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自衛隊イラク撤退と常識論
 「自衛隊のイラク撤兵」を決定して、小泉首相は鼻タカダカの様子だ。サマワではもう撤退準備が始まり、関係者も「一兵の死傷者もなく」撤退できることに、ホッとしている様子。

 小泉首相は「決めてしまえばもう後のことは知らん。みんなでテキトーにやってくれ」という例のパターンどおり。心はすでに、ブッシュ大統領と二人の水入らず旅行となるという、あのメンフィスのプレスリー邸に飛んしまっているみたい。

 なんと、野党からの「党首会談」要請も、「渡米準備で忙しいから」という理由で断ってしまったというから、凄い。
政治なんかよりも、メンフィスの青い空と甘い歌声が、あまり深くものを考えないお二人の頭の中を駆け巡っているのだろう。

 こんな方々が、世界政治を動かしている。
 切ない。

 しかし、先週のこのコラムでも指摘していたように、今回の決定、実質的には「自衛隊撤退」なんかじゃない。


産経新聞も、6月21日付けで次のように書いている。

陸自撤収
経済協力にシフト
空自は活動範囲拡大

 政府は、イラクからの陸上自衛隊撤収後も、航空自衛隊C130輸送機の活動範囲をバグダッドやイラク北部アルビルに拡大し、米国や国連、駐留多国籍軍の人員、物資を輸送する。また、政府開発援助(ODA)など経済協力に軸足を移し、復興支援活動を継続する。

 日米の軍事協力やイラク戦争などについては、徹底的にタカ派的論調を貫いてきたあの産経新聞、今回の「撤退」が実質的には「派遣拡大」であることを、キチンと見抜いている。(論調の示すとおりの結果になったのだから、産経新聞としては満足なはず)。

 小泉首相は、本当の撤退など少しも考えてはいなかった。撤退はポーズのみ。そのポーズの陰での実質は、あくまでブッシュ大統領の意に添うこと。国民を欺くことなど、ブッシュ大統領への忠誠に比べれば、大したことじゃない、と思っているのだろう。
 「大したことじゃない」ってフレーズ、どっかで聞いた?

 このような小泉首相のやり方には、当然、批判も出てくる。普通に考えれば、どうもおかしい。当たり前の感性を持っている人なら、誰でもそう思うはずなのだ。

東京新聞6月21日付

派遣「常態化」させた首相
憲法論議 覆した「常識論」

<リード>
小泉首相が20日、記者会見し、イラクからの陸上自衛隊撤収を発表した。約二年半前、首相は国内の反対論を「常識論」で押し切り、自衛隊派遣に踏み切った。それが安全保障論議の積み重ねを根底から覆し、国会論議の形骸化を招いた弊害は否定できない。
<本文略>

 ここでは本文は省略したけれど、要するに、小泉首相がなんでも「常識論」で押し通すことで、これまで積み重ねられてきた憲法論議、法律解釈、などがすべてどこかへ吹っ飛んでいったしまったという批判である。

 国を治めていくということは、一つひとつの事象を検証して、それがいかに「常識」から外れていようが、法体系の中でキチンと整理され収められることを確認しながら進むということでしかない。それが法治国家の最低限の在り方。


 ところが、小泉首相はそんな最低限の手続きさえまるで無視して突き進んでしまった。
 それを許したのは、小泉首相のワンフレーズを多用したテレビの渦に巻き込まれた、実に私たち有権者であった。
 苦い思いが胸に残る。

「こんな程度の公約ぐらい守れなかったといって、そんな大したことじゃない」
「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろ」
「どこが戦闘地域かなんて、いま私に聞かれたって、分かるわけがないじゃないですか」
「女の涙は最強の武器」
「フセインが見つからないからといって、フセインがいないことにはならない。だから大量破壊兵器が見つからないからといって、それが存在しないとは言えない」

 書いていて、イヤになるよね
 淋しいことに、こんな出来の悪いデタラメな言葉の数々に、思わず拍手してしまった私がいてあなたがいたのだ----。

 「常識論」のみで政治が動くのであれば、憲法も法律も何もかも、そんなものは必要なくなる。その時々の政治家の常識とやらで何でもやってかまわないことになる。
 ここで注意しなければならないのは、あくまで「政治家の常識」という点だ。彼らと私たち有権者との常識の違いは、これまでもずいぶん指摘されてきた。
「政治家の常識は国民の非常識」などと揶揄されていることは、みなさんもご存知のはず。
「非常識」で政治を動かされたらたまったもんじゃない。

 最近よく言われる「増税」「医療費負担」「少子高齢化」「地方切捨て」などなど、私たち国民と政治家たちの意識の乖離はもはや目を覆いたくなるほどのところまで来ている。
 そんな危険な「常識」をこの国に持ち込んで、ワンフレーズ人気をいいことに、あの中曽根元首相でさえ出来なかった「戦後政治の総決算」を、いとも軽々とやってしまった小泉首相。
 軽すぎる。

 9月まで待てない。
 早く退陣して欲しい。

32,552

 毎日新聞6月26日付の『発信箱』というコラムに、山田孝男さんという記者が怒りの文章を書いていた。

「撤退」と「撤収」

 政府は自衛隊をイラクから「撤収する」と発表し、毎日新聞は「撤退を決定」と報じた。これに対し、一部で「毎日は『退』という字を用いて敗北感を強調し、自衛隊をおとしめている」「政府発表を故意にねじ曲げている」などと言い立てる向きがあると聞き、驚いている。
<中略> 
毎日新聞は、イラクからの外国の軍隊の引き揚げに言及する場合、凱旋か敗走かというニュアンスとは無関係に「撤退」という表現を使ってきた。
小泉純一郎首相は「撤収」と発表したが、自衛隊だけ表現を変えるのはバランスを欠くという判断で、小紙の見出しは「撤退」が基本になっている。
<中略>
面白くないのは、待ってましたとばかりにこういう問題をメディアたたきに利用する煽動家の存在だ。今から69年前、国会質問に「軍人を侮辱する言辞」があったかどうかで陸軍大臣と議員が争う騒ぎがあった。「自衛隊を侮辱する言辞」に目を光らせる時代でなくて幸いだ。お先棒担ぎの言葉狩りに自重を求めたい。

 誰がどういう意図で、こんなクレームを毎日新聞に投げつけたのか、それは書いてはいなかった。
しかし、たしかに山田記者が危惧するように、この程度の言葉遣いにクレームをつけてくるような風潮が最近のこの国を覆い始めたことは、ひしひしと感じる。その風潮を助長し、自己に都合のいいように使ったのは、やはり小泉首相ではなかったか。

 繰り返します。
 9月まで待てません。

 
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