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なぜフランス国民はEU憲法批准の是非を問う国民投票で「ノン」と言ったのか?
それは、政府の投票の進め方に対する「ノン」だった、
と第8回に登場してもらったソフィーさんは言います。
国民投票を行う上で最も大事なことは、政府が「説明責任」を果たすこと、
そして、実際の投票では取り返しがつかないことにならないよう、
国民一人ひとりが一票を投じること−−
国民投票経験者である彼女の言葉は、私たちに重く響きます。


第15回
ロシア
「なぜフランスの国民投票で国民は“ノン”と言ったのか?」ソフィー・モンシー
ドミトリー・ヴォロンツォフソフィー・モンシー(Sophie Moncy)
1967年、フランス・ノルマンディ地方、ルーアン生まれ。
現在、ルーアン市にある米国系化学品メーカーの
フランス支社に勤務。
投票後は後戻りできない

フランスではすでに数回、国民投票が行われています。最近のEU憲法批准の是非に対する国民投票では、反対票が過半数を超えましたが、私自身、フランス国民が批准自体に反対なのかどうかはわかりません。多くの有権者の「ノン」は、批准を進めようとするフランス政府のやり方に対するものだったと思うからです。

新しいEU憲法の草案は膨大かつ詳細で、多くの有権者は読むことができない、あるいは読もうとしませんでした。そのため政府はテレビやラジオ、新聞などを通して、世論を形成しようとしましたが、国民の多数は、新しい憲法が――中央集権化といったような――何らかの問題をもたらすのではないか、と思ったのです。

私たちは何のために投票するのか? EU憲法批准の賛成派、反対派を問わず、それをきちんと説明した政治家はいませんでした。(国民投票の実施は現与党が)次期大統領選を念頭に置いたものだともいわれ、国民はこの国民投票に関心をもてなかったのです。

国民投票とは、自国だけでなく、諸外国にとっても重要な争点に対して国民が自らの意思を表明することです。政府は、国民投票を行うにあたって、その意味を丁寧に説明する義務があります。なぜなら投票後は後戻りできないのですから。

私は、国民投票を行うのであれば、政府が「争点について十分説明し、ウイであろうと、ノンであろうと、国民の判断を遵守し、それに正当性を与えるとした上で、国民投票のテーマに関する議論を準備する」ことが不可欠だと思います。

とはいえ、選挙もしくは国民投票の結果は常に読みがたいものです。大事なのは有権者が一票を投じること。EU憲法を巡るフランスの国民投票では、過半数が「ノン」と言いましたが、同時に多くの人々が棄権しました。選挙権のある国でどうしてそれを行使しないのか。投票しなかった人が、後で何かを言っても、どうしようもありません。

国内だけでなく世界を見て一票を

日本で行われた衆議院選挙での与党圧勝のニュースは知っています。でも、その後、憲法改定のための国民投票が計画されていることは知りませんでした。なかでも戦争放棄の9条が改定の対象になっていると。

私たちは本当に戦争やテロをなくそうとしているのでしょうか? 私たちが武器を製造し、それで儲けている限り、残念ながらそうは思えません。

戦争当事国は、えてして「戦争をするのは平和をつくり上げるためだ」と言います。ところがある国、もしくはある勢力が戦争を始めると、それは「テロリズム」と呼ばれます。彼らはいつ、どこで、どう戦うのか? そもそも彼らは何者なのか? それがわからず、不安に襲われる強国が、彼らに「テロリスト」というレッテルを張るのです。彼らが何と戦おうとしているのか、そして、彼らはなぜ自分たち(強国)が製造した武器を使っているのか、を理解しようともせずに。

フランスではアラブ系の人々が差別的な目で見られることもありますが、私たちのそうした行為こそが、テロリストに勝利を与えることになると思います。

戦争やテロを生まないために、国民投票で一票を投じる。後の祭りにならないために。

選挙と違って国民投票はやり直しができません。
ましてそれが自国だけでなく、隣国にとっても重要な争点を扱うのであれば、
私たちは外国からの視線も忘れてはならないでしょう。
ソフィーさん、ありがとうございました。
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