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今週のキイ

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 注目されていた二つの地方選挙が終わった。与野党がそれぞれに候補をたてて、久しぶりに真っ向からぶつかるという、4月の統一地方選挙や夏の参議院選挙の前哨戦としても注目されていた選挙だった。
 この選挙で、もっとも関心を集めたのは、一体なんだったか?

 知人のジャーナリストたちや政治家秘書などからいろいろと情報をもらった。裏話も含め、それらをもとに、今回の二つの選挙について考えてみる。

「無党派層と選挙」

 結果はもう繰り返すまでもないが、愛知県知事選挙では自民公明が推した現職の神田真秋氏、北九州市長選挙では民主社民国民の野党が推した北橋健治氏が勝った。
 普通なら、まあ痛み分け、双方とも顔が立った、というところでめでたしめでたしなわけだが、今回ばかりはそうはいかなかった。
 なぜか?

 圧勝、ないしは楽勝と見られていた愛知知事選で、現職の自公推薦候補が大苦戦を強いられたからだ。
 この神田知事、愛地球博や中部空港などの大型事業を何とか成功させ、さらには名古屋を中心とした中部経済圏の絶好調に支えられて、2期8年間の任期をつつがなくこなしてきた人物である。
 地方首長選では現職が圧倒的に有利であることは定説だし、神田氏のように目立った失政もなく地域経済も絶好調となれば、負ける要素などまったくなかったのだ。
 ところが蓋を開けてみれば、1,424,761票対1,355,713票という大接戦。かろうじて7万票弱の差で神田氏が逃げ切ったが、共産党が推した阿部精六氏の得た160,827票を野党票に加えれば、神田氏は惨敗といっていい数字なのだ。これには、自民党執行部も色を失った。


 与党幹部も、北九州市では候補者の知名度から考えて、敗戦も覚悟していたようだが、愛知でこれほど苦戦するとは、思ってもいなかったのだ。
 選挙戦初期には圧勝ムードが漂い、陣営の楽観論に気を引き締めるよう指示を出さなければならなかったほどの余裕を見せていた自公両党だったが、まずは、宮崎の「そのまんま現象」で首をかしげた。

 「どうも風がおかしい」と、言い出したのは選挙戦の宣伝などを仕切る広報セクションだったらしい。最初は泡沫候補扱いだった「そのまんま東」が、日を追うごとに無党派層に浸透していく様子に、文字通り泡を食った。「官僚出身候補を擁立したのは、間違いだったかもしれない」との声が出始めたのは、投票日の4〜5日前だったという。
 民主党が対立候補さえ立てられない状況の中で、いかに保守分裂とはいえ、自民にとっては「負けるはずのない選挙」だったのだ。万が一、自民推薦候補が敗れたとしても、もう一人の保守系候補が勝てば、大勢に影響はない。自民党は、どうもそう考えていたふしもある。いずれにしろ、そのまんま東候補など眼中になかった。
 しかし、風は確実に吹いていた。各メディアの調査からは、次第にそのまんま旋風が吹き募っていく様子がうかがえた。
 そして、東国原氏の圧勝!
 自民幹部が思わず真っ青になったのも、当然だった。

 国政での安倍内閣のヨタヨタぶりはあったとしても、それは中央での話、地方政治には無関係、とばかりにノンビリ構えていた自民党地方組織は、無党派層の動向などにはとんと無関心だった。
 人々の心が読めない、声を聞くことができない。保守王国といわれる宮崎で、自民党は負けるべくして負けたのである。


 そして、今回の二つの選挙である。

 「そのまんま現象」に若干の危惧は持っていたものの、愛知の神田知事陣営には安泰ムードが漂っていた。だが、その圧勝楽勝ムードは、例の「柳沢発言」で一変した。投票日3日前あたりから、「とにかく危ない。応援を頼む」と地元から悲痛ともいえる声が上がり始める。
 神田陣営が「あの発言はまったく許しがたい。しかしあれは国政レベルの話であり、このように実績を積み重ねてきた神田知事には関わりない」といかに弁明に努めようが、吹き始めた自民党への逆風はおさまらなかった。
 そして投票日、2月4日。

 投票率は前回よりも、愛知で13%、北九州ではなんと18%も上昇した。その投票率アップの知らせを耳にした自民党のある幹部は「これでは、二つとも負けだ」と青くなって吐き捨てたという。
 無党派層が投票率を押し上げたのだということは、投票所の出口調査ですでに分かっていた。そして、事前の予測として、今回は無党派層の多くは野党候補に流れそうだとも言われていた。この幹部が「二つとも負け」を覚悟したのも理由のないことではなかったのだ。
 北九州市の野党候補当確のテレビ速報が流れたのは、午後9時。ところが愛知での当確は、午後11時を回っても流れなかった。それだけ接戦だったというわけだ。与党幹部が冷や汗を流しながら待った結果は、ようやく11時10分ごろに速報された。普通の選挙なら、20〜30%の開票段階で打たれる「当確」が、この愛知知事選に限っては、70%を超えても打たれなかった。
 選挙報道のプロたちにさえ、どちらが勝つか土壇場まで分からなかったほどの接戦だったのである。


