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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイト

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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韓国初のインディーズメーデー&「自由と生存のメーデー 六十億のプレカリアート」大成功!!! の巻

プレメーデーで上演された演劇

 本当に、本当に楽しかった! もう、怒濤の1週間だった。日本と韓国と全国各地の人々との連帯&反撃の日々! 韓国の皆さん、そして自由と生存のメーデーで一緒に叫んだみなさん、本当に、本当にありがとう!!

 さて、報告だ。まずは4月27日、私は韓国へと旅立った。その日はNHKの憲法記念日特番の収録。五木寛之氏と吉岡忍氏と25条について語るという番組を収録した後、そのまま成田空港へ。で、着いた翌日から怒濤の取材攻勢だった。ちょうど『怒りのソウル』の韓国語版が出版された上、日韓連帯を深めるために「プレカリアート」という聞き慣れない言葉とともにやってきたということで、朝鮮日報やハンギョレ新聞、オーマイニュースや時事イン、そしてテレビ局も密着取材。取材をコーディネートしてくれたのは『怒りのソウル』を出してくれた出版社なのだが、その出版社の社長(?)が、釜山のアメリカ文化院を放火して獄中10年という素敵すぎる活動家。そして28日、ソウル・ホンデイックの「空中キャンプ」で希望庁主催「働かない者たちのメーデー あなたにとって仕事ってなんですか? 」のメーデープレ企画が開催された。出演者は、私、「88万ウォン世代」の名付け親である経済学者のウ・ソックン氏、20代のパワーブロガーであるハン・ユニョン氏、そして大学の学費値下げや奨学金問題に取り組む女の子などなど。トークセッションに先駆けて「仕事」をテーマにした演劇が上演されたのだが、これがまたあまりの既視感に目眩を起こしそうな内容だった。ちなみに前にも書いたが韓国は日本以上の格差社会で全世代の非正規雇用率は50%以上。20代では90%もが非正規と言われる。

民主労組のメーデー前夜祭にも参加

 舞台に最初に登場したのは、ファミレスでバイトする女の子とファストフードでバイトする女の子、そしてガソリンスタンドでバイトする男の子。「1年以上働いたら時給が上がる」とかそんな理由で何の落ち度もないのに「明日から来なくていい」と言われる女の子と、仕事のミスでお客さんの車を傷つけてしまい、その弁償代を会社から請求される男の子。次のシーンは就職の面接。正社員として就職するために、英語も完璧にマスターし、その会社でのインターンも経験、更にボランティア活動をしてきたという受験者を、面接官は「就職したいならそれくらい当たり前だ」と突き放す。就職するために整形手術を受ける女の子。結婚が決まっていたのに会社をクビになってしまい、結婚の話も流れてしまった男の子。「自分はただ普通に結婚したり、普通に生きたいだけなんだ!」と若者が叫べば、面接官は「今の社会で『普通に生きる』ことがどれほど難しいかわからないのか。自分たちは特別なんだ」と嘲笑する。そうして若者たちの独白が始まるのだ。舞台のスクリーンに映し出される言葉は「私はこの国で生きられますか」。大学でデザインの勉強をし、やっと就職できたデザイン会社で上司のセクハラを受け、またあまりの長時間労働に仕事を辞めた女の子。その次に入った会社は給料未払い。現在はコーヒーショップで働いているという彼女は「大学で4年間勉強したこととまったく関係ない仕事をしている。これって、ちょっとおかしくないですか」と問う。家が貧しい友達が学費のことで悩み、結局自殺してしまったことを語る男の子は、「最近、新聞に『今の若者は苦労を知らない』と書いてあった。自分が20年生きてきたこの国がまったくわからない。こんな国にいたくない」と嘆く。そうしてラスト、電車のアナウンスが響き渡る。「地獄行きの最後の電車が到着しました。全員乗って下さい。これに乗らない人は全員がホームレスになります」。

 「顔を変えてでも正社員として就職したい」「若者が望んでいるのは高給の仕事ではなく安定した仕事」「ただ普通に生きたいだけなのに」。台詞にちりばめられたそんな言葉たちに、韓国と日本の状況のあまりの近さに驚くばかりだった。

「働かない者たちのメーデー」にてトーク

 そして5月1日、とうとう「働かない者たちのメーデー」当日だ。昼に仕事についてのトークセッションを行った後、みんなで近くの広場に移動する。広場ではバンドが順番にライヴをし、アーティストがスプレーで絵を描き、仕事をテーマにした様々な展示が行われている。聞けば、やはり韓国の若者にとってもメーデーは「遠いもの」で、非正規の自分たちはメーデーからも疎外されているという意識があるという。そんな中、希望庁が「メーデーにかこつけて一緒に遊ぼう」と呼びかけ、それに答えてくれたミュージシャンやアーティストたちがこの日、集まったのだ。集まってくれたバンドやパフォーマンス集団などは25グループにものぼるという。中にはアジアツアーを終えたばかりの人気バンドもいる。が、よりによってその人気バンドのライヴ中、突然近所のオバサンが「うるさい!」とキレて乱入、マイクを奪って逃走! やむなくライヴは中断というトラブルもあったが、私も「韓国の人々と連帯しに来た」ことを存分にアピールできたのだった。そうしてイベントのラストは、パフォーマンス集団・ノリダンの恐ろしくハイレベルなパフォーマンスでシメられたのだった。

ノリダンのパフォーマンスはすごい!

