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2010-08-04up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第21回

2010年7月30日@総務省記者クラブ室受付

「記者室の枕です」
(総務省記者クラブの受付担当職員)

 驚いた。
 原口大臣の発言にではない。私は総務省記者クラブ室の受付で「すごい光景」を見てしまったのだ。それは記者クラブの受付に座る女性職員が、勤務時間中に記者室で使う記者クラブ員のための枕にカバーを縫いつけている姿だった。

 これについては最後に詳しく書くとして、まずは記者会見での原口大臣発言を振り返ってみたい。この日の記者会見冒頭、原口大臣は2011年度予算の概算要求方針について、次のように述べた。

「この厳しい財政状況の中で、すべてをゼロベースで、聖域なく議論していくことが必要ではないか」(原口一博総務相)

 これは「各省一割削減」という菅内閣の方針のもと、総務省政務三役が政策的経費、義務的経費について聖域なく議論していくことを宣言したものだ。

 ちなみに総務省の義務的経費の中には、基地交付金や政党交付金も含まれる。これを本気で“見直す”となれば大変だ。
 しかし、この日の会見で示されたのは、あくまでも「議論していく」という姿勢であり、最終的な判断を示すものではない。今すぐ大ニュースになる話ではなかったので、私もそれほど驚きはしなかった。

 それは会見の途中、原口大臣が度々、
「あくまでも国会のご判断、各党各会派のご判断ということを踏まえながらも、一つの政策材料をお示しすることが必要なのではないか」
 と、国会を重視する発言をしたことからもうかがえる。

 ただし、この日の原口大臣の発言に、全く驚きがなかったわけではない。大臣の口から、政務三役での議論の過程がオープンにされると発表があったからだ。総務省はこれまでにも政務三役会議をフルオープンにしたり、原口大臣が一人でカメラに向かってUSTREAM中継をしたりしてきた。総務省には、いつもなにかしらの驚きがある。

 また、「8月中旬に一つの方向性が出る前に、記者懇談会という形で」(原口大臣)記者たちに説明する機会も設けるという。こちらもフルオープンになったらもっと驚く。ただ、私が8月4日に総務省広報室に問い合わせた時点では「(記者懇談会を)やるのかやらないのかも含めて、こちらには情報が入っていません。まだ未定です」とのことだった。

 この日の会見終了後、私が「記者懇談会にはフリーの記者も出られるのかな」などと考えていたら、同じく会見に出席していたフリーランスライターの小川裕夫さん(Twitter ID: @ogawahiro)から声をかけられた。

「なんで質問しなかったの? 大臣が“聖域なく見直す”と言ったときに、絶対、畠山さんなら“記者クラブに無償提供している記者室も対象か?”と聞くと思っていたのに(笑)」

 いかん。うっかりしていた。また今度聞こう。

 私はそう思いながら、広さ81.6平方メートルの記者会見室を出た。会見室の隣は広さ315.44平方メートルの総務省記者クラブ室だ。会見の参加者が外に出るためには、この前の通路を通らなければならない。
 そして不思議なことに、税金で建てられた庁舎の中に家賃無料で存在する記者クラブ室と通路を隔てるパーティションには、「クラブ員以外立入禁止」「記者室内撮影禁止」と大書された貼り紙が貼られている。もちろんクラブ員ではない私は入れない。

「あ!」

 ここでようやく冒頭のシーンに戻る。総務省記者クラブ室前で、私は「枕」に出会ったのだ。

 ちなみに総務省記者クラブには、受付担当として二人の職員が配置されている。正確に言うと、一人は総務省の臨時職員。もう一人は人事院の職員だ。私は彼女たちの給与を記者クラブ側が負担しているという話は寡聞にして聞いたことがない。

 枕を見つけた私が「その枕はなんですか?」と聞くと、枕カバーを縫いつけていた女性職員は明るく「記者室の枕です。枕カバーを縫いつけています」と答えてくれた。

 そもそも記者室に置かれている机も椅子も、すべては総務省の所有物だ。つまり税金で購入した国民の財産である。枕の所有者が誰なのかは聞き忘れたが、もし総務省の備品だとしたら、女性職員は備品のメンテナンスという職務を忠実に遂行していたことになる。