 選挙が終わって、政府首脳は一斉に「これでとにかく、禊(みそぎ)は済んだ。柳沢大臣の問題には一応の決着がついた」と、柳沢発言に幕引きをしようと懸命だ。しかし、そうは問屋がおろさない。

 この無党派層の大量離反という現象に、夏の選挙を控える自民党参議院議員たちの間に猛烈な危機感が漂い始めているのだ。
 参院選に東北地方で立候補予定の現議員は、次のように言う。
 「このままでは、参院選など戦えない。これから予算委員会が再開されて、毎回のように柳沢大臣が野党に攻め立てられ、そのたびにあの発言を有権者が思い出すのでは、票が減っていくばかりだ。どうあっても、柳沢大臣には早い時期に辞めてもらわなければならない。小泉首相が取り込んだ無党派層は、安倍内閣の下ですっかり逃げていってしまった。これ以上、情勢を悪化させるわけにはいかない」

 自民党の舛添要一参院議員は公然と柳沢批判、そして首相批判を繰り返している。
 「官邸は民意に鈍感だ。すでに裸の王様になっているのではないか」と痛烈だ。それに対して、当の批判された安倍首相は「そうは思いませんね」と、まるで他人事みたいにボソボソ。
 実はこの舛添発言の裏には、彼に同調するかなりの数の議員たちが存在するといわれている。危機感をもった議員たちの不満を、舛添氏が代弁している、という構図だ。それほど、安倍首相の党内基盤は弱まっているわけだ。

 柳沢大臣が辞めれば、事態は安倍首相の任命責任にまで発展する。そうすれば、安倍内閣はガタガタになり、長くはもたない。
 しかし、「安倍内閣がどうなろうと、それよりも自分の選挙が大事、というのが、今回改選期を迎える自民党参議院議員の本音でしょう」と解説してくれたジャーナリストがいる。
 とすれば、成立からたった4ヵ月ほどで、もはや安倍内閣は「死に体」になってしまったということか。
 内閣支持率の急降下も止まらない。


 中川秀直自民党幹事長は、今回の選挙に関して次のように述べた。
 「自民党の支持率は確かに下がっているが、民主党の支持率も上がっていない。支持なし層が増えているだけだ」
まあ、悔しまぎれの発言とは思うけれど、この人、ことの本質が見えていない。「支持なし層」の投票行動がどうなのか、それが問題なのだ。
 この支持なし層の雪崩現象が、宮崎や北九州、そして辛勝したとはいえ、愛知での結果に結びついたのではないか。「古い自民党へ先祖返りしてしまった安倍内閣」には、その「支持なし層」を引きつけることができない、その結果が今回の選挙だった、ということに気づいていないのだ。

 所得格差がどんどん開いていく中で、それらの生活に密着した政策にはほとんど触れずに、教育改革だの憲法改正だの美しい国づくりだのと、絵空事ばかりを繰り返す安倍首相。では彼は、果たして起死回生のための秘策を持っているのだろうか?
 「それはズバリ内閣改造。柳沢大臣をここまで庇い続けた以上、いまさら罷免なんてことはできない。とすれば、穏やかに柳沢大臣にやめてもらうには、内閣改造で全員一緒にとりあえず辞めてもらう、それしか手段はない。予算が国会で通った後、参院選前に改造に踏み切るだろう。官邸は、それで乗り切るつもりだ。特に、新閣僚に民間からの有名人を起用するなどのサプライズ人事を行って、参院選のてこ入れを図るつもりらしい」
 という裏情報が、いま永田町でささやかれている。

(今週のキイ選定委員R)
「野党統一候補」

 前項でも書いていますが、愛知県知事選挙は次のようになりました。

神田真秋 無所属(自公推薦) 1,424,761
  石田芳弘 無所属(民社国推薦) 1,355,713
  阿部精六 無所属(共推薦) 160,827


 もし、共産党が石田氏を推薦していれば、石田氏の得票数は多分、阿部氏の分を吸収して、150万票を超え、自公推薦の神田氏に勝利していました。このようなケースは今回にかぎりませんが、どうして共産党はいつもいつも独自候補を立てて、結果的に野党候補の当選可能性をはばんでしまうのでしょう。
 複数区で公認や推薦の独自候補を立てるのはわかります。市長選で独自候補を立てるのも、わかります。
 市とか町という「せまい地域」であれば、足による選挙活動が効力を発揮して共産党候補が当選する可能性もありますから。
 (現に、いま共産党からは、市長4人、町長3人が誕生しています)。
 しかし、「広い地域」にわたる選挙で、当選者は1人だけという知事選で独自候補を立てても当選圏外であることは、初めからわかっていることではないでしょうか。
 それでも独自候補にこだわって、与野党逆転をはばんでしまう発想には、どんな意味があるのでしょうか。
 野党統一候補とまではいいません。しかし、独自候補を出さないことで自民党候補の当選をはばむ、ということは、やはり考えられないことなのでしょうか。

(今週のキイ選定委員S)
 
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