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2010-07-21up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第19回

2010年6月25日@外務省会見室

「(日本の公職選挙法は)なにか頭から不正が行なわれるという、政治家に対する見方、あるいは有権者に対する見下したような考え方に基づいて作られているような気が非常にする。基本的に大きく変えていく必要があるというのが私の持論」
(岡田克也外相)

●恥ずかしながら帰って参りました!

 まずはお詫びです。私は参院選公示前から日本全国の候補者、そして応援演説に繰り出す各政党幹部の後を追いかけて飛び回ったため、一カ月間連載を休んでしまいました。
 ご愛読いただいている皆様、ご迷惑をおかけいたしました。恥ずかしながら帰って参りましたので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

 早速ながら、参院選期間中の霞が関・永田町界隈の記者会見事情を簡単におさらい。
 通常、大臣の記者会見は毎週火・金の閣議後に開かれるが、参院選期間中は会見が週一回になったり、会見自体が開かれなかったりして、わりと静かだった。現職大臣も「事務所費でキャミソールを購入した」と報じられた荒井聡国家戦略担当大臣以外は応援演説に飛び回っていた。
 とはいえ、せっかく記者会見がオープンになっているのに参加しないのはもったいない。そこで私は6月25日の岡田外相会見に出席し、「日本の選挙とインターネット利用」について質問してみた。

畠山 「海外の政治家と会談される機会が多い岡田大臣にお伺いします。現在、参院選の真っただ中ですが、先の国会でネット選挙の一部解禁を認める法律が通らなかったため、ホームページやブログ等での政治活動ができなくなっています。本日の会見もニコニコ生放送が中継していますが、選挙中の対応としてコメントの表示を自粛しているそうです。
 例えば米国でオバマ大統領が誕生した背景には、ツイッターやインターネット献金が非常に大きな力を発揮したということがありました。しかし、日本では有権者にとって一番情報が必要だと思われる選挙期間中にインターネットの利用ができません。
 選挙に立候補する際の供託金についても、米国、フランス、ドイツ、イタリアなどには供託金の制度がなくて、イギリスの場合でも9万円ぐらい。日本の場合は選挙区で300万円、比例で600万円とかなり高いために、新しい人材がなかなか参入できないとも言われています。海外の政治家とお話をするときに、こうした日本の選挙制度が話題に上ったことはありますでしょうか。
岡田 「海外の政治家というか、この前、ルース駐日米大使と昼食をともにしたときにも、この話は出ました。供託金の話は、議論は両論あると思います。税金も関わるわけですから、誰でも出られるということはいいことではありますが、本当に当選を目指して立たれる人ばかりなのかという議論は、当然あり得ると思います。
 ただ、日本の公職選挙法そのものは非常に規制が多くて、インターネットの利用の話もそうですが、例えば個別訪問は認めないと。なぜかといえば、個別訪問すれば買収の可能性があるとか、とにかく選挙活動というものを非常に国民に対していろんな考え方を伝え、そして選択をしてもらうという機会としてではなくて、何か頭から不正が行なわれるという、政治家に対する見方、或いは有権者に対する見下したような考え方に基づいて作られているような気が非常にするわけであります。そういったものは、基本的に大きく変えていく必要があるというように、私(大臣)は持論として持っております。」

 私がこの質問をしたのには理由がある。イラクの友人と「選挙」について話した際、イラクの友人からこんな一言を言われていたからだ。

「日本では選挙期間中にインターネットが使えないだって? 嘘だろ? 日本にはパソコンがないのかい?(笑)」

 ぐうの音も出ない。

●沖縄で、民主党独自候補をなぜ立てなかったのか?

 また、6月29日の外相会見でも私は質問した。

畠山 「今回の参議院選挙に民主党は沖縄で独自の候補を立てていません。(沖縄県民に対して県内移設の政府方針について)あらゆる機会に理解を求めるということであれば、沖縄で民主党独自の候補を立てることも理解を求める1つの方法だとはお感じになりませんでしょうか」
岡田 「候補者を立てるとすれば、政府、内閣の方針に沿った候補者を立てることになりますが、そういったことは現実には困難な状況にあると考えております。
 政府、内閣の方針に反した候補者を立てるということは、党としてはとるべきことではないと考えて、今回は候補者を見送ったところであります」

 結果として、沖縄選挙区では自民党公認の島尻安伊子候補が当選。比例区から出馬した沖縄出身の喜納昌吉候補も前回選挙の約17万8千票から約10万票を減らして落選してしまった。
 9月には名護市議選、11月には沖縄県知事選がある。沖縄の基地問題、解決までには高いハードルがいくつもありそうだ。

