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伊藤真のけんぽう手習い塾
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奇妙なほどの暖かい毎日が続くこの冬。
頭の隅に、どうしても「地球温暖化」の言葉がよぎります。
日本国憲法の条文を「地球環境」という切り口から読み解くと、
どうなるでしょうか?
いとう・まこと
1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。近著に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら

環境破壊と憲法
温暖化防止への取り組みが進まない理由
 最近の異常とも感じられる暖冬の中で、環境と憲法の関係を考えることがありました。アル・ゴア元アメリカ副大統領が世界中で地球の未来の危機を訴えて講演をしています。現在のような地球環境の汚染が進むと、地球温暖化によって北極の氷が解けて今後50年から70年で北極は消滅して海面の水位が6メートル上昇すると予測されています。東京のかなりの地域が水没します。

宮崎県を悩ましている鳥インフルエンザや、北海道の竜巻、そして雪の降らない東京も地球の危機の証といえそうです。気候の変化はゆったりしていて気がつかないものですが、さすがにこれほどの暖冬を経験してしまうと、ゆでガエルのように悠長にしてはいられません。

それにしても、地球温暖化の問題がこれだけ顕在化しているのになぜアメリカ政府は本気で取り組まないのだろうかと怪訝に思う人も多いと思います。ゴア氏の「不都合な真実」(映画ではなくてランダムハウス講談社の本の方)に答えが書いてあります。

(温暖化防止対策は)一部の力の強い人々や企業にとって特に不都合であり、歓迎せざるものなのだ。そういった人々や企業は、地球をいつまでも住める場所にするには、自分たちに巨額のお金を儲けさせてくれている活動を、大きく変えなくてはならない、ということを十分に承知しているのである。こういった人々―特に、そういった意味で最も問題となっている2,3の多国籍企業の人々は毎年何百万ドルもの資金を費やして、温暖化に関して人々を混乱させる方法を考え出そうとしている。・・・ブッシュ・チェイニー政権は、この連合から強力な支持を受けており、その利害を満たすためにできることなら何でもやっているようである。」

この構造は軍需産業の保護と戦争の関係とそっくりです。軍需産業を存続させるためにはアメリカは世界中での戦争を止めるわけにはいかないのです。それが地球の利益のために許されないことは言うまでもありません。

環境問題でも「最先端」をいく前文と9条
 地球温暖化や環境破壊に対して、私たちの憲法は何かコミットしているでしょうか。確かに日本国憲法には、環境権という個人の人権レベルの規定は明文として見あたりません。しかし、13条や25条によって十分に保障されています。こうした個人レベルの環境権保障とは別に、地球環境に配慮した発想を前文と9条の中に読みとることができます。

1つは戦争という国家による最大の環境破壊を禁止している点。これだけでも地球環境の保護にとって最大の味方となります。原爆や劣化ウラン弾のみならず、通常兵器であっても土壌、水質、大気を限りなく汚染します。化石燃料を大量に消費し、まだまだ使えるあらゆる物を破壊して無駄にします。地球にとっては、戦争の名目は関係ありません。たとえ自衛戦争であっても、人道のための戦争であっても環境を破壊し温暖化を促進する点ではまったく同じです。9条はすべての戦争を放棄することによってこれらを防ぎます。

2つめは、人類にとっての脅威は戦争だけではないという思想を明確に示している点です。憲法前文第2段において、「われらは、全世界の国民が恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とあります。

ここには、世界の構造的暴力(飢餓、貧困、人権侵害、差別、環境破壊)をなくすために積極的な役割を果たそうとする決意が読みとれます。つまり、「国どうしで戦争なんかして戦っている場合じゃないよ。もっと大きな地球規模の危機、すなわち人々の本当の脅威に対して、人類として立ち向かっていかなければダメでしょ。」という高い意識レベルを読みとることができます。

もちろん、憲法制定当初はそのような意識はなかったかもしれません。しかし、現在の地球の状況に照らし合わせて解釈するとこのように理解することは十分に可能です。こうしてみると、憲法の前文と9条は不十分ながらも、地球や人類を意識した最先端をいくものであることがわかります。

資源のない日本が生き残るには、物量に頼る物質的、軍事的強さではなく、智恵を生かし、理念において尊敬される国であることをめざそうとしているのです。軍事大国でなくても、十分に国際社会で名誉ある地位を占めることはできるはずです。いくらアメリカや財界の要請だからといって、何もわざわざ憲法まで変えて、アメリカのマネをして環境破壊国家になる必要はありません。

環境保護の視点からも、「最先端」をゆくといえる平和憲法。
憲法を変えることよりも、その理念を実現に近づけてゆくことこそが、
まさに「国際社会で名誉ある地位を占める」ことにつながるのではないでしょうか。
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