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今週のキイ

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 本当に暖かな冬。ああ、過ごしやすくてよかったなあ、と言いたいところだけれど、やはり何かヘン。近所の公園ではもう散り始めた梅もあるし、今にも咲きそうに膨らんだ桜の蕾さえ見える。

 この冬は、日本で気象観測が行われるようになってから、史上最高の暖かさであることがほぼ確定しているという。これは何も日本に限らない。この現象は世界中で起きているのだ。
 不気味である。

 この不気味な冬を歩きながら、ふと、ある人物のことを思い出した。

「アル・ゴア前アメリカ副大統領」

 地球温暖化問題に警鐘を鳴らしているゴア前米副大統領の『不都合な真実』に、私たちは、もっと耳を傾けるべきではないか。

 このアル・ゴアとはどんな人物か。
 彼は、1993年から2期8年間にわたって、アメリカの民主党クリントン大統領を支えた副大統領であった。そして、その職責を果たしながら、環境問題を深く研究調査していた。
(ゴアはすでに1989年、上院議員時代に『地球の掟』という環境保護を訴える本を執筆刊行し、その本はベストセラーになっていた。つまり、それほど以前から環境問題には深い関心をもっていたということである)

 最近話題になっている『不都合な真実』は、ゴア前副大統領の「地球温暖化」についての講演を軸にした映画だ。ゴアは、この1月に来日してテレビ出演などもこなしたから、知っている人も多いのではないか。
 さらに、これは単行本としても出版され、日本でも翻訳されて、ランダムハウス講談社から刊行されている。
  ちょっと値段は高い(税込2,940円)が、ぜひ目を通して欲しい一冊である。


 ゴアは、2000年のアメリカ大統領選挙に、民主党候補として出馬、共和党のブッシュ現大統領と死闘を演じたが、まったくの僅差でブッシュに敗れた。しかし、この選挙にはいまだに疑問が付きまとっている。
 最後までもつれて勝敗の帰趨が分からなかった段階で、ブッシュに肩入れしていたと見られるFOXテレビが、フロリダ州でのブッシュ勝利を速報、これが、ゴア敗退につながったのではないかと見られているからだ。
 もちろん、その報道の裏側には、父親ブッシュ元大統領と彼の盟友であるFOXテレビ経営者たちの暗躍があったとされる。
 ありそうな話ではある。
 さらに、このときのフロリダ州の開票では、デタラメさが数々指摘されているが、この疑問にブッシュ有利の裁定を下したフロリダ州の司法長官が、のちにブッシュ政権下で高官に登用されるなど、どうにもすっきりしない結末となったのである。
 このときの大統領選挙では総得票数の多かったゴアが敗れるという「不都合」が起きた。これは、選挙人総取り制度と呼ばれる、アメリカ独特の大統領選挙の制度に原因がある。
 だからゴアは今でも、講演の前振りに「一瞬だけアメリカ大統領であったゴアです」という苦いジョークを入れることもある。

 もしも(歴史に「もしも」は許されないというが)、このときの選挙でゴアが勝利していれば(すなわち、ブッシュが米大統領でなかったならば)、イラク戦争は避けられたであろう、というのがほとんどの識者が抱く思いである。とすれば、3千人を超える米軍の死者も出なかっただろうし、ましてや、すでに10万人を大きく超えたと推定されているイラク民間人の死者数をも、数える必要はなかったはずなのだ。
 歴史は、確かに「不都合な真実」を内包している。


 そのアメリカでは、現在、ブッシュ大統領が民主党から、イラク問題に加え、環境問題に対する姿勢をも問われ、攻勢にさらされている。しかし、ほとんどまともには答えられず、シドロモドロの答弁を繰り返している。

 地球温暖化を食い止めるために各国のCO2などの温室効果ガスの削減を取り決めた「京都議定書」に強硬に反対し、その批准を拒否したのが、財界寄りの政策を取り続けた当のブッシュなのだから、攻められても答えようがないわけだ。
(「京都議定書」とは、正式には「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」という。1997年12月に京都国際会館で開かれた地球温暖化防止京都会議(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で決議された議定書のことをいう)