2010年7月12日@民主党開票センターでの菅直人民主党代表記者会見

「菅さん逃げないでくださいよ!」
(記者席の記者)

●静寂が漂っていた菅直人の街頭演説

 今回の参院選、民主党は改選前の54議席から10議席減らす結果となった。就任直後、菅直人首相の支持率は各マスコミの調査で60%を超えていたため、「なぜ?」と思った方もいるかもしれない。
 だが、選挙の現場を取材していると、この結果はある程度予想できた。街頭演説に集まった聴衆の反応がすこぶる悪かったのだ。
 たとえば6月12日。首相就任後初めてとなる街頭演説(新宿南口)の冒頭、菅首相は集まった約3千人の聴衆に対して、元気よく挨拶をした。
 「私、菅直人でございます! よろしくお願いいたします!」
 普通であれば首相就任のご祝儀とばかりに割れるような拍手が巻き起こるシーンだ。しかし、会場の拍手は「パチ…、パチ…、パチ…」。そして静寂。「最高のシーン(場面)」となる予定が「最低のシ~ン(静寂)」となってしまった。
 このとき、まだ菅首相は「消費税」の問題に一言も触れていない。それなのにこんなまばらな拍手しか起きない。私は各マスコミが出した支持率「V字回復」の数字は、とてもじゃないが投票日まで持たないと思った。

 その結果が正式に判明する参院選投開票日。私は菅直人代表の記者会見が行なわれる予定の民主党開票センター(都内のホテル)へと向かった。
 菅首相は午後9時前にホテル入りしたが、記者会見の開始予定時間は当初の11日午後11時、午後11時半、そして翌12日午前0時半と大幅にずれ込んだ。しかも、記者会見の時間はわずか26分と、とても短かった。
 私を含め、複数の記者が挙手する中、司会進行役の菊田真紀子衆院議員が「それではこれで民主党代表記者会見を終わらせていただきたいと思います。みなさんご協力ありがとうございました」と会見を一方的に打ち切ってしまったのだ。
 そんな中、記者席から上がったのが「菅さん、逃げないでくださいよ!」の一言。菅首相にも聞こえるような大きな声だったが、首相は一瞥することもなく会場を後にした。ちなみにこの会見の模様は民主党ホームページに動画で掲載されている。
 最後の一言も、ボリュームを最大にすれば聞こえるはずだ。
 いや~、オープンな記者会見って素晴らしい。あとは菅首相が記者会見を嫌いにならないことを祈るばかりだ。

2010年7月20日@法務省会見室

「決して『私でなければできない』ということではないと思います」
(千葉景子法相)

※USTREAMで中継しました。(その1その2

●可視化されていない東京地検の記者会見について伺います

 現職大臣でありながら、今回の参院選で落選。それでも続投することが決まった千葉景子法相(神奈川選挙区)。大臣続行には批判の声もあるが、法的には民間人が大臣を務めても問題はない。それよりも気になるのが『一票の重み』の格差だ。
 どういうことかというと、今回、千葉大臣は選挙区で落選した候補者のうち、最大の69万6千739票を獲得して落選した。一方、今回選挙区で当選した候補者のうち、最も得票数が少なかったのは高知選挙区の広田一氏(13万7千306票)。『一票の重み』の格差は実に5倍以上にもなる。法相自身がその最大の被害者になったのだ。

 現在、法務大臣の記者会見はフリーランスの記者も正式に参加できるため、私も参加して質問してきた。また、総務省の記者クラブとは違い、個人の資格での動画撮影、USTREAM中継もOK。そこで私は最前列から中継してみた。

 ところがUSTREAM視聴者から「音が聞こえない」とのご指摘を数多くいただいた。そこで、ちょっと長くなるが私の質疑応答部分を文字に起こしてみたのでお読みいただきたい。

畠山 「今、(ジャーナリストの江川紹子さんから)捜査の可視化について質問が出たので、私は『可視化されていない東京地検の記者会見』についてうかがいます(隣の席で江川紹子さんが笑う)。
 東京地検では6月10日から、従来の司法記者クラブしか参加できなかった記者会見ではなく、フリーの記者も参加して記者会見が行なわれるようになりました。ところがこの会見は撮影・録音ができません。また、会見に参加するにあたっても、5月11日で登録が締め切られていて、追加の参加も認められていません。なおかつ地検側が会見の要旨を公表することもしていません。地検のことを検証できる立場にいらっしゃる法務大臣にうかがいたいと思います。これは記者会見なんでしょうか?」
千葉 「検察の記者会見、できるだけの公開ということは、この間、本当に閉じられてきたと認識しています。いろいろな状況を踏まえて、この間、一歩と言いますか、少し、自ら公開していく、情報をきちんと伝えていく、という姿勢を取られるようになってきたということは私も一歩前進だというふうに認識をいたしております。
 ただ、それで100%十分な状況かどうかというのは、それぞれ今、地検等で対応をされていると私も思いますので、少し状況を私もいろいろと知らせていただいて、さらなる公開、あるいは対応の仕方、こういうことが必要なのかどうかということについて、また、それを地検なりにお返しをする。そういうことは考えていきたいと思っています」

