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伊藤真のけんぽう手習い塾
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11月3日は、憲法公布60周年でした。この日にちなみ、
全国各地で憲法関連のイベントが開催されました。
神戸で開催された「はばたけ!9条の心」に参加した塾長は、
7500人の大聴衆を前に熱く語ってきました。
いとう・まこと
1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。近著に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら

9条の先進性を世界に広めよう
安倍首相の理解できない改憲理由
 10月31日に、安倍首相は、CNNのインタビューに答えて、憲法改正の必要性について3つの理由をあげました。
1)憲法が制定されたとき、日本はまだ独立していなかった。
2)戦後60年たって時代にそぐわない条文があるのも事実。新しい価値観もある。
3) 広く国民で議論して、多くの人が参加して自分たちで新しい憲法を書き上げることが、時代を切り開く精神になる。

 ということだそうです。どれもよくわかりません。なんだか、自主憲法を訴えていたおじいさんの思いを果たしたいだけのようにしか思えません。特に最後はすごいです。なぜ、憲法という国家権力に対する制限規範が、国民の精神の話になってしまうのか。こういう人が日本の首相であることに、今更ながらに驚きます。
 そして、安倍さんは、時代にそぐわない条文としてはっきりと9条を上げました。


 その後の英国フィナンシャルタイムズのインタビューでは、自分の任期中に憲法改正をめざしたいとも言っています。そのフィナンシャルタイムズは、9条はすでに実体を失っているし、自衛隊が非戦闘分野にしか参加できないという制約を生む要因になっていると言っています。つまり、自衛隊に戦闘もしてもらいたいという意向のようです。9条改憲の本音がうかがわれます。

 安倍さんが時代にそぐわないと指摘した9条ですが、日本国憲法は11月3日で公布60年を迎えました。この11月3日は文化の日です。「国民の祝日に関する法律」にはその趣旨として、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」とあります。自由と平和こそ、日本国憲法の神髄であり、その憲法が公布された日なので、それにちなんで文化の日となりました。明治天皇の誕生日(天長節)とは関係ないと信じたいものです。

 憲法公布から60年、人間でいえば還暦です。たった60歳でもう時代にそぐわない、古くなったからお払い箱というのでは、誰も納得できないでしょう。しかも、まだその能力を発揮しきっていないし、廻りもまだまだ頑張ってもらわなければと思っているときに、突然、時代に合わないから、もう役目はおしまいと言われたのではたまりません。

炸裂! 市民パワー
 憲法とくに9条はこれからますます重要性と、その輝きを増していくものと確信しています。3日には全国で、憲法そして9条を守ろうという様々な団体のイベントが行われました。私も、神戸のワールド記念ホール(8000人収容)で行われた「はばたけ!9条の心」に参加して講演をさせていただきました。133もの団体が協力し、なんと7500人もの市民で巨大なホールが一杯になりました。大阪でも「憲法公布60周年のつどい」に約2000人が参加しましたし、広島でも7000人による盛大な集会が成功しています。大分県別府では、約4000人が参加した護憲大会が開かれました。東京でも「とめよう戦争をする国づくり」を合言葉に300人以上が集まり、パレードをしました。

 
この他にも多くの市民による憲法価値を守ろうという集会や催しが行われたのですが、新聞に報道されたのはそのごく一部でした。いつものことではありますが、改憲を主張する安倍さんの言葉は報道するものの、こうした憲法価値を守ろうとする市民の声はほとんど報道されることがありません。権力批判がジャーナリズムの神髄であるはずなのに、まったく情けないことです。

 なんとなく市民は弱気になりがちですが、実際には、
全国各地で無数の良識の輪が広がっています。全国で講演活動をしている私には、こうした草の根の底力が実感できるので、安倍さんが何を言おうが、それをかえってエネルギーとしてますます元気が出てきます。

 それにしても、今回の神戸のイベントは大成功でした。9条の会よびかけ人のお一人でいらっしゃる澤地久枝さんの講演もすばらしいものでした。何台ものバスで乗り付けてきた団体もありました。7500人は圧巻です。ですが、何よりも私がうれしかったのは、このイベントに
若い人から年輩者までとても幅広い方々が参加してくださったことです。

 単なる講演会ではなく、若者による9条ファッションショーやライブ演奏、コントを取り混ぜて、楽しく9条をアピールする工夫が随所に見られました。9いう数字を身につけて歩けば、「それなあに?」と聞かれ、そこから9条に関する会話が始まるからというので、9をモチーフにした自作のさまざまな衣装を身につけて歩こうという趣旨のファッションショーは、どうやって若者や子どもを味方にするかという点で大きなヒントになります。

「article9」という9条の歌を演奏してくれたJamzipというアコースティックバンドは、11月3日に「Censored(センサード)」というミニアルバムを発売しました。皆さんも是非、買って聞いてみてください。タワーレコード限定販売なのですが、インターネットからも購入できます。

「article9」には、「戦争はもうやめよう/戦争はもういらない」というフレーズが出てくるのですが、この曲をあるFM局では放送してもらえなかったそうです。その理由が「no more war とかpeace」ではなく、
戦争はもうやめようというストレートな表現だからというのです。にわかには信じられないのですが、メンバーのマコト(たまたま同じマコト)から直接聞いたことですので確かです。そこで、放送禁止という意味の「Censored(センサード)」をタイトルにしたとのことです。

 こうして息苦しい時代が始まっていくのです。それをくい止めるためにも、ぜひ、みんなで買って、どうしてもFMでもかけざるをえないくらいメジャーにしましょう。

9条の先進性を世界に発信しよう
 さて、今回の私の話は、文化の日にちなんで、9条を人類の共通文化にするために9条の心を世界に発信しようというものでした。日本はこの100年ちょっとの間に、民主主義や人権という価値を次々と輸入してきました。これからは輸入するだけでなく、9条の価値を文化として輸出しようという主張です。J-popやアニメ、マンガ、ファッションといった日本文化がアジア、そして世界で人気です。こうした文化の力は大きなものがあります。ソフトパワーです。

 軍事力というハードパワーではなく、こうしたソフトパワーによって、日本は世界で重要な役割を果たすことができるはずです。9条の心という新しい文化を世界に発信して、この理念というソフトパワーで世界に貢献していくことができるはずです。

 確かに9条は非常識だという人がいます。ですが、それは先進性の証なのです。18世紀に奴隷制廃止を主張した人が非常識だったのと同じように、今、核廃絶と武力放棄を主張することは非常識なのかもしれません。ですが、今は非常識であっても、100年後は世界の常識になります。
自信をもって、9条の心を世界に広め、次の世代に広げていくことが、今を生きる私たちの責任だと考えます。

 文化の日は、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」私たちの責任を確認する日なのです。

「草の根の底力が実感できるので、安倍さんが何を言おうが、
それをかえってエネルギーとしてますます元気が出てきます」
との塾長の言葉には、 私たちも大いにはげまされます。
ともすれば、弱気になりがちな今の情勢ですが、そんな気持ちを払拭する、神戸のレポートです。
塾長、ありがとうございました!
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