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2012-05-09up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第2回

フランスの原発に
パラグライダーで侵入? 
こんなことしていいの?(前半)

●祝!原発ゼロ

 5月5日、42年ぶりに日本から原発の灯が消えました! 祝、稼働原発ゼロ! これ以上にない「こどもの日」のプレゼントでしたね。

 稼働原発ゼロについてのグリーンピースの声明は、事務局長ブログで書いたので、そちらを読んでいただくとして、第二回目の「カエルの公式」では、ゴールデンウィーク中に日本でも報道され、多くの人が「なぜ???」だった、パラグライダーで原発上空を飛行するというグリーンピース・フランスの活動を紹介します。

●舞台は大統領選挙に揺れたフランス

 フランスでは5月6日に大統領の決選選挙が行われ、最大野党・社会党のオランド前第1書記が右派与党・国民運動連合から再選を目指すサルコジ大統領を破り、当選しました。

 フランスが原発大国だということは、今回の東電福一原発事故関連のニュースでも報道されたので知っている人も多いはずです。大統領選挙では、オランド氏が、フランスの発電に占める原発依存度を、2025年までに今の75%から50%に引き下げる目標を掲げ、サルコジ氏は現状の原発政策の維持を訴えていました。オランド氏も、古い原発を廃炉にしていくという方針ですので、基本的には原発政策維持ですが、原発大国のフランスがオランド氏を選んだことは大きな意味を持ちます。

フランス大統領選の前には、候補者同士の公開テレビ討論会が行われます。特に、今回は一回目の投票で決着がつかず、オランド氏とサルコジ氏の決選投票になったため、テレビ討論会は多くの注目を集めました。

●テレビ討論会にあわせたグリーンピース・フランスの活動

今回ご紹介するケースは、この国民的注目が集まるテレビ討論会に合わせて行われたグリーンピース・フランスの活動です。

 さて、まずは質問。

 もしあなたがフランス人で「原発は危険だ」との意見を大統領候補者らに届けたいと思ったらどうしますか? 

A: 候補者や候補者の所属する政党に手紙を書いたり、署名を持っていったりする
B: デモや街角で訴える
C: 新聞やネットにあなたの意見を投稿する
D: 専門家と協力して原発の安全性について科学的な論文を作成し発表する

 もちろん、このA からDすべての方法が重要ですが、これだけで、本当に市民の意見にしっかりと耳を傾けてくれるか疑問ではないですか? 原発の安全性は、国民全員にしっかりと知らされ、その上で大統領選という重要な選挙をむかえるべき話題です。

 そんなときに、グリーンピース・フランスは何をしたのでしょうか?

答) 大統領候補者のテレビ討論会の当日に、エンジン付きのパラグライダーでフランスの原発上空を飛行して、航空機が簡単に原発上空を飛行できる、つまり墜落事故、テロなどの可能性があることを証明した。

「え、そんなことして良いの?」という声がすぐに聞こえてきそうです…。

●目的は手段を正当化しない?

 世界中にこのニュースが報道され、日本でもNHKなどで報道されました。実際に日本語のツイッターなどでの反応を見ると、その行動を支持する意見も予想に反して多かったのですが、以下のようなコメントもありました。

「目的が手段を正当化するとでも思っているのか?」

「ここまでくると反原発派というよりテロリスト。 もちろん逮捕されましたが 自分でも自分が何をしているのかわかっていないんだろう…」

 このような「自分が何をしているのかわかっていない」という批判も理解できます。しかし、この活動について詳しく見てみると内容、タイミング、コミュニケーション方法がよく計画され考えられていることがわかります。

●航空機墜落事故やテロは想定外?

 まず、背景には、脱原発を早々と決めたドイツが、原発の安全テストの中で飛行機の墜落事故やテロを検討し、その結果、テロなどから原発を守るのは事実上不可能だという結果に達したことがあります。これが、ドイツが脱原発の方針を決める大きな要素となりました。

 ところが、フランスの安全テストには、航空機墜落事故やテロなどの想定がされていません。フランスは、原発のテロ対策は十分だという立場なのです。地震を「想定外」として対策を怠った日本に似ていますね。

 つまり、エンジン付きのパラグライダーで一人の活動家が原発上空を飛行するという直接的な行動で、フランスとドイツの原発の安全性対策の違い、原発の警備のむずかしさを、これ以上にないタイミングで一瞬にして世界に知らせることができたのです。しかも、衝撃的な方法であるためにニュースで広く報道され、大統領候補者はこの件についてコメントせざるを得なくなったと同時に、国民にも問題点が広く知られました。

 また、グリーンピース・フランスはこの行動とともに、航空機事故の危険性やテロ対策の難しさについての科学的なレポートも発表し、行動を科学的な面からもしっかりと意味づけしています。無鉄砲な行動に思えますが、入念な計画、科学的なバックアップがなくては行うことができないのです。

 大統領選挙の結果として、原発への依存度を減らそうと訴えたオランド氏が当選したので、グリーンピース・フランスの目的はある程度果たしたと言えるでしょう。

 さて、それでは、パラグライダーで原発上空を飛んで、敷地内に着陸した活動家はどうなったのでしょうか。目的のために手段を選ばないと国民からも批判されたのでしょうか?

 答えは、NOです。なぜでしょう? もしこれが日本であれば、徹底的にこの活動家が批判され、本来問題にされなければいけない原発の安全性よりも、活動家への批判がワイドショーを独占するかもしれません。でも、なぜフランスではそうならないのでしょうか?

 次回のカエルの公式で、さらに詳しく説明しますのでお楽しみに。

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フランス発のこのニュース、気になっていた! という人も多いのでは。
何か直接的な被害を与えたわけではまったくないけれど、
佐藤さんも指摘しているとおり、
もし日本で同じことをやれば、一気に批判の嵐、となりそうです。
では、フランスでそうならない理由とは? 次回、ご期待を。
ご意見・ご感想をお寄せください。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato