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今週のキイ

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 この原稿を書いているのは9月19日。だから、明日の「自由民主党総裁選挙」の結果は、まだ分かっていない。
しかし、分かっている。

 どんな突発事件が起ころうと、安倍晋三官房長官の「総裁当選」は間違いない。誰かが言っていたように、まるで消化試合の様相なのだ。後は、誰が大臣の椅子を射止めるか、つまり誰がいちばん安倍氏のお気に入りになるか、という忠勤合戦。
 なにしろ、政策や思想がどれほど違おうと、雪崩をうっての安倍支持なのだ。政治家連中の浅ましさもここに極まる、としか言いようがない。

 そんなわけで、すっかり国民はシラケているのだが、なにせこれから私たちの国を引きずり回そうという安倍氏だ。
 このコラム、触れないわけにはいかない(イヤだけど)。

 

 そこで仕方なく、

安倍晋三


 まず、次の記事を読んでほしい。


(毎日新聞9月18日付)

日中国交正常化「責任二分論は認識」
安倍氏、発言を修正

 安倍晋三官房長官は17日、NHKの討論番組で、72年の日中国交正常化に際し中国が日本の戦争指導者と一般国民の責任を分けて自国民を説得した経緯について「中国側が(そういう説明を)言ったのは事実だと認識している」と述べ、「やりとりは知らない」としていたこれまでの発言を修正した。
 戦争指導者と一般国民の責任分離論は、日本の首相がA級戦犯を祭る靖国神社に参拝することに対する中国側の批判の論拠になっている。安倍氏は11日の日本記者クラブでの公開討論会などで、日中平和友好条約などの公の文書にそうした事実が書かれていないことを念頭に「文書がすべてだ」などと発言し、中国側の論理を容認しない姿勢を示していた。
<後略>


 あああ、やっぱりね、なのである。
 先週のこのコラムで、安倍氏はすぐに前言を修正撤回訂正する「前言訂正首相」になるのではないか、と指摘した。
 その指摘が、1週間も待たずに証明されてしまった-----。


 かつて村山首相が表明した「植民地支配をした近隣諸国への痛切な反省とお詫びの気持ち」を、「認められない。個々の歴史は後世の歴史家の分析に任せるべきであって、政府が言及すべきではない」と否定したが、批判を浴びると、すぐに訂正。「村山談話は、歴史的に内外に発表したものであり、その精神はこれからも続いていく」と、ほとんど意味不明、自分の判断はまるで留保してしまって、わけの分からない言い訳で逃げてしまった。
 そこへ、今回の「修正」である。

 上の記事中の、中国側の「戦争責任分離論」は、周恩来首相(当時)が、日中国交回復交渉にあたって日本政府に配慮、戦争責任論で両国政府がギクシャクしないようにと、きわめて苦労してあみ出した論理だった。
 すなわち、戦争を指導した者には責任があるが、戦争に駆り出された一般国民には責任はない。したがって、この両者を一緒に考えてはならない。日本の一般国民に負担となる戦争賠償金の請求は放棄する。その上で、国交を回復しよう。
 これが、周恩来首相の唱えた「責任二分論」だったのである。

 まさに外交の名手、相手(日本)の最も弱点である部分を巧みに避けながら、最終的には感謝さえされて交渉をまとめあげる。当時の田中角栄首相が、死ぬまでこの周恩来氏を尊敬していたのは、そのような事情による。
 そしてそれは、少なくとも政治に携わるものであれば、常識ともいえる日中国交回復交渉での経緯だった。

 もちろん安倍氏がそれを知らないはずがない。もし知らないのだとすれば、安倍氏に政治家を名乗る資格などない。これは戦後日本における外交史の、もっとも大きな出来事のひとつなのだから。


 安倍氏がそう否定したいのは、どうあってもA級戦犯を認めたくないからだろう。中国側の責任二分論を認めれば、安倍氏が尊敬してやまない祖父・岸信介元首相の評価にも関わってくる。すなわち、岸氏がA級戦犯容疑者として逮捕されたことがあるという歴史上の事実をどう考えるかに関わってくるからである。岸氏は明らかに、二分されたうちの「責任者」の側に入る。
だから、この論理を認められないのだろう。

 だが、歴史を抹殺するわけにはいかない。

 歴史の事実を認めたくない者がいる。
 歴史の負の部分を修正したい、と願う者がいる。
 これを「歴史修正主義者」と呼ぶ。
 明らかに、安倍氏はこの「歴史修正主義者」である。


