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今週のキイ

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 新聞の号外は出る。テレビは特別番組を組み、ニュースは時間延長。ネットの世界でも、この話で大騒ぎだ。
 なんとも憂鬱な話だ。そして、なんとも理解不能な国だ。いや、国というべきか、独裁者個人の資質というべきか。
 実際、どう考えても自分の首に縄をかけてしまったようにしか見えないのだが、この男にどんな成算があるのだろうか。

 とても憂鬱なのだが、今週はこのことに触れるしかないのだろう。実は、安倍首相の訪中・訪韓の成果(?)についての資料集めや取材をしていたのだが、それも吹っ飛んでしまった。

 仕方ない。今週のキイ・ワード は

北朝鮮 核実験
 今回の北朝鮮による「核実験」が成功したのか否か、まだ確定されてはいない。北朝鮮のテレビ・ラジオは例によって「大成功!」を喚きたてているが、真偽のほどはよく分からない。
(それにしても、あのアナウンサーの絶叫調はなんとかならないものか。全部胡散臭く思えてしまう)。

 なにしろ「核爆発」にしては、測定された地震の規模が小さすぎる。軍事筋の初期の分析では「予定していた爆発規模には達せず、実験としては失敗だったかもしれない」との評価も出ている。
 韓国の測定ではマグニチュード3.5、日本では4.9、アメリカでは4.2と、これまた小さな数値でバラバラなのだ。

 一部、謀略説好きの人たちの間では、「北朝鮮の核爆発までの技術は未完成なので、国際政治での駆引きに使うために、TNT火薬500〜600トンを集積したものを爆発させて各国の地震計に振動計測させて、核実験成功を装ったのではないか」などという、かなりトンデモ系の説まで飛び交っている。

 


 このようなあやふやな状態の中で、金正日が何を目指して「核実験」に踏み込んだのかは定かではないが、実は相当に追い込まれているというのは事実のようだ。
 アメリカの金融制裁に続いて、今年7月の大洪水による被害が、凄まじい飢餓状況をこの国に及ぼしている。そのため、軍隊にまで食糧が回らず、軍部の不満はかなり抜き差しならぬところまで来ているという。
 そのため、軍部と金正日周辺との間に軋轢が生まれ、今回の「核実験」が軍部主導で行われ、金正日の意思が無視されたのではないか、との観測がある。それとはまったく逆に、軍部の躊躇を押し切って金正日が強行した、という説もある。
 いずれにせよ、北朝鮮という国家の内部で、二重権力に近い状況が生まれつつある、という観測には信憑性がある。

 ここで、日本など周辺各国(アメリカも含む)の役割が重要になる。

 とにかくこの国へ情報を伝えることだ。もはや「鎖国」に近い状態にあると思われる北朝鮮だが、脱北者がこれだけ増えているというのは、ある程度、情報が国民に伝わっていることの証左である。
 むろん、政治レベルでは様々な駆け引きや、脅し、制裁、国際的包囲網なども必要ではあろうが、それと並行してこの国へ、この国の国民へ「正しい情報」を送り込むことが何よりも必要なことだろう。
 情報によって国民の目を開かせること、それは迂遠な策に見えるかもしれないが、軍事的政策で多くの人命を失うよりは、時間はかかっても賢い政策であるはずだ。

 冷戦が終わってから、私たちは余りに多くの血が流れるのを見た。
 冷戦終結によって、大地の血は乾くだろうとの期待は、何度も繰り返し裏切られた。
 その轍をまたしても踏もうというのか、アメリカよ。

 どうあっても、軍事制裁に頼ることだけは避けなければならない。先制攻撃などしようものなら、北朝鮮が脅しの常套文句として使っている「ソウルを火の海にする」という言葉が現実になりかねない。
 そんな地獄絵図を現出させてはならない。


 それにしても、金正日という人物は、安倍晋三氏の後援者なのではないか。
 そんな邪推をしたくなる。
 もちろん、そんなことはあり得ないが、結果として、金正日のやったことが安倍首相誕生を後押ししていることは間違いない。

 安部氏がわずか13年間の代議士経験で首相の座を射止めたのは、やはり「拉致問題」の影響が大きい。これを自らの政治信条の最重要課題として押し出したことが、安倍氏台頭のきっかけになった。「拉致問題」に対する国民的怒りに乗り、その怒りが生み出したナショナリズムを徹底的に利用することによって勝ち得たのが、今回の自民総裁選の結果だった。
 ある意味、金正日が行った拉致政策が、安倍氏の人気を煽ったのだ。

 そして、今回である。
 安倍氏にとって、今回の訪中・訪韓はかなりのリスクを背負ったものだったはずだ。
 いかに、事務方が根回しをした後だとはいえ、中国も韓国も、自国民向けには「靖国問題」に触れざるを得なかったはず。
 ただ、経済的思惑からなんとか日中間の行き詰まりを改善したい中国は、安倍首相(自称闘う政治家)の「靖国参拝をしたかどうかは明らかにしない」という、どう考えても軟弱な(闘わない)言い逃れを今回だけは不問に付そうとしたようだ。
 しかし韓国にはそうはいかない事情があった。
 支持率がジリ貧傾向にある韓国の盧武鉉大統領は、この「靖国問題」で強く自国民にアピールし、支持率回復につなげたいと考えていた。
 ところが、安倍首相には天恵か、北朝鮮の究極の瀬戸際政策・核実験! 盧大統領は、首脳会談の冒頭では「靖国・歴史認識問題」に触れたものの、時間の大半は北の核実験に割かざるを得なかった。
 靖国問題は、結局ここでもあいまいなままに終わったのだ。
 まさに、安倍首相にとっては「金の援け」だった。

 これで安倍首相は、最初の難関を乗り切ったと思っていることだろう。しかし本当は、これからが正念場なのだ。

 日本国内からは、北朝鮮制裁の大合唱が起きつつある。
 そして、一部の人々(安倍首相のブレーン学者を含む)からは「日本核武装論」まで飛び出し始めているのだ。まさに、危うい状況。

 アメリカのメディア(「ニューヨークタイムス」や「ワシントンポスト」など)では、「北朝鮮の核実験が、日本国内の右派勢力を刺激し、核武装論者を勢いづかせかねない」との懸念が表明されている。むろん、日本だけではなく、韓国や台湾でもその恐れはあり、核拡散状況は最悪のシナリオを迎えつつある、とも書かれている。
 しかもメディアだけではない。その同じ懸念は、アメリカ議会の国際情勢に関する報告書でも示されている。

 こんな懸念は日本人なら一笑に付すだろう。
 しかし忘れてはいけない。数年前、安倍晋三氏その人が、早稲田大学での講演で「小規模の核兵器を持つことは、憲法上でも禁止されているわけではない」と明言しているのだ。
 忘れてはいけない!

 現在ただいまの私たちの国の首相が、自国の「核武装論」を、いまだに明確に否定してはいない、という事実を、私たちは絶対に忘れてはならない。

 それにしても、金正日という人物。
どういう言葉で表現すればいいのだろうか。
退場させなければならない。それだけは確かだ。

 
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