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今回は、前回に引き続き、日本で兵役外労働をしている
ドイツの若者の生の声をお届けします!


第5回
ドイツ
日本で兵役外労働に就くドイツの若者たち その2

「兵役よりも“議論すること”を義務づけてほしい」芳地隆之
ほうち たかゆき 1962年東京生まれ。
大学卒業後、会社勤めを経て、東ベルリン(当時)に留学。
東欧の激変、ベルリンの壁崩壊、ソ連解体などに遭遇する。
帰国後はシンクタンクの調査マン。
著書に『ぼくたちは革命の中にいた』(朝日新聞社)
『ハルビン学院と満洲国』(新潮社)など。
ドイツはなぜ、イラク戦争に反対した?
ドイツでの兵役拒否の3人
写真左から
ダニエル・ザイデ(Daniel Seyde)1981年ベルリン生まれ
ガブリエル・クルーゼ(Gabriel Kruse)1985年リューベック生まれ
マルクス・ケーニヒシュタイン(Markus Koenigstein)1984年フランクフルト生まれ

――日本は北朝鮮や中国の軍事力を脅威に感じている。
  だから兵役義務が必要だという声もあるんだけど。

ダニエル

北朝鮮は危険だから? それはどうかなあ。
ぼくがこう考えるのは、ドイツが日本と違って、
隣の国からの脅威を感じないからかもしれないけど……。
いまは「北朝鮮の脅威があるから日本には
アメリカ軍の助けが必要」ということでしょ。
ガブリエル ドイツだってアメリカへの依存は大きいよ。
EUの存在のおかげで(アメリカと多少)距離を
とれるようになったけど、
アメリカが「イラクの次の脅威は中国だ。
アメリカとヨーロッパは手を組んで
中国に対抗しなければならない」なんていう
プレッシャーをかけてこないとも限らないじゃないか。
――東アジアの問題はアメリカとの関係抜きでは考えられない。
ガブリエル 日本の安全保障を考えた場合、
強いパートナーをもっていなければ、
自らを強くしなければならない。
日本がアメリカ抜きで自分たちの安全を考えるなら、
軍隊をもつべき。
でも、そうしたくないのであれば、
アメリカとの関係は軍事だけじゃなくて、
経済や文化の面での交流をもっと盛んにした方がいい。
いまアメリカは世界のナンバーワン。
どの国だって(アメリカとの関係を)よくしておきたいと
考えている。
中国だってそう。
だから(日本が)アメリカと距離を置こうと考えるのは
おかしいと思う。
ダニエル (いろいろな国が)アメリカとの関係を大事にしたいというのは
経済的な理由さ。
ガブリエル それだけじゃないって。
マルクス ドイツはイラク戦争に反対して、
政治的にはアメリカとの関係はぎくしゃくしたけど、
(米独)経済関係はそれほど悪くならなかった。
――なぜドイツはイラク戦争に反対したんだろう?
マルクス (2002年10月に)議会選挙が控えていたからだと思う。
ドイツの政府と国民では考え方は違っていた。
国民の多くは戦争に反対。
与党(ドイツ社民党と緑の党)は世論に背を
向けることができなかった。
選挙を目前にしていなければ、
ドイツもアメリカの圧力で派兵していたかもしれない。
憲法9条が定める「国際紛争を解決する手段」のこれから
――戦争放棄の日本国憲法第9条についてはどう思う?

マルクス

いいんじゃない。
これからも、もってった方が。
――日本では軍隊をもって
  「普通の国」になるべきだと考える人も多いけど。
マルクス ぼくは、これからの戦争は先進国同士ではなくて、
金持ちの国と貧乏な国の間で起こると思う。
ならば、日本の憲法9条が定めてるっていう
「国際紛争を解決する手段」は、
貧困の問題を解決することになるんじゃない?
ガブリエル 確かに北朝鮮や中国の脅威があるんだろうけど、
日本がさらに軍備を強化すれば、
あちら側も脅威を感じるわけだよね。
日本がイラクに自衛隊を送ったことだって、
彼らは脅威と感じているかもしれない。
もし日本が独自の軍隊をもてば、北朝鮮だって
「俺たちも軍備を増強しよう」ということになる。
そうしたら日本にとって、(北朝鮮は)いまよりさらに
危険な存在になる。
ダニエル いずれにしたって戦争は解決策にならないよ。
日本は一度失敗しているじゃないか、ドイツと同じでさ。
ドイツと日本の「自国の過去」のとらえかた
――ドイツは戦後、ポーランドなどとどう付き合ってきたの?

