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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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韓国・徴兵制なんて嫌だ!
ある若者の闘い。(その5)

 茂木さんは言った。

 「韓国で徴兵に行かないとなれば、祖国防衛とか民族統一を放棄するのかって話で白い目で見られますけど、必要性がどこまであるのかって話ですよね。朝鮮戦争の頃に徴兵制に組み込まれる人が60万人とかに膨れ上がったんですけど、特にこれ必要じゃないんですよね。実際にしてる労働は軍事訓練ではなく建設現場とか、清掃とか、徴兵制に行った人が、限りなくただに近い労働力として吸い上げられたりしているんですよ。もちろん非武装地帯に送られて前にいるような人もいますよ。だけど必要な人員数かと言えばそうじゃない」

 え、徴兵制に行ったのに、建設現場での労働・・・? それは知らなかった。ちなみに韓国では、日本の機動隊にあたる「戦闘警察」も徴兵期間中の若者だったりするからワケがわからない。
 そんな韓国では、徴兵に関する法律が、毎年のようにコロコロ変わっているという。みんなが知恵を絞って「徴兵逃れ」を考え、実行するので、そのたびに「穴を塞ぐ」形で新しい法律ができるといういたちごっこが続いているのだ。
 例えば、以前は「精神障害者」は徴兵を免除された。が、それを使って偽の診断書を出す人が増えたことからもう免除されないという。更には身体の欠損についても法律が変わったそうだ。以前は指が1本なければ徴兵は免除された。が、徴兵から逃れるために指を2本切った人が出てきたため、現在では指が2本なくても徴兵されてしまうという。となると、今度は指を3本切る人が出てきて・・・ということになる。
 そこまでしても、逃れたい徴兵。今さらながら、キム君に「どの辺が一番嫌ですか」と聞いてみた。

 「絶対服従。2005年、韓国軍で糞を強制的に食べさせる事件があったのです。これは極端な例だけど、あの中にはいろいろな人間が無理矢理連れて込まれていて、また細かい階級による上下関係が存在する。そうすると絶対権力関係の中、おそらく国家とか自分の犠牲に対する怒りだろうけど、それを自分より弱い階級の人間に吐き出す。それで屈辱的な命令を強制して補償心理(自分の被害が補償されるような、癒されるような感覚)を感じる人間もいるのです。
 軍の中では社会の法律は通用しないわけだから、糞なんか強制的に食べさせられたら正直自殺が唯一の抗議手段かも知れません。韓国軍は旧日本軍文化の影響を強く受けていると言われているので、日本人は爺ちゃんとかから聞いた話と比べれば分かりやすいかも知れません。自殺の原因としては『訓練が辛いから』だと思う人が多いだろうけど私が思うには『屈辱感』だと思います。私は嫌な学校は二回もやめたし、一般の韓国人より自由に暮らして来たからその気持ちはよく分かる。そして身は拘束されてる状態。更に軍隊は給料も殆ど出ない。月に1万円くらい。これでも上がって、前は月に300円くらいだった。国が大変だからって協力してほしいっていう分には共同体の一員として自分のできる範囲で協力したいとは思いますよ、しかし『全員軍人になれ!』って強制する共同体に対しては自分にとってその共同体の存在意味を問う必要があります。今の世界状況を、どう韓国人として責任を取るんだみたいな話は別として、そもそもなんのための共同体でなんで自分がそれを背負わないといけないのか。これは精神教育じゃなくてそれぞれ思想によって自分で考えなければならないでしょう」

 そんなキム君は、「日本に9条があるから韓国の兵役が重く感じる」という意見には「同意できない」という。

 「現実政治においてそうなってるかもしれないけど、それは冷戦構造の中で前線に韓国があるから負担を韓国がとるって認識から言ってると思うんですけど、それと9条の精神とは別問題だと思う。高円寺駅のホームからは自衛官募集という看板がみえるんですけど、そこには徴兵検査所のような緊張の空気は流れてない。9条の存在に私は平和の理想よりは、このような空気を落ち着ける社会装置としての機能を感じます。名前だけでも自衛隊は軍隊ではない、最新武器を構えているといっても軍隊ではないという法律用語は社会的にある種の安心感を与えるわけです。逆にいうとそれを変えようとする意見にはその用語が与える厳しさを求めているように見える。実際にどういうシステムになっているのかよく分かってないんで言い切ることはできないけど軍隊じゃない限り、軍事裁判は存在しないだろう。前、冗談で、みんな(韓国の)徴兵がそんなに嫌ならストライキすればいいじゃないかって言ったんですけど、軍人は民間人じゃないからそんな権利はもちろんないし、軍事裁判で反乱罪とかになるに間違いないだろうから、死刑もありうるわけですよね」

 「軍事裁判」。この言葉が当たり前にさらっと出てくることに衝撃を受けた。キム君が闘っているものの大きさをまざまざと感じた瞬間だった。
 そんなキム君は今後、最悪、軍隊か刑務所かという2択のどちらかを選ばなければならない。

 「正直な話、本当にしょうがない場合は行くしかないって思ってる。刑務所か軍隊か、どっちか選ぶしかないっていうのが現実ですから」

 その場合、どっちを選びますか・・・と、ものすごく残酷な質問を投げかけた。キム君は少し考えてから言った。

 「分からない。選んで行くっていうよりは流れるでしょう。社会の中でいつの間にか犠牲を当たり前にするような阿呆な風潮ができてしまったと思います。私にとって重要なのは政治としての兵役拒否よりは自己実現ですから。雨宮さんのようにこうやって記録してくれる人がいるならそれを読んだ第2、3の私が現れるかも知れません。そして彼らは犠牲なく生きる道を試し続けられる、それでいいです。で、私個人の話をすると軍隊か刑務所かよりはそれを過ごした後のことですが、かなりうんざりしてるところがあるので韓国社会にそれ以上住む気はあんまりしません」

 徴兵が嫌で、行きたくない、というだけで刑務所にブチこまれ、犯罪者になってしまう国。
 キム君の話を聞きながら、改めて言葉を失っていた。
(以下次号)

キム君がかかわっている「韓国の徴兵制について考える」グループ「PANDA」のサイトはこちら。
http://panda1panda2.web.fc2.com/

刑務所か軍隊か、どちらかを選べと言われたら。
あなたなら、どんな選択をしますか?
そして、日本と韓国の状況を隔てているものとは?
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