 この日のメーデーは韓国でも大きく報道され、私は知らないうちに雑誌の表紙も飾っていた(後で知った)。報道の内容は「韓国の88万ウォン世代が日本のロスジェネと出会う」「貧乏人メーデーの愉快な反乱」などなど。韓国では、民主労総と韓国労組以外の独立したメーデーが開催されること自体がある意味「歴史的」なことだという。メーデーをやり遂げたその日は、遅くまで希望庁の若者たちと語り合い、来年は中国の人たちとも一緒にやりたいね、なんて話になったのだった。こうして夢は広がっていく。もっともっと、いろんな国の人々と繋がりたい。更にこの日はソウルの私たちの打ち上げ、イタリアのミラノのデモ、東京・阿佐ヶ谷のメーデー前夜祭をネットで繋ぎ、それぞれのメーデーを生中継するという試みも試された。私はソウルからその日のメーデーについて報告した。

希望庁、ノリダンのみんなと記念撮影

 翌2日、日本に帰国。東京「自由と生存のメーデー 六十億のプレカリアート」に参加するためだ。このメーデーには、韓国のだめ連的存在「ペクス連帯」のチュ・ドッカン氏と、同じく韓国の西部非正規労働センターのカン・ヤンミさんという女性を「招待」していた。日本のインディーズ系メーデーを経験してもらい、日韓の交流を深めたかったからだ。2日の集会と3日のデモには全国のインディーズメーデーを担う人々もたくさん集まっていて、またまた多くの出会いがあった。フリーター労組オホーツクを立ち上げた北海道・北見をはじめ、富山、新潟、京都、福岡、広島、茨城、名古屋などなど。ストライキ中のユニオン・エクスタシーも駆け付けた。2日の集会では「生きることは迷惑なのか」と題した大ラウンドテーブルで語らい、そのまま飲み会へとなだれ込む。

自由と生存のメーデー、フリーター労組のみんなと

 そうして3日のプレカリアートサウンドデモでは、とにかく騒ぎ、踊り、暴れまくった。毎度のことながらデモコーラーをつとめた私はこの日、渋谷のど真ん中を行く2時間のデモ中、ずーっと叫び続けた。デモには2台のサウンドトラックが登場。報道によると600〜800人もが参加したという。マックの前では恒例の「時給を上げろ」コールを叫び、そしてみんなで踊りながら叫び続ける。「家賃滞納! 残高ゼロ円! 内定取り消し! 会社倒産! 」「小泉謝れ! 竹中謝れ! 」「有休倍増! 給料激増! 時給を上げろ! 無限に上げろ! お前がお茶くめ! お前がコピー取れ! 」。プラカードには「草ナギ無罪!」「裸になって何が悪い!」「家賃滞納中」「こき使うな!」「生存エクスタシー」などなど。そうして私たちは続けた。「プレカリアートは眠いぞ! 」「プレカリアートは世界中で連帯するぞ! 」「働くために生まれてきたんじゃないぞ! 」「遊ぶために生まれてきたんだぞ!」「もう誰も餓死させないぞ! 」「もう誰も過労死させないぞ! 」「生きさせろ! 」「住むとこよこせ! 」「食うものよこせ! 」「すべてをよこせ! 」「言うこときくよなやつらじゃないぞ!」。

 叫び続け、踊り続け、そうして辿り着いた解散地点の宮下公園にサウンドカーの機材を持ち込んでアフターパーティーに突入! 野外レイヴが突如として宮下公園に出現し、みんなで踊りまくった。次々と人が胴揚げされていく。みんなが馬鹿みたいに笑ってて、「なんでこんなに楽しいんだろ」と言葉を交わす誰もが口にする。韓国から来た2人も踊りまくっている。巨大な祝祭としての、私たちのメーデー。ただ生きていることを無条件に祝うような、そんな祭り。生きてることさえ否定されがちな中で、ただお互いの生存を確かめ合い、喜び合う日。今年もそんな「祭り」が、大成功で終わった。まだ叫びすぎて喉が痛いけど、ホントにホントに、楽しかった!!

※You Tubeに映像がいっぱいありました。興味のある方は「自由と生存のメーデー09」で検索してね。

プレカリアートサウンドデモ!

興奮、興奮、また興奮。
人の輪は広がり、つながり、そこからきっといろんなことが動いていくのです。
雨宮さんが「ネットで参加」したという東京・阿佐ヶ谷メーデーについては、
「松本哉ののびのび大作戦」でお読みください。

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