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今週のキイ

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 今週はちょっと趣向を変えて、面白い本を紹介したい。

「たまには時事ネタ」斎藤美奈子・著

 この本は、奥付が「2007年1月7日発行」になっているから、「今週の」というにはちょっと古いけれど、私が読み終えたのは今週なので、まあ、大目に見てください。
 中央公論新社刊、定価・本体1300円。買ってソンはしない、と断言できるナカナカ本なのである。

 本の末尾にこうある。
<本書は『婦人公論』連載の「女のニュース 男のニュース」(二〇〇一年五月二二日号から二〇〇六年一二月二二日 / 二〇〇七年一月七日合併号)を大幅に加筆訂正したものです。>

 つまり、大雑把に言えば、小泉政権の誕生から安倍内閣発足までの期間の出来事やニュースを、斎藤美奈子流に明快に切り取った「時評集」なのだが、これがまことに面白い。
 時代の読み方やニュースの捉え方が、この「今週のキイ選定委員たち」や前任の「今週のツッコミ人」などの論調と、とてもよく似ている。そんなわけで、つい親近感を抱いてしまって、ここに紹介しようと思ったわけだ。別に、斎藤さんとは面識はないけれど。



 たとえば、石原慎太郎東京都知事にふれたこんな箇所。
<しかし、「強い人」は災害のときに本当に頼れるのだろうか。
 共和党のわりにはリベラルだともいわれるシュワルツェネッガーについてはいまはなんともいえないが、信用できないのは東京都である。地震がくるかもしれないからこそ、私は石原都知事は勘弁してほしいのだ。だって石原都政下で大地震が起きたら、どうなると思います? 関東大震災の二の舞にならないという保証がありますか?
 八〇年前の関東大震災では一〇万人弱の死傷者と四万人余の行方不明者が出た。それ自体も惨事だけれど、同時に忘れちゃいけないのは、地震の直後に「朝鮮人が暴動を起こす」という流言がとびかい、関東全域で一〇〇〇人単位の朝鮮人と中国人が殺害されたという事実である。戒厳令下の東京で、軍隊と警察が出動し、住民は自警団を組織して「治安維持」に努めた結果があれだったのだ。平時にさえ外国人差別発言をくりかえし、テロを容認するかのような発言をし、防災の日には戦車を出しかねない勢いの現知事である。地震なんか起こった日には、何をいいだすかわかったものではない。

 ツッコミ人やキイ選定委員たちが、繰り返し批判してきた石原都知事の危うさを、歯切れ良くあぶりだしてくれている。
 うんうん、その通りだよな、と、斎藤さんがそばにいたら思わず肩を叩きたくなる。この辺の感覚、わかる人にはわかるんだよなあ。


 あの人気者・小泉純一郎サンもバッサリである。
<横須賀選出の小泉純一郎は都市型の議員といわれる。そこが旧来の自民党代議士とは異なるわけだが、しかし、逆にいうと「小泉のような男」は都市のある種の業界(マスコミ・出版・広告・IT・ベンチャーなど)にはざらにいるタイプだったりする。調子のいいことを吹くだけ吹いて、肝心なときには責任をとらない。自らは手を汚すのを嫌い、問題を先送りする。儲け主義に走って平気で弱者を切り捨てる。(中略)
 裏を返せば、小泉人気を支えているのは「あんな男」が珍しいと感じる環境にいる層だともいえる。伝統的な村落共同体の住人、抑圧的な親や教師や上司に頭を押さえられている若年層、家父長的な父っつぁん連中にうんざりしている六〇代以上の高齢者。そんな女の人たちには彼が「都会的でスマート」に映り「純ちゃんステキ」に見えるのだろう。>

 これもどう?
 「キイ」でも同じようなことを随分書いてきたし、「ツッコミ」でも、同様の小泉批判が展開されていた。
特に、「調子のいいことを吹くだけ」だった小泉サンが残したツケは、そうとうにデカイ。彼が政権を担当した期間に、どれだけ格差が広まったことか。人々の生活意識は、下がる一方だ。
 たとえば、いわゆる団塊世代では、かつて自分の暮らしが上流だと思っていた人の半数はいまや自分は中流だと感じ、かつて自分を中流だと感じていた人の半数もまたいまや自分は下流であると思っている、という調査さえ発表されている。下流意識の人たちが50%近くになったのだ。
バブルに踊ったツケが返ってきた、というのは簡単だ。
 しかし、30〜40年間も働いて、やっと定年を迎え、ようやく安定した老後を楽しもうと思っていたはずの団塊世代の実に半数ほどが「自分の生活はいまや下流だ」というのだ。
 それでもなお、「小泉の夢」を見続けますか?