 国連の機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も、正式に「地球の温暖化は人間の活動の影響によるところが大きい」という報告を、2007年2月1日に発表した。
すなわち、21世紀末には、地球の平均温度が最大で6.4度、海面は最大で59センチ上昇するという「第4次報告書」を、このIPCCがまとめたのである。いまや、事態は緊急を要するところまで来ている。

 だがこの国連機関が発表した公的な報告書があるにもかかわらず、ブッシュも共和党も、依然として環境問題に真摯に取り組む姿勢をみせていない。財界の献金で支えられているブッシュ政権だけに、なんとか言い訳に終始して逃げ切ろうとしているのだ。
 地球温暖化は、先進諸国の経済活動などによる影響による(最近は中国やインド、ブラジルなどの発展に伴う影響も大きいとされるが)ということが世界の常識となっているのだが、その温暖化ガスの最大排出国であるアメリカの大統領が、頑としてそれを認めようとはしないのだ。世界が呆れ返るのも無理はない。
 ネオコンたちの影響力を背景に、環境問題など無視。ひたすらイラク戦争に突っ走っておきながら、いまさらオタオタするブッシュ大統領。政権末期の悪あがきといわざるを得ない。


 日本ではどうか。
 安倍首相は相変わらず「憲法改正を参議院選挙の重要争点に」などと、現実の国民の生活感覚からズレた発言を繰り返して、自民党内や公明党幹部からも批判を浴びている。
 安倍首相の頭の中には、環境も格差も年金も介護保険も税金も、まるでかけらもないようだ。ひたすら「憲法改正を争点に」と言い続ける。
 これには、与党幹部もそうとう頭にきている。

 例えば、自民党の選挙を取り仕切る立場の、谷津義雄・自民党選挙対策総局長は、公然と「憲法問題など、参院選の争点にはならない。もっと格差問題などを訴えるべきだ」と、安倍首相を批判。
 まあ、選挙対策を司る責任者としては、当然の発言だろうと思うけれど、これに当の安倍首相は猛反発。
 「首相としての私が争点にすると言っているのだ」と不快感をあらわにした。
 もう安倍内閣、ボロボロである。
 スキャンダルの雨嵐、閣僚の不適切差別発言、首相批判とも取れる不規則発言、閣内不一致の見本みたいな内閣である。
 その上、選挙対策の責任者にまで「これじゃ戦えない」と批判される始末なのだから、もうどうしようもない。

 しかし自民党内部だけではない。
 公明党の太田昭宏代表も「国民の関心のありどころはそこではない。もっと身近な問題を取り上げるべき」と、やはりこの安倍首相の方針に異を唱えている。支持母体の創価学会に、改憲に危惧を抱く意見が多いことを意識しての発言のようだ。

 


 なんだか安倍首相、ブッシュ大統領に似てきているのではないか。
 国民の8割がすでに「イラク戦争は間違いだった」と考えている、というアメリカ世論を置き去りにしたまま、またもや2万人以上の規模のイラクへの米兵増派を強行しつつあるブッシュ。
 かたや、安倍首相。
 ブッシュでさえ「イラク政策には一定程度の誤りがあった」と認めざるを得なくなっているというのに、いまだにアメリカ追随の日本政府が取ったイラク政策の誤りを認めようともしない。
 そして、いま私たちの国でもっとも急を要するワーキングプアなどの格差問題などはそっちのけにして、まるでお題目のように「かいけんカイケン改憲---」と唱える安倍晋三首相。

 支持率ももはや急落の一途。
 ブッシュ大統領の任期は2008年まで。さて、安倍首相、そこまで命脈を保つことができるかどうか。

 それにしても、私たちの国の政治家の中に、アル・ゴアはいるだろうか?
 顔が、浮かばない-----。

今週のキイ選定委員会
 
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