 だが、記者室の家賃も払わず、記者クラブ員以外を立ち入らせず、税金で便宜供与を受けている記者クラブの人たちはこんなことをしてもらって平気なのだろうか。
 自分たちだけの作業場を確保したいなら、きちんと家賃を払ったらどうだろう。家賃を払わないのであれば、公共のスペースであるべき記者室は、誰もが自由に使えるようにするべきではないのか。

 私は言いたい。

「枕カバーぐらい、自分でつけて下さい」

2010年8月4日@ツイッター

「菅直人首相に、次回記者会見での質問を予告したいと思います」
(フリーランスライター・畠山理仁)

↑首相官邸での会見中、フリーランス記者の撮影は禁止されているため、官邸内の写真ではありません

 2010年7月30日、菅直人首相は首相官邸で就任以来三回目となる記者会見を開いた。しかし、会見開始前、官邸職員からは残念なお知らせがあった。
「本日の会見時間は40分を予定しています」
 前回に続いてまた40分。しかもこの日の菅首相は「冒頭発言」として約17分間、一方的に演説をした。残された質疑応答の時間は約23分しかない。私は今回もずっと手を挙げて質問の機会をうかがった。
 会見の途中、司会進行役の小川洋内閣広報官とは何度か目が合った気がした。しかし、残念ながら当たらなかった。もっと残念だったのは、会見が予定された40分間ではなく、約38分間で終了してしまったことだ。もう一問ぐらい答える時間的余裕はあったと思うが、どうだろう。

 私は会見場から足早に去っていく菅首相の後ろ姿を見て、こう思った。
「会見には参加できるが、もう質問者として指名されることはないんじゃないか?」
 以前にも書いたが、菅首相は参院選投開票日の記者会見(約23分間)の席上、「逃げないでくださいよ!」との記者からの呼び掛けに振り向くこともなく足早に会見場を後にしている。菅首相は記者会見が嫌いなのではないだろうか?

 私は過去、それまで記者クラブ以外にはクローズドだった各省庁の記者会見に参加する際、事前に広報担当者から決まって聞かれたある一言を思い出していた。

「どんな質問を予定されていますか?」

 これは会見記録が一切残らない東京地検の記者会見でもそうだった。東京地検の記者会見参加申込書には、事前に「質問内容」を書き込む欄まであった。私はたいてい「質問したいことはたくさんあるので、その場で決めます」と答えてきたが、おそらく「フリーの記者は何を質問するかわからない」と不安に思われているのだろう。

 当たりたい。質問したい。答えてもらいたい。

 そこで私は考えた。菅首相や官僚のみなさんの不安材料を取り除くためにも、次回の記者会見は事前に質問の内容を明らかにして臨んでみよう、と。

 次回、首相官邸で開かれる記者会見で、私が聞こうと思っている質問は次の通りだ。

「“消費税増税”発言への風当たりの強さを見てもわかる通り、国民の税金の使途に対する目は日に日に厳しくなっています。そうした中、首相は7月30日の記者会見で『無駄の削減』を強調されました。
 ところが現在、首相官邸をはじめ、各省庁が『記者室』と称する無料のオフィスを『記者クラブ』に所属する特定の社だけに提供しております。こうした各記者クラブメディアも『今は増税が必要なほど財政が厳しい』と認めているところですが、不思議なことに、彼らは都心の一等地にある記者室の賃料を一円も支払っておりません。
 さらにある省庁では、記者クラブのために配置された職員が、勤務時間中に記者クラブ員が使う仮眠用の枕を繕ったりしています。
 こうした記者クラブへの便宜供与について、仕分けをしたり、応分の負担を求めたりしていくお考えはありますでしょうか? 今なら記者クラブ側の理解も得られると思うのですが、菅首相のお考えをお聞かせ下さい」

 質問するのは私でなくてもいい。記者クラブの記者さん、質問の機会がありましたら、ぜひこの質問を使ってください。 

追伸:たった今、菅首相の記者会見予定が「8月10日(火曜日)15時から」と決まった。次回も手を挙げます。

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畠山さんのレポートによって、
どんどん「記者クラブ」の既得権益が明るみに出ています。
そして今回はなんと「記者クラブ専用枕」の存在まで!
次回は何が飛び出すか? お楽しみに。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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