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湾岸戦争終結直後の1991年3月、オーヴァビー教授は
オハイオ州アセンズ市に「第9条の会」をつくり、
「日本国憲法第9条」を世界中の人々に伝える運動を 始めました。
その後は、日本にも訪れ、全国各地で講演会、
シンポジウム、座談 会などに参加しています。
下記はそのオーヴァビー教授が日本で行った
講演用の ペーパー(http://www.article9society.org/unclesam.pdf)を、
ご本人の承諾 を得て要訳したものです。
なお時に教授は、写真のように、合衆国憲法を体現するかのような
「アンクル・サム」のコスチュームで講演されます。


第22回
ドイツ
「9条が戦争への誘惑を断ち切る」チャールズ・オーヴァビー
チャールズ・オーヴァビーチャールズ・オーヴァビー(Charles M. Overby)
1926年、アメリカ、モンタナ州生まれ。ミネソタ大学卒業。
B29のパイロットとして朝鮮戦争に従軍後、
ウィスコンシン大学で博士号取得(機械工学)。
現在、オハイオ大学名誉教授。湾岸戦争終結直後の
1991年3月にオハイオ州アセンズ市に「第9条の会」をつくり、
「日本国憲法第9条」を世界中の人々に伝える運動を始める。
「平和のための在郷軍人の会」の一員。過去数回日本を訪問し、
全国各地で講演会、シンポジウム、座談会などに参加。
主な著作に『地球憲法第9条』(“A Call for Peace The Implications of Japan's War-Renouncing Constitution”)。
ウェッブサイト“Article 9 Society”(http://www.article9society.org/)。
  日本国憲法第9条は、第二次世界大戦におけるホロコースト、そしてヒロシマ、ナガサキの放射能の灰から舞い上がった不死鳥のようでした。戦争と呼ばれる残酷なゲームに終止符を打つための、日本人だけではなく、人類すべての声だったのです。私は9条を、私たちが私たちの社会をつくりあげるための小さくとも確かな道標であり、そこにいたるまでには、いくつかの重要な歴史の通過点があったと思っています。

  そのひとつは1787年に生まれたアメリカ合衆国憲法です。合衆国憲法の成立は、ヨーロッパでいわゆる啓蒙思潮が盛んになった時代に当たります。その哲学的な運動は、従来の学説、教義、伝統といったものを疑う理性を大切にするものでした。そうした影響を受けて生まれた合衆国憲法は、君主制や神政よりも代議制民主制を、宗教的なドグマよりも政教分離を重視しました。それに欠点があるとすれば、ネイティブ・アメリカン、黒人奴隷、女性、そして無産者たちを対象としなかったことでしょう。
  次は1945年6月にサンフランシスコで調印された国連憲章です。それは二度とホロコーストの残虐を繰り返すまいという人類の誓いでした。
  ところが、その2カ月後には日本にまったく必然性のない原子力爆弾投下がなされ、1947年5月3日に日本国憲法が生まれました。9条について知った当時の私は「何と深遠な知恵なのだろう」と思ったものです。それが、人類が真の成熟に向かうための大きな一歩に見えたのです。アメリカ合衆国憲法、国連憲章からつながる道ですが、それらと決定的に違うのは、9条がヒロシマ、ナガサキの後に生まれたこと、核兵器やその他の大量破壊兵器がもたらす新たな現実を反映していたことでした。

  しかしながら、現在、9条はその存在を脅かされています。
  日本政府はブッシュ政権の後押しによって、日本に戦争行為を禁じた日本国憲法を破壊しようとしています。すでにクリントン政権時代の1997年、日米両国は日米安保協力指針(ガイドライン)を改正し、これまでの日本が直接攻撃を受けた場合のみを想定した専守防衛体制から、外国での紛争時でも米軍の後方支援を行うことなどの具体的行動を盛り込みました。

  また、いわゆる北朝鮮の脅威も9条を脅かしています。カーター元大統領の仲介により、アメリカと北朝鮮の間で枠組み合意がなされたのは1994年です。これには、北朝鮮が核開発を中止する代わりに軽水炉をつくることを認めるという約束が含まれていましたが、ブッシュ政権になって、国務次官(軍備管理・国際安全 保障担当)に任命されたボルトン氏は、その強硬姿勢によって枠組み合意を不安定なものにしてしまいました。結果、北朝鮮に原子炉を稼動させることになり、これに対して日本はアメリカのミサイル防衛システムに数十億円をつぎ込みました。そのお金は実際にはRAYTHEONなどアメリカの軍需企業を潤すことになったのです。
  その後、ブッシュ大統領は2005年8月にボルトン氏を国連大使に任命しました。国連を好まぬボルトン氏は、国連に対しても米朝枠組み合意を壊したような態度に出ることでしょう。
  こうしたなか、2004年夏、日本で尊敬すべき9人の文化人によって9条の会が結成されました。この素晴らしい平和グループは、9条を守りたいと思う多くの日本人を巻き込むことになりました。ただし、残念ながら、日本の平和運動には排他的な性格が見られます。誰をメンバーに入れるか、誰を入れないかといった考え方が、9条を破壊しようとする日本政府に対峙するよりも、他の平和運動との対立に向いてしまうのです。日米両政府にとって平和運動グループ同士の対立は好都合です。それどころか、アメリカ政府は、平和運動を内部から分裂させたり、対立を起こさせたりしています。CIA、FBI、その他の情報機関の文書にはこうした「ダーティ・トリック」のことが記されています。大切なのは、個人の特質や違いは脇に置いて、多くの人々と協力しながら、9条の本来もっている素晴らしいエッセンスを取り戻すよう日米両政府に働きかけることだと思います。

  現在のアメリカは、保守的なキリスト教原理主義者たちによって、理性を捨ててドグマや信仰へと回帰しているように見えます。そこで私は同じオハイオに住む下院議員のデニス・クシニッチ(きくちゆみさんのインタビューでも紹介)に、アメリカ合衆国憲法の修正条項として「9条」タイプの戦争放棄の条項を提議するよう働きかけています。
  それには「紛争は人間の避けがたいものであることを認めつつ、アメリカ合衆国は今後、国連、国際裁判所、その他国際機関と協力し、国際法の下、非暴力の手段によって国際紛争を解決する。アメリカ合衆国は法の支配の下、戦争への誘惑を断ち切る」という条文も加えています。
  9条は全人類にとってかけがえのないものなのです。
憲法9条の誕生に感動したというオーヴァビー教授。
その思いは『映画 日本国憲法』のジャン・ユンカーマン監督とつながっています。
教授は、ミネソタ大学の学生たちに『映画 日本国憲法』を
見せてゼミも行っているそうです。
オーヴァビー教授、ありがとうございました。
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