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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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広義のホームレス調査と
第2のセーフティネット。の巻

 ナショナルミニマム研究会のことをずっと書いていなかった。今は各委員の発表をしている段階なのでなかなか書くことがない。ただひとつ、この間の会議で提案させて頂いたことがある。とにかく今は実態を把握したい、という長妻さんの言葉を受けて提案したのは「広義のホームレス調査」。09年の調査では、日本のホームレスの数は1万5759人。この数はすべて路上生活者だ。しかし、イギリスではホームレスの数は3万人。多い、と思うかもしれないが、そのうち路上生活をしているのは2000人と、ホームレス数の10分の1以下なのである。それでは、あとの2万8000人はどうしているのかというと、家がなくて友人や親戚の家に居候していたり、シェルターのような場所にいたりするわけである。日本で言えば、他に住む場所がないから飯場や製造派遣を転々としているとか、ネットカフェやサウナとか個室ビデオで寝泊まりしているとか、友達の家に転がりこんでいるとか、そういう人もすべて「ホームレス」と定義してカウントしているのだ。ちなみにフランスでは18歳以上で親元に住んでいるだけで「ホームレス」にカウントされるという。まあこの辺りは文化の違いなどもある。が、例えば「自立したいのに金銭的な理由から親元に住んでいる」人は日本にも大勢いる。

 どこからどこまでを「広義のホームレス状態にある人」と定義するかは難しいところだが、イギリス流のホームレス調査をすればそれは莫大な数にのぼり、日本はホームレス大国だった、なんてことになるかもしれない。というか、今これを読んでいる人の中にも「俺って広義のホームレスじゃん!」と思った人もいるかもしれない。

 研究会でこの提案をした日、某委員の方から興味深い話を聞いた。ある調査(何の調査かは忘れた)によると、日本でそういった「広義のホームレス状態」にある人は毎年10万人くらいと推計されるという。ホームレス、というとテントとかを作って路上生活をしている人、というような人物像のみを思い浮かべてしまう人が多いかもしれないが、今は不安定雇用や失業者の人々がすぐに路上に行ってしまう。ホームレスという言葉はもともと「状態」を指すものである。屋根の下にいたとしても自分の家がないという「状態」にある人がどれくらいいるのかの調査をすることは大きな意味があるはずだ。年末年始の公設派遣村に訪れた人は東京だけで800人以上いたが、おそらく彼らのほとんどは国の調査での「ホームレス」とはカウントされていない。が、状態はまさにホームレス。そしてそんな状態にある人が一体どれくらいいるのか、誰も正確には把握していない。だからこそ、調査が必要だと思うのだ。

 そんな提案をした少し後、ちょっと怖い新聞記事を見つけた。1月31日の朝日新聞だ。見出しは「失業者向け融資 急増」。この記事では、「総合支援資金」の利用者が急増しており、「昨年10月の受け付け開始から3ヵ月間で7324人」が利用していることに触れられている。

 この記事の何が「怖い」のか。それはこの7000人以上の人が、遅くても一年半後には「返済」を始めなければならないからである。その額は、限度額いっぱい利用して「二人世帯以上で340万円」、「単身世帯で280万円」。この制度の対象は失業者である。失業者に300万円貸して返済を迫っても、無理なのではないだろうか・・・。

 この「総合支援資金」は「第2のセーフティネット」のひとつである。前政権の時に、緊急雇用対策などとして創設された。他にもいろいろな制度がある。「年越し派遣村が必要ないワンストップ・サービスをつくる会」の「生活を再建するために〜各種支援制度のご案内」を参考に書いてみよう。

 まずは「雇用施策」として「就職安定資金」「基金訓練」「訓練・生活支援給付金」、そして「その他の施策」として「住宅手当」「総合支援資金」。なんだか漢字ばっかでうんざりするが、「就職安定資金」は家がない失業者に対して敷金礼金や家賃や生活費を貸し付ける制度、「訓練・生活支援給付金」は職業訓練を受けながらお金が貰える制度、「住宅手当」は家がなかったりする人に対して家賃が給付される制度。一見素晴しい制度に思えるが、これを読んでいる人の中でこれらの名称と内容を知っていた人はどれくらいいるだろう。また、「使った」という人はいるだろうか。

 これらを「第2のセーフティネット」と呼ぶわけだが、誰かが「増改築を繰り返した家」のようだと表現していた。言いえて妙だと思う。とにかくツギハギだらけで使いづらいことこの上なく、その上気がつけば借金漬けなんて事態になりかねないのだ。例えば公設派遣村に集まったような、家もなく所持金ゼロの人にはなかなか使えない。手続きに時間がかかったり、返済の目処が立たなかったりするためだ。

 まず「就職安定資金融資」は、家のない失業者が最大で186万円の借金が可能な制度。半年以内に「安定就職」できれば返済は半額免除されるものの、この御時世ではなかなか難しいだろう。続いて職業訓練しながらお金が貰える制度だが、最近は訓練に希望者が増加、受講が決まらないと当然給付金は受けられない。住宅手当は家がなかったりなくなりそうな人に家賃を給付する制度だが、お金が出るまでに1ヵ月くらいかかるという。それまで生活費がなければどう過ごせばいいのだろう。また、住宅手当を利用した後に職業訓練を受けて給付金を貰うことはダメとか、「この施策を使ったらこの施策は使えません」というような謎の決まりもあって、とにかくマニアックすぎて素人にはとてもわからないのだ。

 で、問題なのが、この「第2のセーフティネット」が、本来であれば生活保護の対象になる人に「こういう制度ができたんですよ」という形で水際作戦っぽい使われ方をしていることだ。そんな話を何度か耳にした。

 昨年1年の失業率は5.1%、12月の失業者数は317万人。正社員の有効求人倍率は0.28倍という厳しい状況だ。しかも非正規で働く人の多くは雇用保険というセーフティネットから漏れている。

 首都圏青年ユニオンのニュースレター103号には、失業給付が切れた人が実際にハローワークに訪れて「第2のセーフティネット」を使おうとした顛末が報告されている。それによると「職業訓練を受けながら生活支援金をもらう」制度を使おうとするも、希望者が増加しているため受講が決まらないと給付金が受けられないという壁にぶつかり、訓練が決まらない場合の貸付制度について相談すると「就職安定資金融資」や「生活福祉資金貸付」「臨時特例つなぎ基金貸付」などが紹介されるも、やはり「制度Aを使った人は制度Bを使えない」「この制度は住居を失った人を想定しているので使えない」などと言われ、結局どうにもならなかった顛末が紹介されている。この人は「何度も足を運んで、さんざん待たされて、長々と説明を聞いた結果、いまの自分が使える制度が何もないということがわかってよかったです」と皮肉のコメントを残しているが、本当に素人ではとてもたどりつけない難解すぎる制度なのだ。「セーフティネット」というよりは、ほとんどがただの貸し付け。もし利用を考えている人がいたら、その辺りのことを慎重に見極めてほしい。

 と、こんなことを考えると、やっぱり今ギリギリの状態の人が使えるのって「生活保護」くらいしかないように思う・・・。セーフティネットになっていない第2のセーフティネット。しかも多くが借金。何か、とても変だと思うのだ。

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もちろん、いろんな仕組みはあったほうがいいけれど、
それが実際に「使える」かどうかはもっと重要。
「取り組みはやっている」という言い訳のためだけに、
制度がつくられているとしか思えません。
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