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2011-2-16up

雨宮処凛がゆく!

第177回

イタリアの「ブンガ・ブンガ」騒動。の巻

イタリア文化会館前。Tシャツはこの日のために作られたもの。

 エジプトで大規模なデモが始まってから18日目。とうとうムバラク大統領が辞任を表明した。

 チュニジアに続きエジプトでも無名の人々が立ち上がり、そうして自らの手で自らの未来を変えた。それに触発されるようにイエメンやヨルダンでもデモが起きたりと、なんだかあちこちでくすぶっていた火種に火がつきつつあるようだ。

 そんなふうにムバラク大統領が辞任を表明してすぐの2月13日、イタリア文化会館前である「行動」が開催されたことをご存知だろうか?

 その行動とは、イタリアのベルルスコーニ首相のセックス・スキャンダル「ブンガ・ブンガ」に抗議する行動。ちなみに「ブンガ・ブンガってなに?」とイタリア人に聞くと「乱交」とのこと。なんか、すごい言葉だ・・・。なんでもベルルスコーニ首相は17歳の未成年少女を買春したとかで、ローマ法王にまで苦言を呈されている始末なのだという。

 ということで、イタリアではそんなベルルスコーニに退陣を迫る抗議行動が盛り上がっているようなのだが、この日は世界60カ所で同時に抗議行動が計画され、日本では東京のイタリア文化会館前で午後2時から開催されることに。前日、イタリアの方から連絡を受けた私も駆けつけたのだった。

 私のもとに届いたこの日の告知文の言葉は、とにかくシンプルだ。

 「イタリア・ベルルスコーニ首相のセックス・スキャンダル『ブンガ・ブンガ』に対し、女性への侮蔑的な態度が、イタリア文化に傷をつけかねないと危惧しています。そこで、世界中に住むイタリア人女性が立ち上がり、世界60カ所以上で同日にデモ行動をします」

 「イタリアの首相が女の人を物みたいに扱ったこと皆さん知っているでしょう、イタリアでたくさんの女の人が怒っています、私たちは物じゃない、体だけじゃない、そう大きな声で言うためにそのイベントを開きます」

 ということで駆けつけたイタリア文化会館前。寒い中、既にたくさんのイタリア人男女が集まり、マイクでかわるがわる話すものの、イタリア語なので何を言っているのかさっぱりわからない・・・。途中、私も話すことになり、日本での女性問題や女性の貧困について語り、通訳してもらう。と、そんなふうに最初は普通の「抗議行動」っぽかったものの、そこはイタリア人。どんどん歌ったり踊ったりの盛り上がりを見せ始め、気がつけばみんなで「ブンガ・ブンガ」と大合唱。日本語で「男も、女も、脱ベルルスコーニ!」とオジサンが叫べば、「BUNKA SI BUNGA BUNGA NO!」というかけ声が辺りに響き渡る。ちなみにこの言葉、「文化YES、ブンガ・ブンガNO」という意味で、この日の抗議行動がイタリア文化会館前で開催されたことからこのようなかけ声になったらしい。

歌って踊って盛り上がる。

 この日、もらったチラシには、日本語で「もう、我慢の限界だ!!」と書かれていた。

 しかし、「抗議」の現場に悲壮感などはなく、歌って踊っての明るく楽しい大騒ぎ。そのうち日本人の警備の人も笑い出す始末で、実に楽しい抗議行動となったのだった。

「楽しい」。

 これは私が生きる上で、もっとも大切にしている価値である。

 付け加えるなら「面白そう」「キラキラしてる」「チャラチャラしてる」も非常に大切だ。

 そして私は、意識的にその感覚を大切にしている。それは前回書いた連合赤軍事件(この原稿、私に直接やたら反響があった)の対極にあるものに思えるからだ。

 例えば私自身、今までいろいろな活動にかかわってきたが、「正義感」から動いたことはただの一度もない。すべての動機が「面白そうだから」という、万人をがっかりさせる理由である。しかし、その方がずっといいと思っている。人は「自分が正しい」と思うと、その正義感を振りかざす。そして正義感や「自分は絶対に正しいのだ」という感覚は、おそらく簡単に人を殺すことができる。それは連合赤軍事件だけでなく、数々の宗教絡みの事件なんかでも繰り返されてきたことだ。

 よって私は自分が「正しい」と思わないよう、常に気をつけてはいる。というか、いつも「堂々と間違える」方向で生きようとつとめている。

 そんなうに思うようになったのは、格差や貧困に関する運動にかかわるようになってから、非常に真面目な人にごくたまに自分の服装(ゴスロリ・ロリータ)を批判されることがあったからだ。いわく、「チャラチャラしてて真剣味が足りない」ということだ。

 まぁ、自分自身がある意味フザけたカッコをしてるのはわかるのだが、なんというか、その言い分を突き詰めると、自らの服装などに気を配らず、質素な生活をし、24時間貧困問題のみを真剣に考え、自分の生活すべてを犠牲にするような人しか活動にかかわれないことになる。それってものすごいハードルだし、方向性は連合赤軍と同じではないだろうか。

 ということで、そういった批判をされた場合、「私、連合赤軍に入った覚えないんだけど」と心の中で呟いているのだが、結果的にこのことは非常に私にとってよかった。

 なぜなら、自分の服装に対する反応によって、「連赤度の高い人」と「そうでない人」の区別が容易に可能だからである。で、「この人、連赤度ものすごい高い」と思った人からは遠ざかるようにしているので生きる上でとても都合がいい。

 以前、韓国に行った時、私と似たような境遇の女の子と話をした。彼女は非常にギャルギャルしく、しかし労働運動などに興味があり、ハンスト現場にミニスカートで応援に駆けつけたのだという。そうしたら、現場のオジサンに「なんだその格好は!」と怒られたのだ。

 この話を聞いた時、ムカつくと同時に悲しみが込み上げた。そのオジサンは「自分は正しい」と信じていて、それがひとつの「差別」だと、おそらく一生気がつかないのかもしれない。

 と、そんなことをイタリアの老若男女の楽しそうな抗議行動を見て(お爺さんとかが率先して盛り上げまくる)、しみじみ思ったのだった。

「男も女も脱ベルルスコーニ」!

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「正しいこと」を押しつけるだけでは、
どんな「運動」も広がらないし続かない。
肩の力は抜いて、まずは楽しく、面白く。
「マガ9」もそんなふうであれたらいいな、と思います。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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