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今週のキイ

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 みなさん、とりあえず、謹賀新年。
 今年もよろしくお願い致します。

 
 昨年は、どう思い起こしても、あまり良い年だったとは言えない。浮かんでくるのは、何か苦い味ばかり。
 世の中、どうやら総崩れ状態。
 国際的にも、イラク情勢に見るブッシュ大統領の悲惨な敗北。
 サダム元大統領処刑に伴うイラク情勢のさらなる悪化。
 そして、イラクでの米兵死者3000人突破。
 北朝鮮の大迷走。
 イスラエルとパレスチナの先行きの見えない闘い。
 イランの核開発。
 大きくは取り上げられないが、ソマリアやスーダンの泥沼の内戦。
 温暖化はとめどなく、気象異変は止まらない。
 明るい話題には、とんと行き着けない。

 日本でも、何かがガラガラと崩れていく気配。
 正月から肉親殺害、家族の崩壊。
 しかしそんな中でも特に、政治の壊れ方がひどい。


で、本当は新年にはふさわしくないのだけれど、

スキャンダル

 年末の、まず第一弾は、本間正明政府税務調査会会長のスキャンダル辞任。
 「ぜいたくな公務員宿舎は売却すべきだ」と主張していたご本人が、ちゃっかりと「妻ではない女性」と一緒に、東京の公務員宿舎で暮らしていた、という情けないお粗末。
 この人を税調会長に任命したのは、企業減税政策で意見を同じくする安倍首相の強い意志だったという。だから、本間氏解任をどうしても避けたくて、安倍首相は優柔不断を絵に描いたようなグズグズぶり。
 そこをマスコミなどから叩かれ、自民党内部からも不満が高まり、仕方なしの解任。自ら煮え湯を飲む破目に陥ったのだ。

 それに追い討ちをかけたのが、佐田玄一郎内閣府特命行政改革担当大臣(なんなのだ、このポストは? やはり安倍晋三氏のお友達のためのお情け人事か?)の架空事務所経費7800万円をめぐる政治規制法違反容疑。
 これ以上、内閣支持率が下がってはたまらない。とにかく、年を越さないうちになんとか決着を、とばかり、あっという間の辞任劇。
 この佐田さん、祖父・一郎氏は参議院議員、父・武夫氏は佐田建設の社長という、やっぱりそれなりの筋の一族。親の七光り議員の弊害が、ここにも出てきてしまったということなのか。
 しかし、本間問題決着のグズグズさ加減が大批判を浴びた安倍首相、この佐田さんに関しては、早期決着を図ってあっさり首を切った。
 とりあえずこれでホッと一息、と思う間もなく、本命(?)が現れた。

 何かと疑惑の霧が晴れない松岡利勝農林水産大臣が、満を持して(?)スキャンダル劇場へ颯爽と(?)登場。
 この方、とかく悪い噂のあった法人エフ・エー・シーのNPO認証許可について、内閣府へ圧力をかけたのではないかと疑われている。
 しかも、「そんなこと絶対にない」と何度も会見でミエを切ったというのに、とうとう追求に屈し、「秘書が問い合わせだけはしたようだが、圧力をかけたわけではない」と、しどろもどろの前言撤回。
 またしても「秘書が」の言い訳である。なんともみっともない逃げ方ではないか。
 当コラムで安倍氏を「前言撤回首相」と命名したことがあったけれど、その安倍内閣の閣僚たちも、やはり仲良しお友達、同じ性格とみえる。
 むろん、タダで骨を折ってあげたりするわけはない。松岡氏、この疑惑の法人から120万円(もっと多いとの指摘もある)の献金を受けていて問題化した過去もある。それはなんとか切り抜けたつもりでいたようだが、今回のNPO認証圧力疑惑で、献金問題も再燃しそうな気配である。さて、どこまで踏みとどまれるか。

 閣僚だけではない。当の安倍首相ご本人も相当に危ない。統一協会の合同結婚式に祝電を送ったり、別の新興宗教団体(慧光塾)との相当きな臭い噂が流れていることは、すでに有名だ。
 さらに、安倍氏の母の洋子氏(あの岸信介元首相の実の娘)の、北海道にある巨大霊園と妙な観音様疑惑、というのも浮上しつつある。
 まさに、満身創痍のスキャンダル内閣と化す日も、そう遠くないと思われるのだ。


 安倍内閣に限ったことではない。
 安倍氏を「晋ちゃん」と親しげに呼ぶ石原慎太郎都知事もご同様。出るわ出るわの疑惑大賞。ついには、三男の石原宏高衆院議員も登場してのスキャンダル発覚。なんと、福島県知事逮捕に至った談合事件で逮捕された水谷建設元会長・水谷功被告などに宏高当選の祝宴を銀座吉兆という超高級料亭で開いてもらい、そこで500万円(3000万円という説もある)を受領した、というのである。この金の主旨は、いかなるものだったのか。
 四男の延啓氏にまつわる「余人をもって替えがたい」疑惑に続いての三男疑惑。「一難去ってまた一難」ということわざはあるが、「四男の次にはまた三男」である。シャレにもならない。