 今ひとつ歯切れが悪いので、続けて質問。

畠山 「地検の方に提案をするというお考えはありますでしょうか?」
千葉 「提案というか、そういういろんな状況、それからみなさんからのご意見等、こういうことがあるよということを、きちっと伝えていくということはまずやらなければいけない、と」
畠山 「それは大臣の任期中にやられるということでよろしいのでしょうか?」
千葉 「私のやれる状況でありますれば、今日いただいたもの、あるいは他からもいただいたものを『こういう状況になっている』ということはお伝えができると思います」

 もう一つ、気になるところを質問した。

畠山 「大臣は先日の選挙で落選をされ、民間人になっても大臣としての職をお続けになるおつもりだと伺っております。在任中に、大臣ご自身としてぜひともこれだけはやっておきたい、もしくはこれだけは結果を出しておきたいということがなんなのかを改めて伺えますでしょうか」
千葉 「これまで申し上げてきたのは、(取り調べの)可視化と、人権救済機関の設立、個人通報制度。大きくはこの3点を当初の就任にあたって、それからこの間のこととしてもマニフェストに掲げた中から取り組んでまいりました。そういう意味では、それを少しでも前進をさせると。こういうことになると思います」

●じっと私の目を見て大臣は答えた

 さて、ここからちょっと意地の悪い質問。私は大臣の目を見ながら質問した。

畠山 「千葉大臣でなければできないことというのは、その中にあるとお考えでしょうか? 『他の方でもできるんではないか』というお考えはありませんでしょうか?(会場の記者から苦笑が漏れる)」

 大臣、これまた私の目を真っ直ぐに見ながらこう答えた。

千葉 「これは民主党のマニフェストで固めたことでございますので、決して『私でなければできない』ということではないと思います。ただ、熱意というか、そういうものを持って取り組ませていただいたということはありますが、私じゃなきゃできないということは……。党として決めたわけですから、誰がやろうとも、それはやらなければいけない課題だというふうには思います」
畠山 「千葉大臣だからこそなのかもしれませんが、大臣は死刑執行の命令書に一度もサインをされていないかと思います(※刑事訴訟法によれば、法相は死刑判決確定後6カ月以内に執行命令を下さなければならない)。これは退任されるまで変わらないのでしょうか。大臣ご自身は『サインをしないとは言っていない』と仰ってきましたけれども、この姿勢は変わらないのでしょうか?」
千葉 「これは、これまで申し上げている通りの、私なりの姿勢でございます。『しない』というふうには申し上げておりません」

 私のUSTREAMを視聴していた人たちからは、リアルタイムで「大臣は何も答えていませんね」などの声が上がっていた。だが、私自身はこうした質疑応答が記者会見という『公の場』で行なわれ、しっかり記録に残ることは無駄ではないと思っている。「答えない」ということも大切な情報の一つだからだ。

 はっきり言って、記者会見でのやりとりが新聞やテレビなどで報じられることはほとんどない。だが、実際の現場では意外にも面白いやりとりがあふれている。それは質問者が記者クラブの記者であろうと、フリーランスの記者であろうと関係ない。たとえばこれまでの千葉法相の記者会見では、記者クラブの記者から次のような質問も出ていた。

【7月6日の閣議後会見/参議院議員選挙に関する質疑】
Q:明日は七夕です。もし短冊に願い事をお書きになるとしたら何をお書きになりますか。
A:この段階で聞いていただくということは、参議院議員選挙の勝利。本当はもうちょっとしゃれたことでもと思いますが、今はそれしかありません。

【7月16日の閣議後会見/資産公開に関する質疑】
Q:車がすごく古いと思うのですが、何か思い入れがあるのでしょうか。
A:全くそうではなく、古い車を使っていたと。地元用の車で、元々中古でもあります。

 記者会見の中身を決めるのは、記者の質問だ。やはり、記者会見の場にはいろんな記者がいたほうが面白いと私は思う。

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畠山理仁さんが参院選選挙取材を終えて、「マガ9」に帰ってきてくれました!
今週も情熱あふれる現場からのコラム、3本をお届けします。
それにしても、記者クラブ所属の記者の質問って、
どういう記事を書くつもりなんでしょうか?
国民は、大臣らの人物横顔より、
もっと知りたいと思っていること、あると思いますが・・・。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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