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伊藤真のけんぽう手習い塾
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憲法改正手続き法は、先の臨時国会の期間を経て、大きく内容が変わりました。
何がどう変更され合意がなされているのか?
わかりにくい論点について、塾長がここで改めて、問題点を整理してくれています。
いとう・まこと
1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。近著に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら

憲法改正手続法4
自民党案と民主党案との合意項目など
 安倍総理は次の通常国会において、国民投票法を成立させたいという意欲を持っています。また、民主党の枝野議員も2007年5月3日までには成立させたいと考えているようです。

 民主党としては、改憲論議が具体的になる前にできるだけ中立的な内容の憲法改正手続法を作りたいという純粋な思いと、参議院選挙の前に決着をつけたいという政治的な思惑があるようです。これまでの衆議院憲法調査特別委員会においては、民主党案に自民党がほぼ100%譲歩して議論がまとまってきているような状態です。

 ただ、参議院の方では、こうした議論をする受け皿がまだできていませんし、ずいぶんと衆議院と温度差があるようです。通常国会でどのような展開になるかまだはっきりしたところはわかりません。

 それでは、自民党と民主党で議論が分かれていた部分を中心に整理しておきましょう。

国民の意志が正しく反映される投票方法なのか?
まず、国民投票法を憲法改正の場合に限るのか、それとも国政問題に関する国民投票を含めるのかの点については、民主党の方が少し譲歩して、憲法改正に限定するが、予備的国民投票(憲法改正の対象となりうるような国政問題についての国民投票)について今後、検討することを付則に明記することになりそうです。

 次に、国民投票の実施期日が、国会の発議から60日以後180日以内となっています。この点、私は国民が冷静にじっくり考えるためには、国会の発議から国民投票まで数年の熟慮期間が必要であると考えていますから、これでは短すぎます。

 一時の集団ヒステリー状態で間違った判断をしないように、冷静になって頭を冷やす期間を設けなればなりません。特に9条のように一度放棄してしまったら、もう事実上は二度と取り戻すことができないような価値については、慎重に考える期間を保障しなければならないはずです。

 投票権を持つ年齢については18歳以上となります。また、3ヶ月要件(住民票が3ヶ月同じところにあること)は適用されない予定です。これに伴って、通常の選挙権も民法や少年法の成年の概念も変わることになります。但し、飲酒、喫煙についてはまだ議論されていないようです。

 投票の方法はいくつかのテーマごとにまとめて、賛成か反対かを問われることになります。賛成に○、または反対に○をつけるか、一方を×で消す方法となりそうです。

 投票の方法は「内容において関連する事項ごとに」行うというものですが、何を持って関連するというのか不明です。区分の仕方によっては、国民の意思が正しく反映しない危険性があります。

 仮に、条文ごとでも正確に民意をはかれない場合も出てきます。たとえば、自民党新憲法草案の9条の2で自衛軍を創設していますが、自衛軍の創設には賛成だが、2項のシビリアンコントロールが不十分な点には反対だという人は、9条の2という一括の投票では意思表示できません。また、9条の2と76条3項(軍事裁判所の設置)をセットにするのかどうかなど、実際の発案の仕方がとても重要となってきます。

 そして、有効投票ではなく、投票総数の過半数で承認があったものとすることになります。この点でも自民党は譲歩しました。
私は有権者総数の過半数とすべきだと考えています。それは、国会の発議に対して、国民が賛否の意思を表示するわけですが、硬性憲法の下では、改憲するという積極的な意思がどれほどあるかが重要だからです。

 あくまでも現状維持が原則であり、改憲が例外なのですから、本来なら有権者の中でそのような例外の必要性を感じる人がどれほどいるかが問題なはずです。よって、過半数の分母は有権者であるべきと考えます。

 また、最低投票率の定めの予定はされていないようですが、少なくとも最低投票率の歯止めをかけておかなければ、有権者のごく少数の賛成で改憲が承認される可能性が生じてしまいます。最低投票率に達しないときには、国民が積極的に承認するという意思を有していなかったということになるのですから、改憲が否決されるべきです。

 国民投票運動に際して、公務員の政治的行為の制限規定は適用除外とします。ただし、選挙事務関係者に限っては国民投票運動ができません。また、公務員と教育者の地位利用による投票運動の制限も罰則は設けないものとするようです。 前回述べた広告放送の制限は、投票日の7日前から制限するか、14日前から制限するか、発議の日から制限するかの議論がまだ残っています。

 また、広告の条件に関する配慮として、放送事業者および新聞社は、国民投票運動のための広告を放送し掲載するにあたっては、料金その他の条件について、賛否いずれの広告であっても同等のものとするよう配慮するものとするという規定が検討されています。

 ここは出稿量も同等とする趣旨か、どの程度の料金を想定しているのか、まだまだ不明な点が残っています。国民に提供される賛否の意見の情報量が資金力によって大きく差が開くようでは公平とはいえません。

 政党などによる放送は、賛成の政党、反対の政党の双方に対して、同一の時間数および同等の時間帯を与えることになります。また、政党は当該放送の一部をその指名する団体に行わせることができるようになります。

 新聞広告についても政党による無料の意見広告枠を設けるかどうかは、意見が分かれています。民主党はテレビのみでよいとしています。

 買収行為に対する罰則は、組織により、多数の投票人に対して行うものを罰則で規制する案となっていますが、条文にあいまいさが残らないか、なお検討が必要です。

 最後にこの国民投票法は公布の日から起算して3年を経過した日から施行するものとなっています。この法律ができても3年は改憲がないと思っていると大間違いです。その前でも実質的な改憲論議は進みますし、なによりもこれは法律の規定にすぎませんから、いつでもこの施行期日は改正できます。

 さて、こうしてみると国民投票運動の規制はかなり緩和されましたが、それでもまだ問題は数多く残っています。これからもしっかりと問題点を指摘していかなければなりません。

 昨年末に、「ピンチはチャンス」だと書きました。
 私自身は必ずしも、ピンチをチャンスにしきれませんでした。特に安倍政権になってからの教育基本法と自衛隊法の改正問題について、もっと声を大きくしなければいけなかったと反省しています。

 ですが、他方で全国各地の市民の皆さんたちの活動にはいつも勇気づけられてきました。今後、いわゆる団塊の世代の方々がこうした活動に積極的に参加され、また、一方で国民投票権や選挙権が18歳になるであろうことから、高校生などの若者たちが今まで以上に関心をもってくれることを期待しています。

 昨年も書きましたが、憲法は「9条を守って終わり」憲法価値は、日々実践してこそ意味を持ちます。平和を語ること、そして一人一人を大切にすること、誰の命も大切にすること。青臭いようでもこうしたことを真正面からもっと訴えていくことがすべての原点であるような気がします。2007年が世界中のすべての人々にとってよりよい年になりますように。

「9条を守って終わりではない」という塾長のことばを、
2007年はより具体的に、
現実的に考えていきたいと思います。
塾長、2007年もよろしくお願いします!
ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
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