「情けなさ きわまりにけり 石原家」

 とでも言うべきか。それでも、とにかく知事の座は美味しいらしく(なにしろ、週に2〜3度しか登庁しなくてもこなせる程度の仕事である)、今春の都知事選にも早々と出馬表明をした。
 そして、オリンピック招致を知事選に利用しようと躍起である。自分が言い出したのだから、招致成功までは自分が知事をやるしかない、というのが石原都知事の理屈である。それこそオリンピックの政治利用だ。
 前都知事の青島幸男さんは、年末に亡くなった。石原都知事は青島さんと同年齢。この辺で花道を飾るのが、せめてもの引き際だと思うのだが、それほど権力の座とは魅力的なのか、それとも老いの妄執か。
 そして、なんと今度は、皇太子夫妻にオリンピック招致委員会の名誉総裁就任を要請したい、と言いだした。
 自らの選挙にオリンピック招致を利用しようとし、それにさらに箔をつけるために皇太子夫妻をも利用しようというのだろうか。病気療養中の雅子妃が気の毒とは思わないのか。
 先日も当コラムで指摘したように、北京オリンピックが2008年に控えている以上、2016年オリンピックの同じアジア地域の東京開催はほとんど無理、というのがジャーナリストたちのほぼ一致した見方だ。石原都知事にしても、それは分かっているに違いない。それでも選挙のためには、利用できるものはすべて利用する。
 これもある意味、政治的スキャンダルだ。


 噴出する頭の痛い事態に、安倍内閣、その支持率急落に歯止めがかからない。
 と、そこへ強力助っ人が現れた。

御手洗ビジョン

 御手洗富士夫・経団連会長が、2007年1月1日付けで発表した「希望の国、日本へ」と題された、なにやら誰かがぶち上げた空虚な「美しい国へ」に重なるような意見書である。

 このビジョンの中身、まったく安倍内閣の方向性に寄り添っているとしか思えない。まずは、


●法人税の実効税率を10%引き下げる。

 2011年までに、消費税率を2%引き上げ、その後時期をみてさらに3%引き上げる。

 つまり、企業は減税して庶民の消費税はアップする、というあまりに分かりやすい方針。これは失脚した本間税調会長が主張し、安倍首相も賛同していた「上げ潮路線」という政策だ。
 企業が儲ければ、いずれそれは社員の給料に反映され、消費が伸び、最終的に景気回復につながる、というすでに破綻した成長路線の繰り返しでしかない。いざなぎ以来の好景気などと浮かれる一部の大企業やメガバンクを除いて、昨年比で給料の上昇したところなどどこにあるのか。
 儲けたものは社員には還元しない。その代わり、役員報酬や株主配当はどんどん引き上げる。これが御手洗ビジョンの言っていることにほかならない。
 社員の給料はこの9年間、数%の下落か、よくて横ばいである。それに対し、役員報酬や株主配当はほぼ50%以上の上昇をみている。
 よくいわれる「格差社会」の格差は広がる一方なのは、このデータからもはっきりと読み取れる。


●労働関係諸制度の抜本的見直しを図る。

 これが、このところ論議の的になっている「ホワイトカラー・エグゼンプション」を意味していることは、自明だろう。
 すなわち、ある一定以上の年収の社員に労働時間の自由裁量制を敷き、その代わり残業手当を撤廃する、というもの。
 「時間内に仕事が終わらず残業をするのは、その社員の能力の問題。そんな能力の低いヤツに残業代を払う必要などない。さっさと仕事を片付けられる有能な社員にとっては労働時間の短縮になる」という理屈だ。
 では、能力以上の仕事を押し付け、残業せざるを得ないような状態にしておいて、「残業するのはお前の能力の問題だから、残業代など払わない」という経営者が出てきたらどうするのか。
 どう考えても、企業に都合のいい制度であることは間違いない。
 さすがにこれに対する労働者側の反発は強く、財界べったりといわれる自民党内部からさえ「今はまずい。参院選に影響する」と、懸念の声が出始めているし、連立与党の公明党・太田昭宏代表も反対の意向を示している。
 だが、安倍首相だけはどうあってもこの制度を実現したいらしい。こんなことを言っている。


 (毎日新聞1月6日付)
 安倍首相は5日、一定条件下で会社員の残業代をゼロにする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入について「日本人は少し働きすぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と述べ、労働時間短縮につながるとの見方を示した。さらに「(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化(対策)にとっても必要。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を見直していくべきだ」とも述べ、出生率の増加にも役立つという考えを示した。(以下略)


 安倍首相、子どもを産めないのは家で過ごす時間が少ないからだ、と思っているらしい。育児環境や収入、男女間の賃金格差、非正規労働者のワーキング・プア化などの諸問題はまるで頭にないようだ。あまりに能天気というしかない。おバカっ!


