたまらないからだ。

 しかもペン記者席は要人からかなり近い距離にある。本来、至近距離でシャッターチェックを受けていないカメラを構えることは、とても危険で場の秩序を乱す行為なのだ。まさかそのことを優秀で見識ある記者クラブの記者サマが知らないとは思えない。

 ちなみにその記者サマが座っていた椅子には、一枚の名刺が残っていた。

「読売新聞 政治部 記者 ◯◯◯◯」

 これがご本人の名刺かどうかはわからない。でも、記者クラブの記者であったことは間違いない。なぜなら今回、フリーランスの記者は全部で9名しか参加しておらず、会場の後方に「まとめて座席指定」されていたからだ。ど真ん中のいい席に座れるのは、記者クラブの記者サマだけである。

 余談だが、記者クラブの記者には「自分の名刺で席取りをする」という慣習がある。名刺だけ置いて、結局最後まで姿を表さないこともある。会見を主催するのが記者クラブであるならば、秩序ある会見のためにも、ぜひとも「ルール遵守の徹底」をお願いしたい。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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