ダニエル

たとえば、1970年に(当時の西ドイツの首相)
ウイリー・ブラントがポーランドを訪問して、
ワルシャワのユダヤ人ゲットー跡の記念碑の前にひざまずいた。
過去の戦争の謝罪の意味で。
ドイツとポーランドの若い世代なら、
戦争に対する見方でぶつかるということはほとんどないと思う。
戦争の話をすれば、ポーランド人は「ああ、君たちの国はそういうことを過去にやったんだよな」っていうくらい。
ガブリエル でも年配の人は違う。
ポーランドだけじゃなくて、フランスも。
過去を覚えている人は多い。
ダニエル (戦争を)経験した人としてない人では違う。
中国や朝鮮の人は(フランス人やポーランド人が
ドイツの過去を考えている以上に日本の)過去を考えて
いるんじゃないかな。
――加害者よりも被害者の方がよく覚えている。
ダニエル そう。(中国や朝鮮の人は)
日本に謝罪の気持ちが薄いと感じてると思う。
ガブリエル 歴史は歴史。ドイツは被害を与えた国に謝罪した。
とりわけ ユダヤ人虐殺についてはたくさん議論があった。
日本では、そういう議論が起こってる?
 あるとすれば、たいていは中国から起こされるんじゃない? 
ドイツでは(自国の過去についての)議論はまず
ドイツ国内で起こる。
日本では国外から起こる。
そこが違いであり、問題だと思う。
ダニエル 島国的な考え方なのかな。
(日本と違って)ドイツは地続きでたくさんの国と国境を
接しているからさ。
ベルリンから東へ150キロ車で走ればポーランドだし。
国境を越えてドイツ人が安い商品を買いに行くのだって
普通だから。
ガブリエル いまの話と買い物は関係ないだろ。
ダニエル そういうことができるのと、
できないのでは(人の意識は)違ってくるさ。
ダニエルとガブリエルガブリエル(左)とダニエル
――でも、外国からナチス時代のことを何度も言われると、
  「あの時代にだっていいことはあった」とか言いたくならない?
ダニエル よかったのは(ヒトラーがつくらせた)
アウトバーン
くらいかな(笑)。

編集部注
※ドイツとオーストリアにまたがる、自動車専用の高速道路網
――たとえばヒトラーの伝記映画をつくっただけで外国から
  「ドイツはヒトラーを評価している」なんて
   批判されることもあるでしょ。
ダニエル だから、ガブリエルが言ったように、
歴史は歴史として見るべきということだよ。
歴史にはいいことばかりじゃない。
だから悪い過去を見えないように、
どこかへ追いやるべきではない。
そういう時代があったことを思い出さなければ、
同じことを繰り返す。
日本の歴史教科書の話を聞いたことがあるけど、
「戦時の日本は、いままで教科書で書かれていたほど
悪いことばかりやったわけじゃなかった」というのも
採用されてるんだっけ?
今、ドイツの歴史の授業が熱い!

ガブリエル

ドイツでは歴史は8年間勉強するけど、
その半分はナチスドイツの時代がテーマなんだ。
マルクス それはいまの話だろ。
戦後はぜんぜんなかった。
――あのころはまだタブーだったのかな。
マルクス 敗戦直後だから、「あの歴史が何だったのか」なんて
振り返る余裕もなかったんだろうし。
ガブリエル いまの(ドイツの学校での)歴史の授業は熱いよ。
思い出すのは、各自が戦争の写真をもちよって、
1年間議論を続けたこと。
なかには目を覆いたくなるような写真もあった。
ところが、
2〜3年前に交換留学で日本の学校の授業を受けたとき、
日本人の先生に(日本の) 戦争について質問されたんだ。
「こういう事実は知ってるかい?」って。
だから「知ってます」って答えた。
そうしたら、「何で知ってるんだい?」
「いや、(このくらい知っているのは)普通です」
「どうして普通なんだい?」
「どうしてって言われても……」(笑)。
日本の若い世代は自分の国が戦争をやったことは知っていても、どんなことをやったかは知らないんじゃないかな。
ぼくは子どものころ、おじいちゃんから戦争のことを
よく聞かされたもの。
本人にはつらい話だったみたいだけど。
――日本では、つらいから話したくない
  という人の方が多いのかもしれない。
ガブリエル 日本人は天皇のために戦った。
ドイツ人はヒトラーのために戦った。
でも、ヒトラーは外国人(オーストリア人)だった。
だから、日本人の方があの戦争をポジティブにとらえる人が
多いのかな。
ダニエル&
マルクス
うーん……。
――今日はいろいろ話してくれてありがとう。
  それにしても、君たちぐらいの年齢でそうした議論をするのは
  ドイツでは普通なの?さっきの日本人の先生の質問みたいだけど。
ダニエル ぼくたちが特別なわけじゃない。
フツーだよ。
ただ、ドイツ人のキャラクターでいえば、
日本人よりやかましいね。
でも、イタリア人やスペイン人はぼくらの上を行く(笑)。
ガブリエル (ドイツの学校の)授業では、右のやつも、左のやつも
がんがん発言する。
――「政治の話はしないでおこう」っていう雰囲気はない?
  「こんなこと言ったら変に思われるから
  (言うのを)やめておこう」とか。
ダニエル 考えていることを言わないというのは、あまりないなあ。
マルクス 日本人に政治の話題は避けようっていう傾向があるんなら、
その逆を『マガジン9条』でやればいいじゃない。
たとえば、学校で週1回は議論の授業やろうと提言するとか、
兵役じゃなくて、議論を義務づけるとか。
――あっ、それいいなあ(笑)。
  『マガジン9条』には若い世代の人たちに登場してもらいたいんだよね。
  たとえばミュージシャンや俳優……。
ガブリエル B'zとか?
――B'z知ってるの?
ガブリエル いいよお、B'zは。
マルクス 浜崎あゆみ(に登場してもらうっていうの)はどう?
――へえ、「あゆ」が好きなんだ。意外だなあ。
マルクス いや、これは書かないでくれても……。
ダニエル&
ガブリエル
何言ってんだよ。
「考えていることは言わなきゃいけない」って話を
したばかりじゃないか(笑)。
マルクス&ガブリエル実は“あゆ”が好きな
マルクス(左)
10代から20代前半ながら、日本の過去や現状、日本の憲法に至るまで
これだけ知識があり、しっかりと自分の意見も持っている彼ら。
しかも、彼らがごく普通のドイツの若者、ということに衝撃を受けました。
私たちはもっと自らの国を知り、
身近な人ともっと話し合わなければなりませんね!
ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
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