 御手洗ビジョンはさらに続く。

●企業現場や官公庁でも、国旗国歌(日の丸君が代)
実施を徹底させ、愛国心の高揚を図る。


 もうこうなれば、ファシズムに限りなく近づきつつある、と言わざるを得ない。学校ではほぼ100%の国旗国歌の実現を果たした。こうなれば、あとは仕事の現場だ、ということか。
 日常の仕事と日の丸君が代に、いったいどんな関連があるというのか。
 「そんなことほっといてくれ、仕事はきちんとやるから」ではもう通らない社会になってしまう。日の丸君が代に批判的な人は就職できない世の中を、どうもこの御手洗という人物は望んでいるらしい。
 経済のグローバル化などといいながら、企業現場で愛国心を押し付ける。では、同じ現場で働く外国人労働者はどうすればいいのか。
 こんな矛盾を抱えたまま、御手洗ビジョンはさらに暴走する。


●早い時期に憲法を改正して、
 集団的自衛権の行使を認める。

 ついに本音が出た。結局は、ここに行き着く。
 所得格差を拡大させ、最終的には憲法を改定して、集団的自衛権を認め、自衛隊を自衛軍に改組して軍備の増強を図る。
 格差が拡大すれば、低所得にあえぐ若年層は軍隊へと流れる。たとえ徴兵制など敷かなくても、安定した賃金と大学進学枠の優先権を与えれば、若者は軍隊に志願するだろう。
 考えすぎだ、などと言ってはいけない。現にアメリカではその傾向が際立っている。事実、イラクに従軍している米軍兵士の約70%は貧困層だというデータもある。
 そこで鍛えられた従順な若者は、そのまま従順な労働者として企業には頼もしい存在となる。
 よく考えられたシナリオである。
 そして、当然の帰結でもある。
 このような政治的内容にまであからさまに踏み込んだビジョンを、なぜ今、経団連という「財界の総本山」が打ち出したのか。


 これについて、「ふむ、なるほどな」と頷かざるを得ないニュースが流れてきた。
 政府・自民党は、「武器輸出三原則の見直し」を考えているというのだ。
 この「武器輸出三原則」とは、1967年に当時の佐藤栄作首相が国会答弁で述べたもので、@共産圏国 A国連決議により武器輸出が禁止されている国 B紛争当事国及びそのおそれのある国 には武器を輸出しない、とした原則である。
 これはさらに1976年、当時の三木武夫首相により、対象地域外にも輸出は慎む、と規制が強化された。
 1981年には、時の中曽根康弘首相により、アメリカに対してのみ規制を緩めたが、それでも武器の共同生産だけは認められなかった。
 2004年になって小泉純一郎首相のもとの「安全保障と防衛力に関する懇談会」で、さらなる規制緩和の方向性が示されたが、今回、それを具体的に明文化して武器輸出に踏み込もうとしているのだ。
 もちろん御手洗経団連に代表される財界は、諸手を挙げて大賛成の様相だ。
 まさに、なるほど、である。

 少なくとも、自国の軍隊の手で人は殺さず、また自国の兵器輸出を禁じることで日本製兵器での他国民の殺傷は免れてきたのが私たちの国ではなかったか。日本のNPOが紛争国でも活動できたのは、その平和イメージがあってこそだったのだ。その誇りを、ついに自ら捨て去ろうというのだ。
 金儲けのためには、武器であれなんであれ、利用する。これを普通の言葉で「死の商人」という。


 御手洗富士夫氏は、キャノン株式会社の社長、会長を経て経団連会長に上りつめた人物である。
 キャノンは、ある時期まで政治献金をしない会社として有名だった。しかし、御手洗氏が社長になって、政治献金が始まった。そして今回の、きわめて政治性の高い「御手洗ビジョン」である。
 一人の人物によって、会社や財界そのものが変質させられていくのだろうか。それともこれは、日本財界そのものの変質を示しているのか。

 キャノンは光学分野の精密機器メーカーとして最有力の大企業だ。光学分野の技術は、ミサイルの誘導装置など兵器には欠かせない。もし他国との武器共同生産が緩和されることになれば、この光学技術は大きな利益を生むことになる。御手洗氏の提言は、そのことも踏まえてのことなのだろうか。

 自分の周辺を見てみる。
 PC関連機器やカメラなど、身の回りにかなりのキャノン製品を見つけた。御手洗氏は、今もキャノンの会長を兼務している。

 私は、御手洗氏が会長を辞めてキャノンと縁を切らない限り、もう同社製品は買うまいと、心に決めた。小さくとも、私の抗議の意志である。

(今週のキイ選定委員会)
 
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