ホームへ
もくじへ
今週のキイ

最新へ バックナンバー一覧へ
 暑い夏。その暑苦しさを倍加させるような、よく分からない論争が続いている。それが、靖国問題。

 折からの自民党総裁選挙に絡んで、
「A級戦犯は分祀すべきだ」
「いや、それは宗教上できないことだ」
「それなら靖国神社を宗教法人でなくす方法はどうか」
「それを国が言い出せば宗教への介入になる」
「ならば国立の無宗教慰霊施設を作ればいいではないか」
「千鳥が淵墓苑を拡張して海外要人が参拝できるようにするべきだ」
いやもう、何がなんだか。

 そこへもってきて昭和天皇「不快メモ」報道。
「あれは捏造だ」
「いや、あれこそ天皇のお心そのものだ」
「この時点で報道されたことにはある種の謀略を感じる」
「いやそんなことはない、あれは正当な日経新聞のスクープだ」
ともう何がなんだか分からん状態。

 そこへ今度は、安倍晋三自民党幹事長の靖国参拝が明らかに。
 安倍氏は今年4月15日に、靖国神社に参拝し、「内閣官房長官、安倍晋三」と記帳したという。
これに対し、公明党の神崎代表は「首相、外相、官房長官は靖国参拝を自粛すべきだとこれまでも申し上げてきたはず。きわめて遺憾」と、強い不快感を示したという。安倍政権誕生前に、早くも自民・公明の連立政権にひびが入りかねない状況なのだ。
 それでも安倍氏は「今回の参拝は公式参拝にはあたらない。靖国参拝問題を総裁選の争点にするべきではない」と主張する。
いちばんこの問題を争点にしてしまっているのは、小泉純一郎総理大臣だと思うけれど、その跡を継ぎたい安倍氏は、その小泉路線を踏襲せざるを得ないらしい。
 さて、その小泉首相、あの裏切り続けた「公約」を果たすために、争点もなんのその最後の花道、8月15日にはお約束どおりに靖国神社に参拝するのだろうか。
 また騒がしくなりそう。

 


 そこで、今週のキイ・ワードは
「靖国問題」
で決まり、とは思ったけれど、それよりもっと大事なことが今、起きているのではないか、と考え直した。現実の人間の命にかかわる、凄惨な出来事が。

 「中東の真珠」と呼ばれた美しい都市だったベイルートは、航空写真で見る限り、まるで虫食いのような穴だらけの無残な都市に変貌している。イスラエルの激しい空爆の結果だ。

 これほど悲惨な戦争も(戦争は悲惨に決まっているけれど)あまり例がない。イスラエルの猛烈な空爆で殺されているのは、ほとんどが何の関係も、もちろん何の罪もないレバノンの子どもたちや一般市民だ。

 戦闘を繰り返すイスラエルとイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの、どちらが正しいのかを、ここで述べるつもりはない。その判断材料を持ち合わせてもいない。
 戦争当事者は、必ず自らの正当性を主張する。今回も、イスラエルは「自国の兵士がヒズボラに拉致されたことが、ことの発端である。彼らを解放しない限り、ヒズボラに対する攻撃は続行する」と繰り返し主張している。
 しかし、これに対してヒズボラ側は、「レバノン領内に侵入してきたイスラエル兵士を捕虜にしたもので、これは戦時中の正当な行為であり『拉致』などではない」と言い返す。
 どちらの言い分に正当性があるかは分からない。しかし、そんな論争が殺し合いに発展していいわけがない。

 圧倒的な武力を誇るイスラエルの攻撃は容赦ない。
8月6日現在での死者は、イスラエル側約94人(兵士58人、市民36人)。対するレバノン人の死者は(ヒズボラの戦死者も含め)すでに1000人を超えたと報道された。しかし、爆撃で破壊された建物の瓦礫の下にはまだ相当数の人が埋もれていると見られ、レバノン側の死者数は確定できていない。
 多分、イスラエル側の20倍ほどの死者がレバノンでは出ているらしい。それでもヒズボラ側は反撃、イスラエル領内に多数のミサイルやロケット砲を撃ち込み、戦闘が収まる様子は今のところ、ない。


