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国民投票は国民が提議して行うものと、
国民投票の長い歴史をもつスイスのリチャード・デーラーさんは言います。
対して今の日本の動きは?
郵政民営化の是非を問う国民投票のように行われた衆議院選挙、
その後、にわかに始まった憲法改定のための国民投票法案づくりの動きは、
「国民投票の国」からはどのように見えるのでしょうか?


第18回
スイス
「国民が提議するスイス、議会が発議する日本」リチャード・デーラー (Richard Daehler)
リチャード・デーラーリチャード・デーラー
(Richard Daehler)
1933年チューリッヒ生まれ。
スイスのダンザス運送会社に勤務。
日本支社社長を経て、1995年末に定年退職。
その後チューリッヒ大学に入学し、日本学、
ロシア語、文学を専攻。
2002年に同大学修士課程を修了。

スイスで国民投票制度が導入された1848年以来、私たちの国では、国民投票が憲法改定だけではなく、様々な法案の成立や法律の修正、あるいは国や地方自治体による学校や道路の建設、鉄道インフラの整備といったプロジェクトへの融資の是非などを決める手段になっています。

国民投票が行われるには、90日以内に5万人以上の署名を集めるか、もしくは国内8州以上(スイスは26の州から構成される連邦共和国)が提議しなければなりません。ただし、連邦憲法(スイスには共和国連邦憲法と州憲法がある)の改定に関わる国民投票を実施するには、有権者10万人以上の署名が必要となります。これは国民が主導権をもって憲法の変更を求める権利として「憲法イニシアチブ」と呼ばれています。スイスの国民投票は国民の発議によって行われるのであり、議会が発議して憲法改定の是非を国民に問う日本の国民投票法とは、根本的な発想が異なります。

国民投票の目的

国民投票には、中央政府、議会、官僚の権力を制限し、国民の責任感を強めるという考え方が基本にあります。スイス議会は国民の要求に応じて憲法改定の草案を作成する立場であるに過ぎません。

スイスは二院制ですが、衆議院が参議院より力をもつ日本の国会と違い、上下院は同等の権利をもっています。国家元首は大統領ですが、アメリカやフランスと違って、大臣の任命権をもたず、内閣は閣僚7名が毎年1月より1年交替で務める輪番制になっています。主要政党には自民党、キリスト党、社会党、自由党などがありますが、彼らは連立協定を結ばずに内閣を構成しているため、与野党は存在しません。7名の閣僚が意思決定を行うため首相もいないので、日本のように首相が議会を解散し、総選挙に打って出るようなことはないのです。

郵政民営化法案には2〜3年かかる

国民投票には時間とコストがかかります。

たとえば、スイスで郵政民営化を行おうとする場合、その是非は国民投票で決められます。先に行われた日本の衆議院選挙では、郵政民営化が国民投票のテーマであるかのように扱われましたが、仮に郵政改革法案をスイスで通すとしたら、数ヶ月どころか、2〜3年はかかるでしょう。ちなみに、ある憲法条項の改定に50年もかかったこともあります。スイスで憲法を改定するには長い時間がかかるのです。

日本に国民投票制度は合うか?

私自身は、日本国憲法9条の原文は現実からいささか離れたものになっていると思います。日本が他国へ軍隊を派遣することに極めて慎重でなければならないのは当然のことであり、それは非軍事的な措置に限られるべきですが、どこの国にも自衛権はあるわけで、そのための軍隊は存在しうるというのが私の考えです。

だからといって、(日本国憲法9条の改定の是非を問う)国民投票がいまの日本の政治文化に合うとは私には思えません。いや、政治文化だけではなく、多くの時間とコストのかかる国民投票に多くの日本人は納得するでしょうか?

日本で国民投票を行うならば、国民自らが提議するという主体性と国民投票に対する信頼感を育まなければならないと思います。

定年退職後に日本語の勉強と日本研究を始めたというデーラーさん。
日本も自衛権を持った方が良いとのことですが、
9条改定を巡る国民投票法の制定には、
じっくりと時間をかけて議論するべきとの意見です。
デーラーさん、ありがとうございました。
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