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今週のキイ

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 ついに「教育基本法改定」に続き「防衛庁の省昇格案」までが、衆議院を通過してしまった。この防衛庁省昇格に付随して、自衛隊法までもが改定されようとしている。そして、自衛隊の「海外任務」は、これまでのような暫定措置ではなく、「本来任務」として恒久化されることになる。
 そして次には「共謀罪」や「憲法改定のための国民投票法案」などが控えている。

 かつてはジョークとしてしか受け取られてこなかった「戦争のできる国」作りが、着々と進行中なのだ。
 
 なぜこうも急速に、不気味な体制作りが具体化していくのだろうか。
 やはり、この国の「右傾化」が背景にあるのだろう。

 そこで、
右傾化
 について考えてみたい。


 12月1日付の朝日新聞に、興味深い記事が掲載されていた。

新右翼の欧州
右翼支持拡大 深層は
停滞に不安、政治を拒絶

というタイトルの海外ニュース面の記事だ。
 この中で、パスカル・ペリノー氏(現代フランス政治研究所長)という方が、ヨーロッパにおける右翼の台頭の原因を、次のように3つに分析している。

(要約)
 欧州で右翼が存在感を増しつつある理由は次の3つ。

(1) 既存の政治に対する拒絶反応、政治家への不信。政権が右でも左でも大差なく、目に見える部分に違いがない場合、不信の受け皿は野党に向かわず政治そのものに向かい、政治全体が見放された。政治家は腐敗し、口先ばかりという政治不信が蔓延したヒトラー台頭の1930年代によく似ている。
(2) 社会、経済の停滞。安定雇用の崩壊と失職の恐怖。教育を受けても人生設計が描けない社会の閉塞感。その恐怖や閉塞感のゆえに、多くの労働者や失業者が右翼支持に流れた。
(3) アイデンティティーの危機。アメリカ一極中心という世界情勢に対するある種のあきらめ。そして中国やインドの台頭で、自国への自信喪失。そこで、神話的な過去の栄光にすがりたい気持ちを右翼は利用する。

 以上がパスカル氏の分析の要約だが、私たちの国にも概ね当てはまるような気がする。

 
 特に、(1)の指摘は日本の状況そのものだ。
 このところの地方の首長や幹部たちの腐敗ぶり、次々と汚職や談合の疑惑で逮捕され辞任していく県知事や市長たち。
 さらには、郵政民営化選挙での造反議員の自民党復党騒ぎ。何の根拠も理屈もなく、自らの政治信条までかなぐり捨てての復党願い。それを来年夏の参議院選挙に利用するためだけに認めようとする自民党の幹部たち。
 「政治家は腐敗し、口先ばかり」というように国民が受け取るのもやむを得ない。
 また、「防衛庁の省昇格案」で取った民主党の対応。これが自衛隊海外派兵の恒久化に直接かかわる法案であることを知った上での賛成への転換。本来は反対意見を持っていたと見られる民主党内のリベラル派議員たちでさえ、「小沢代表の下での結束」という名目で賛成に回ってしまったのだ。
 これでは「政権が右でも左でも大差なく、目に見える部分に違いがない場合」というパスカル氏の指摘に、ピタリと当てはまる。
 与野党の政策にあまり違いが見受けられなければ、別にどちらを支持するかなどどうでもいいことになり、より強い過激な言動をとる人間に引きずられかねない。
 中川昭一自民党政調会長などが一定の人気を博すのは、この分析からもよく分かる。


 (2)の指摘も、私たちの国の現状を映し出していると言える。
 まさに、安定雇用の崩壊。そして人生設計が描けない恐怖。かなりの教育を受けていながら正社員になれず、働けど働けど食べるだけで精一杯、というワーキング・プア層の大量出現。
ほんとうに、明日がどうなるか、明日をどう生き抜くか、その方法さえ分からないのであれば、とにかく過激に現状を打破してくれそうな言動に人々は吸い寄せられる。
 「自民党をぶっ壊す!」と絶叫した小泉氏に圧倒的な支持が集まったのは、これを意味する。
 しかし、安倍首相はこの小泉路線を受け継ぐわけには行かなかった。
 何しろ、よく考えもせずに突っ走った小泉氏の政策の整合性は、いたるところで破綻をきたしているから、とてもそのままに突き進むことなど出来はしないのだ。
 雇用崩壊をもたらし、「格差社会」や「負け組」を大量に生み出したのは小泉改革のひずみである。放っておけばこのひずみは拡大するばかりだ。だから安倍首相としては「再チャレンジ」などと、この「負け組」救済を政策として掲げざるを得なかったのだ。
 その一つのシンボルとして打ち出したのが、「中央官庁での100人規模(たった100人!)のフリーターやニートの中途採用」という、お題目ばかりの政策だった。ところが、こんなチャチな政策でさえ、「フリーターやニートの定義が難しい」との理由で取りやめになったというのだ。
 小手先ばかりの「再チャレンジ」など、掛け声だけのごまかしだったことがよく分かる結末である。