 ここで問題になるのは、やはりイスラエルに大きな影響力を持つ超大国アメリカの存在だ。

 アメリカは、現在でも膨大な支援をイスラエルに対して与えている。そのアメリカがイスラエルに対し圧力をかけ、攻撃中止を求めれば、いかに強硬なイスラエルとはいえ、その政策を変えざるを得ないはずだ。
 しかし、国連安全保障理事会でのアメリカは、イスラエル寄りの立場を鮮明にして、停戦決議を成立させようとする他の諸国の足を引っ張るばかり。
 国連安保理のレバノン決議案は、結局、このアメリカのごり押しでかなり中途半端なものになってしまった。

どういうことか?

 これまで安保理常任理事国であるフランスは、「イスラエル、ヒズボラ双方の敵対的行為の即時中止」を求める決議案を提案していた。これに対し多くの安保理理事国はこのフランス原案への支持を表明していたのだ。
 ところがアメリカはこれに不満を表明。決議案をなんとか通したいフランスとの間で折衝が続いた。
 その結果、アメリカ・フランスは合意。その合意内容が、先ほど書いたような中途半端なイスラエル寄り決議案となったのだ。
 合意内容は「イスラエル、ヒズボラ双方の敵対的行為の全面即時中止」を求めてはいるが、付帯的に「イスラエルの防衛的な行動は認める」という。

 なんとも釈然としない。
 ヒズボラには「戦闘行為の全面的中止」を要求しておきながら、イスラエルに対しては「防衛的な行動は認める」という。つまり、イスラエルが「これは防衛的戦闘行動である」といえばそれは認められるが、同じようにヒズボラが「イスラエルの攻撃に反撃する」ということは許さない。
 いわゆる「反撃権」を一方だけに認め一方には認めない、ということであれば、これは到底フェアとは言えまい。
 双方に「即時全面戦闘行為中止」を求めるのが、国際社会のあるべきルールではないのか。アメリカの一方的で手前勝手な超大国ぶりがここにも表れている。どこまで突っ走ろうというのか。


 ここで、もうお忘れになっている方も多いと思うけれど、アフガニスタンについても少しだけ触れておく。

 アフガンでは、あの強硬派イスラム原理主義組織タリバンが、息を吹き返しつつある。
 アメリカの後ろ盾でなんとか政権を維持しているカルザイ大統領だが、その勢力はやっと首都カブール周辺に及ぶだけ。あとは、またしてもタリバンや地方軍閥が跋扈するという状況に陥っているという。
 タリバンは、その勢力を1万人前後にまで復活させつつあり、かなり大きな戦闘行動をとれるまでになっている。
 アフガン政府は政権維持能力を失い、アメリカの顔色を見て動くだけ。政権内部にはまたしても汚職や賄賂が横行し腐敗が進んでいる。そのことに国民が怒り、タリバンの勢力伸張を喜ぶ住民まで現れているという。
 最近でも、イギリス軍がタリバンの攻撃を受け、かなりの死者を出したばかり。いったい、あのアフガン戦争とはなんだったのか。もはや、それを語れるものはどこにもいない。 ただ、またもや銃声と爆音が、荒れ果てた大地に復活してしまっただけだ。

 さらに、イラク情勢は一向に好転しない。
 アメリカ高官が「現在のイラク情勢は、戦争以来最悪のレベル」とまで語っている。ほとんど内戦状態なのだという。誰が、何が、どんな思惑がその内戦を招いたのか。

 アメリカは、アフガン、イラクに続いてレバノンでも、イスラエルを支持することによって泥沼に足を踏み込もうとしている。
 この超大国、どこまで、そしていつまで、戦争を続けるのだろうか。
 私たちの国日本は、どこまで、そしていつまで、この超大国にすがり付いていくのだろうか。

 
ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
このページのアタマへ