 安倍氏は「この二分論は、文書として残されていないから、私は知らない。外交とは、文書に残されたものだけが有効なのだ」と主張していたのだ。しかし、当然のことながら、「こんな外交上周知のことを否定するのは、どう考えてもおかしい」という批判を浴びた。
 で、早速の修正発言になってしまったというわけだ。

 まったく、こんなに大事な問題、それも外交問題での歴史認識がこれほど従来の政府見解と違っている方も珍しい。しかも安倍氏は、その違う主張をこれまで繰り返してきたのだ。
 ところが、次期首相という立場になり、発言が今までとは比較にならないほど注視されるようになると、その中身の危うさがどんどん白日の下に晒されることとなった。一介の若手政治家の放言、ということでは済まされなくなってきたというわけだ。
 そこで「発言訂正」の連発となる。

 責任のないときには、強くてカッコつけたことを喋りまくるけれど、責任が見えてくるやいなや、さっさと危険地帯から逃げ出す。
 何度でも書くが、これが「闘う政治家」の実態だ。
 情けない。


 小泉首相は「ブレない首相」と言われた。
 とにかく、一度言い出したことは曲げなかった。それがどんなに無内容であり、屁理屈であり、ひどいこじつけであったとしても、とにかく最後まで突っ張った。それが、相当にひどい「格差社会」を作り上げたにもかかわらず、最後まで人気を維持できた理由だろう。

 では、比べてみて安倍「次期」首相はどうか。
 とにかくこの人、徹底的に信用ができない。

 たとえば、あの「統一協会疑惑」(悪名高い合同結婚式に祝電を送ったという事件)に際しても、秘書の「内容がよく分からなかったが、付き合い上、電報を送っただけ」と、これまた無内容な言い訳でごまかそうとしたのは有名な事実。
 相変わらずの「慎み深いメディア」の方々は、ほとんどこの事実さえ報道しなかったが、最近になってようやく一部週刊誌が突っ込み始めた。しつこく事実を掘り起こして伝えてほしいものだ。
 この件にしても同様だが、何があってもまともに事実に対応しようとしないのが、この安倍氏なのだ。


 共同通信は、以下のような記事を配信した(9月15日)。


次期首相に参拝中止要請
米大物議員の抗議相次ぐ

 [ ワシントン14日共同 ] 米下院外交委員会の重鎮、ラントス議員(民主党)は14日の公聴会で、小泉純一郎首相の靖国神社参拝を非難し、次期首相に参拝中止を要請した。さらに、太平洋戦争中の南京大虐殺の実態を否定する教科書を「日本政府が認めている」と指摘。「歴史を否定する者は(同じことを)繰り返す」と、歴史問題に対する日本政府の態度を強く批判した。
 同委員会のハイド委員長(共和党)も同神社内の展示施設「遊就館」の太平洋戦争に関する説明内容を修正すべきだと主張しており、米議会の大物が日本側の歴史認識に相次ぎ抗議した格好だ。
 11月の中間選挙で野党民主党が下院を奪回した場合、ラントス議員は同委員会の委員長に就任する予定。同議員は第2次大戦中のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の生存者でもある。


 頼みの綱のアメリカでさえ、与野党を問わず、安倍氏の歴史認識には否定的だ。小泉批判の形をとりながら、安倍「次期」首相にはっきりと釘を刺したわけだ。
 これにも安倍氏は「公聴会とはいえ、一委員会のことであり、アメリカ議会がそのような認識を示したわけではないので、これについては特段のコメントはありません」と、記者会見で話した。
 都合の悪いことにはダンマリで、批判が強くなれば「前言訂正」。しかし、このアメリカからの反応は、安倍氏の「靖国問題」にも関わるだけに、ダンマリを押し通すことは難しいだろう。
 いずれ、何らかの形で、はっきりとした答えを出さざるを得まい。そのとき、アメリカに対し「NOと言える」のか?
 小泉首相のアメリカ追随外交を継承するという安部氏が、どうやってこの苦境を切り抜けられるか。  多分、またしても「前言訂正」、ウヤムヤ決着を図ろうとするに違いあるまい。そして自らの発言に足をすくわれ、苦境に陥るだろう。

 この予言、多分、当たりますよ。

 
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