それでも「再チャレンジ」へ、これから方向性がむいていくならばまだ話は分かる。
 ところが、政府の税制調査会が打ち出したのは「法人税の軽減」という政策だ。簡単にいえば「企業減税」である。
 大田弘子経済財政担当大臣ですら「景気は回復基調にあるとはいえ、企業収益が社員の給与に反映されていないのが現状」と、景気回復と労働者所得がうまく連動していない点を指摘している。
 つまり、「企業は儲けているが社員にはその儲けを配分していない」ということだ。そんな中で、なぜ儲かっている企業を減税しなくてはならないのか。当然ここは、労働者への利益の還元を図り、真の消費需要喚起を行っていくのが筋だろう。
「企業の業績が上がれば、いずれ労働者の賃金も上がり、景気は本格的に改善される」というのが、相も変らぬ財界筋の説明だが、こんな理屈がこの厳しい消費動向の中で通用すると考えているのだろうか。
 そして、それに乗ってしまう政府の経済政策とは何なのか。
 財界が「政治献金」の再開や上限アップを言い出していることと、この政府の経済政策が関係ないと見ることは、私にはできない。


 さらに、派遣業法の改定も図られている。
 これはどういうことか。
 今まで派遣で働いていた人たちには、同じ会社で3年間同じ業務に従事していれば、正社員化される、という道が開かれていた。
 ところがこれを撤廃しようというのだ。
 要するに、会社側はそういう法律に縛られることなく、派遣労働者の雇用も打ち切りも自由にできるということを、法律で認めてしまおうというわけだ。
 これも、どう考えても企業に都合のいい改定だ。ここには「再チャレンジ」の精神など、かけらもない。格差を拡大してしまうだけだろう。
 かくして人生設計を考えることさえできなくなった若者たちは、どこへ向かうのか。
 
 それが(3)だ。
 中国の台頭は凄まじい。なにしろ10億の民を持つ大国。その人的資源たるや、ハンパじゃない。中国製の自動車なんて、と笑っていられたのも数年前までだ。その性能は、日本製に追いつくところまで達しているというし、特にIT分野での伸張は著しい。
 食物に関しても、日本はもはや中国からの輸入を抜きにしては成り立たないところまで追い込まれている。スーパーで野菜売り場を一回りしてみるがいい。その中国産の野菜の量に圧倒されるだろう。
 日本の貿易量では、対中国がすでにアメリカを抜いて第一位の座を占めている。

 ここまで経済的に中国の進出を許してしまった以上、外交力をより強化して友好関係を保たなければ、日本という国そのものの存続にさえ関わってくる。アメリカは、アジア外交の軸を、すでに日本から中国へ移してしまっていると、多くの外交専門家は指摘している。
 アジア第一の地位を中国に奪われようとしていることに苛立ち、反中国の旗を振りかざす一群の人々がいる。
 それらの人たちが、実は安倍首相のブレーンになっていることは、周知の事実である。
 確かに今まで経済的にアジアをリードしてきた日本が、中国にその座を奪われつつあることに悔しさを感じる人たちが「反中国」を言い立てる心情も、分からないではない。
 だからといって、それでどうなるのか。日本には日本の行き方があり外交があるはずだ。外交力を駆使して政治的にアジアの盟主になることは、日本という国にとっては十分に可能性を持った方向なのだ。
 アメリカから離れて、独自の外交力を構築すべきときが来ている。

 パスカル氏が指摘する。
「神話的な過去の栄光にすがりたい気持ちを右翼は利用する」
神話は神話でしかない。現在の世界は神話的発想では動いていない。
 
 排外主義的ナショナリズムが、私たちの国を覆わんとしている。
 他国を傷つけるような言論を繰り返すことが、日本を愛することではない。他国を貶めたからといって、日本が偉くなるわけでも素晴らしい国になるわけでもない。

 神話は神話として大事にしよう。過去の栄光も、思い出として大切にしよう。そしてその上で、新しい栄光を得るために、私たちは世界各国、特にアジア諸国といい関係を結びたいのだ。

 出生率の低下が止まらない。いずれ私たちの国の「少子高齢化」は行き着くところまで行くだろう。その時、誰がこの国の産業を担うのか。高齢化した社会の介護や医療に携わるのはいったい誰か。
 右傾化を推し進めている人々、政府の一部の方々、雑誌やテレビでしきりに排外主義・ナショナリズムを煽る人たち、そしてそれらを支持しているあなたたちに問いたい。
 あなたが排斥している外国や、その国の人々に働いてもらわなければ立ち行かなくなる日本社会、なぜそれを想像できないのか。
 外国人労働者の手を一切借りずに、日本という国が未来永劫まで存続できるとお考えか。

 絶対に戦争をしない。平和に稼ぎ暮らすことができる。外国人たちにそんな憧れを持って働きに来てもらえる国に、そしてそんな外国人たちと共生できる国に日本がなることは、はたして夢想だろうか。

(今週のキイ選定委員会)
 
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