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同じ敗戦国でありながら、 近隣諸国との関係は、
日本とドイツでは異なっているようです。
ドイツで日本文化と国際政治学を学ぶ学生である
グリット・オーセさんがコラムを寄せてくれました。

第23回
ドイツ
「日米同盟とアジアの中の日本と憲法9条」グリット・オーセ
カトリン・ハドバ グリット・オーセ(Grit Ose)
1974年旧東ドイツ・プラウエン生まれ。
大学で日本文化学・国際政治学を学ぶ。
現在、日本の旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)に対する
外交政策を専攻し、博士論文を作成中。
  日本は1947年に新憲法を手にしました。これは日本が独自でつくったものではありません。日本を占領していたアメリカの権威と同意の下で作成されたものです。とくに、今日激しい議論の対象となっている憲法9条は、アメリカの考案によります。アメリカおよび連合国の主な目的が、日本の再軍備を阻止することだったからです。
  とはいえ、そうして生まれた9条は、国家の重要な権力手段のひとつである軍事力の行使を放棄するという革命的かつ夢のようなものでした。その9条と引き換えに、日本はアメリカとの緊密な関係をもち、軍事的な保護下に入ることになりました。

  冷戦時代の日本はアメリカの保護を失う心配はありませんでした。日本はアメリカにとって、共産主義の防壁の役割を果たしていたからです。しかしながら、朝鮮戦争が勃発し、その年に自衛隊の前身である警察予備隊が創設されたことで、日本では武力の行使を100%放棄すること、そして専守防衛に徹することへの後ろめたさのようなものが生まれました。そして、冷戦の終わりとともに、その後ろめたさは強まっているように見えます。
  その間、日本は世界第2位の経済大国になりました。そしてアメリカからは、アメリカが民主主義の守り手として、経済的にも軍事的にも世界中に関与しているのに、日本は「防衛を他国(アメリカ)に任せっきり」との批判を受けています。

  日本はドイツと同様、難しい状況に立たされているように見えます。両国は隣国に対する戦後補償を行わなければなりません。ただ、小規模な軍事面への関与が、独日のかつての被害諸国から不当と思われることはないでしょう。とくにドイツにとっては、「ドイツが様々な欧州機関やNATO加盟国における重要なパートナーであること」を示すというプラス面もあるのです。とりわけ独仏友好はこの間、強力に進められました。と同時にポーランドほか、他の東欧諸国との友好関係も強化されています。

  一方、日本は多くのアジアの国際機関に参加しているものの、ヨーロッパにおける統合のような動きは見られません。日本の同盟国はアメリカだけであり、ハンブルクのアジア研究所のDr.Dirk Nabersは「9.11後の日米間の集団的一体化」(“Kollektive Indentitaet zwischen Japan und den USA nach dem 11. September”, in:JAPAN akutuell, 3/2005)のなかで、いかに日本がアメリカとの「一体化」を進め、それが日本の外交に影響を与えたかについて明快に述べています。彼によれば、日本政府は日米安保条約を堅持し、アメリカの安全保障上の要求に常に応える努力しつつ、その際には3つの「椅子」の間でバランスをとっているといいます。

  まずは自国の国民です。その大多数が平和を志向し9条を保持したいと思っている国民に対して(日本外交の)正当性を示す。二つ目はアメリカです。アメリカによる軍事面での参加要求に応じる。そして三つ目はアジア。アジアの近隣諸国に不安を抱かせないようにする。

  このように、日米同盟は日本に絶え間ない問題をもたらしています。政治学者のDr.Taiho Linは、これを同盟のジレンマと名づけました(“Japan zwischen Abandonment und Entrapment: das sicherheitsdilemma in der USA-Japan-Allianz nach dem Ende des Ost-West-Konflikts”,in: ASIEN, 01.2001)。
  彼女は、日本が将来アメリカの同盟国としての積極的な役割を拒めば、アメリカは憤慨し、最悪の場合日米同盟解消もありえるといいます。一方、日本がアメリカの要求に対して、より「本格的な」支援を行えば、アジアの隣国はそれを脅威と感じ、日本の新たな軍国主義の台頭として恐れを抱く。そして対日軍事強化策を講じるとう悪いシナリオも考えられます。
  こうしたジレンマのなかで日本政府は憲法改定を通して進むべき道を模索しているというのです。
  しかし、憲法改定は本当に不可避なのでしょうか? 平和憲法の思想は数十年を経て、日本社会の最も重要なものとして根づいています。アジア諸国、とりわけ北朝鮮の脅威を日頃から喧伝するメディアに対して、日本政府はアジアの隣国との和解に努力し、それを強化しようとしてきたのではないでしょうか。冷戦時代においてさえ、たとえば日本は中国との友好関係をもつことができました。また、日本は当時の東ヨーロッパの社会主義国との間でさえ、経済面、文化的面での友好的な関係を築いたのです。

  現在、日本政府はアジア隣国との関係を難しくしていますが、アジアは日本の安全保障上の鍵であり、そのためには9条の保持が必要です。日本がアジアのなかに(自国の)未来を見つければ、相互信頼と平和同盟を確立することができるでしょう。
  その第1歩はおそらく、近隣諸国から挑発と受け止められている、政府高官および国会議員による靖国神社参拝、そして憲法改定に関する議論をやめることだと思います。これらの行いがアジアに対する威圧になりかねないからです。アジア諸国との相互信頼なくして、将来の日本が軍隊を放棄することはできないと思います。

  日本が平和の規範を守り、強化し、そして近隣諸国および国連と協力しながらその思想をグローバルに発信すれば、日本は世界に先駆けた真の模範国になるのではないでしょうか。
世界の中でも突出した軍事国家、アメリカと
「日米同盟」を結ぶ日本と、平和憲法を持つ日本。
この矛盾とジレンマの中で、政府は憲法改正を模索しているわけです。
このことからも、憲法改正は「古くなったから変える。現実に合わないから変える」と
いったシンプルな問題ではない、ということが良くわかります。
グリットさん、ありがとうございました!
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