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2012-12-19sup

雨宮処凛がゆく!

第250回

選挙結果を前に、「さらに言うこときかない」宣言!! の巻

選挙最終日、宇都宮さんと電車で都内を回って最後の訴え

 衆院選と都知事選が終わった。

 結果はみなさんご存知の通りだ。自民党の、信じられないほどの圧勝。

 そして都知事選では石原都政を継承する猪瀬直樹の勝利。

 開票の時を、私は宇都宮けんじ氏の選挙事務所で迎えた。

 ボランティアやスタッフ、テレビカメラでぎゅうぎゅうの事務所に着くと既に猪瀬氏の当確が伝えられており、その間にも、テレビでは自民党や維新の当確情報が続々と映し出される。そのたびに辺りからは悲鳴のような声が上がり、あちこちからため息が漏れる。

 これじゃあ原発は再稼働されまくってしまう。憲法は改正され、格差や貧困の問題はより深刻化し、生活保護は切り下げられ、そして弱者は今まで以上に見捨てられてしまう。この1年9ヶ月盛り上がってきたデモなどの社会運動だってきっとやりづらくなる。国防軍が創設され、「戦争ができる国」へと大きく舵が切られてしまう――。

 いろんな声を聞いた。どれもこれも、絶望的な意見だ。

 だけど今、私はむしろ、俄然、やる気だ。

 とうとう敵が戻ってきたのだ。しかも、一度落ちぶれてるもんだからより性格をゆがませての再登場。しかもその間に、思想はより極端な方向へとねじれている。これほどに、私を燃えさせるシチュエーションがあるだろうか。どこからでもかかってこい! 今、私はそんな気分である。

 ため息ばかりついていても仕方ない。絶望している暇はない。ある意味、今まで以上に「危機感」を持つ人が増えるだろう。

 安倍総裁は選挙翌日の記者会見で、26日に発足する内閣を「危機突破内閣」と命名。

 が、これから私たちが取り組まなければいけないのは、安倍総裁率いる自民党政権がのさばりまくるという「危機」を「突破」するための運動、「危機突破運動」だ。「危機突破内閣」と「危機突破運動」の一騎打ち!! もう今まで以上に大暴れし、文句を言いまくるしかないではないか。

 ある意味、民主党政権の3年間、私はちょっと「話のわかる活動家」だったように思う。小泉政権時代の06年に出会ったプレカリアート・反貧困運動。「自己責任」という言葉によって弱者が切り捨てられていく中で起きたリーマンショックと派遣切り。結局、08年末から09年明けに開催された「年越し派遣村」がこの国の貧困を可視化させ、「自己責任」という言葉を押し返し、いきなり誰もが「セーフティネットが必要」と言い出したのが09年。その年の夏に政権交代が起こり、「もやい」の湯浅誠氏が内閣府参与になったり、私自身も厚労省の「ナショナルミニマム研究会」の委員になったりと、やっと「政権の人に少しは話を聞いてもらえる」立場となった。が、同時に貧困問題に関しては政権交代によって「根拠のない一服感」が世の中に蔓延。メディアで扱われることも大分減り、そんな中で東日本大震災と原発事故が起こる。

 そうして3・11以来は脱原発運動にもかかわってきたわけだが、この数ヶ月で最後のセーフティネットである生活保護の引き下げ問題が浮上し、この連載でも何度も取り上げてきた。

 そうして今回、「生活保護水準の原則1割カット」「憲法改正」「国防軍の保持」などを掲げ、どう考えても原発を再稼働したくて仕方ないように見える自民党が圧勝。しかも落ちぶれている間により性格がひねくれたのか更に弱者を敵視し、領土問題に自らの被害妄想っぽい意識を転嫁させたり、「強い日本」みたいなものしかすがるところがないのかやたらと威勢のいい言葉を並べたりと、嫌な感じにパワーアップしている。

 これはもう、「話のわかる活動家」から、純度100%の「言うこと聞かない系」に戻るしかないではないか! というか、戻るだけならただの馬鹿というか退化だけど、民主党政権の3年間の間で、いろいろ学んできたこともある。国会議員との有効な対話の仕方や、問題提起の方法などなど。そして現在、多くの人が脱原発運動を通して、「政治を動かす」ノウハウを、路上バージョンから国会内バージョンまで、本当に様々なバリエーションで手にしている。

 私たちは私たちなりに、十分パワーアップしてきたのだ。

 もちろん、この選挙結果について、「なんで?」という思いはある。「市民デモ元年」と言われた昨年から盛り上がり続けた直接民主主義という状況があったのに、どうして? と。しかし、分析は頭のいい人に任せるとして、とにかく私は、今、俄然やる気だ。

 猪瀬氏当確が伝えられた直後、宇都宮さんは言っていた。

 「選挙は運動の一環で、これからも運動を続けていく」と。そして「この選挙で得た多くの人との連帯が何よりも大事なものだ」と。

 確かに、宇都宮さんは都知事選で当選はしなかったものの、80万人以上の人が、「人にやさしい東京を」という理念に賛同して、一票を投じてくれた。

 そして東京8区から出馬した山本太郎さんには、7万人以上の人が票を投じた。山本さんの脱原発のメッセージ、そして宇都宮さんの反貧困のメッセージは、確実に、多くの人に届き、心を動かした。

 私たちは、今回の選挙で、たくさんのものを積み上げた。

 ここから一緒に、なんとかしていこう。というか、なんとかするしか道はないのだ。

開票の夜、宇都宮事務所でインタビューを受ける宇都宮さん

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この国はどうなってしまうのか? と、恐怖を覚えるような選挙結果。
けれど一方で、それに対する「危機感」を共有する人が、
確実に増えていることも強く感じます。
あとはそれをどう広げ、そしてどう行動につなげていくか。
分析と反省は必要だけど、
絶望して、黙り込んでるヒマはない! とも思うのです。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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