 さらに、安倍晋三首相にも鋭く一太刀。
<で、安倍首相である。舌が二枚もあるくせに、「全力をちゅくしまちゅ」などと聞こえる首相の口調は舌っ足らずでなんとなく可愛げだが、今内閣の目玉、「安倍レンジャー」とも陰で呼ばれる五人の首相補佐官の五つの役割分担を見れば、彼がやりたいことはなんとなく透けて見える。教育再生(教育基本法の改正?)、国家安全保障(憲法九条改正への布石?)、経済財政(さらなる増税?)、拉致問題(対北朝鮮強硬政策?)、広報(目指せ安倍劇場?)。
 いまのところ二枚舌ぶりを発揮して、新首相はあまり無謀な発言はしていない。核保有の可能性を示唆した中川政調会長や麻生外相の発言に対しても「非核三原則は守る」と明言した。私が安倍内閣に期待することは、ただひとつ、一貫性などどうでもいいから、できるだけ二枚舌を堅持して、何も成果を上げずに静かに去っていただくこと、である。その意味でいまのところは期待通りなんだけど、はたして舌の根の行方は。>

 ほらね、キイ選定委員が安倍さんに命名した「前言撤回首相」「訂正首相」とよく似ている。安倍首相がすぐに前言を翻す、それを斎藤さんは「二枚舌」と呼び、キイ選定委員は「訂正首相」と名付けたわけだ。
 これで、選定委員会がこの『たまには、時事ネタ』の美奈子さんに親近感を抱いたわけがよくわかったでしょ?

 


 で、やはりここは「マガジン9条」。美奈子さんが憲法九条をどう感じているか、その部分を挙げてみる。
<それでも憲法改正を急ぐことに私は反対だ。日本国民が美しい誤解をしてきたにしても、現実問題として、九条がストッパーの役目を果たしてきたところは大きい。
 ただ、憲法をめぐるストーリーは変えてもいいよ。
 旧来の「平和憲法ストーリー」は、護憲ナショナリズムといってもいいだろう。あるいは護憲中華思想。「世界に広めよう」の精神が、そもそも日本を暴走させた元凶であった以上、憲法を本当に大切に思うなら、「世界に広めよう」なんて大風呂敷を広げる前に、自戒の道具であることを自覚するのが先かもしれない。いつまで過去にこだわるんだという人がいるのもわかるが、負の遺産だから大切にするっていう発想もあるはずなのだ。>

 ここにも「憲法を遺産に」というフレーズが出てきている。
 このコラムでも何度か言及したベストセラー『憲法九条を世界遺産に』と、同じような発想を、美奈子さんもしていたのだ。
 太田光さんは『憲法九条を世界遺産に』の中で、こう述べている。

 「世界遺産をなぜつくるのかといえば、自分たちの愚かさを知るためだと思うんです。ひょっとすると、戦争やテロで大事なものを壊してしまうかもしれない。そんな自分たち人間の愚かさに対する疑いがないと、この発想は出てきません」

 つまり、自分たちの愚かさへの自戒の念を忘れないために「九条」は必要なのだと太田さんは言うのだ。ここで、太田さんと美奈子さんの思いは重なる。私たち「マガジン9条」がこれまで主張してきたこともまた、ここに行き着く。
 
 九条が「絶対的な善」だから残そうというのではない。
脆く危なっかしく理想的に過ぎるけれど、九条がこの国に存在することによって、いつでも私たちは「これでいいのか?」と自分を省み、私たちの国がどう進めばいいのかを繰り返し問うてみることができる。

 それこそが、何にも替えがたい「憲法九条の価値」なのだ。

 美奈子さん、ありがとう。
 呼んでいるうちにすっかり嬉しくなって、「斎藤さん」がいつの間にか「美奈子さん」になっていた。
 なれなれしくて、ごめんなさい。

 とまあ、今回は本の話で終わるつもりだったが、あまりのバカバカしさに、ちょっとだけ、付け足し。

おバカ内閣のおバカな閣僚たち
 まあそれにしても、私たちの国には、こんなおバカ議員たちしかいないのか、悔しさを通り越して、悲しささえも飛び越えて、もう笑っちまうしかない状態である。
各メディアもさすがに呆れ顔。
 「学級崩壊内閣」とか「私語閣僚」、「欠礼大臣」などともう言うも虚しい生徒会以下。すでにテレビのワイドショーでお笑いネタになっている。いくら「お笑いブーム」で芸人人気が沸騰中だとしたって、何も閣僚や与党幹部たちまでが「お笑いワイドショー」に出演することもあるまいに。

 ことの発端は中川秀直自民党幹事長の「安倍首相が入室しても起立せずに、私語を続ける閣僚がいる。もっと首相を敬え」という、なんとも子どもじみたお説教からだった。まあ、そう説教せざるを得ないほど、内閣のタガが緩んでしまってもいたのだ。
 それにしても「私語を止めろ」「起立しろ」だと。お前ら、小学生か!と、タカ&トシなら頭をひっぱたいているところだぜ、まったく。

 確かに、松岡、菅、山本、伊吹などの大臣に私語が多く、麻生、久間など安倍首相よりも年上のベテラン大臣たちはひょいと腰を浮かす程度で起立などする様子もないと、ある政治記者は呆れ顔で言う。
 つまり、自民党総裁選の際に安倍氏を推した若手で、そのご褒美で大臣の椅子を射止めた方たちは、いまもお友達気分が抜けず、ワイワイガヤガヤ。
 「あんたの事務所経費の付け替え問題は、うまく逃げられたかね?」
  「まあまあなんとか。そっちの身内との公費出張の件は片付いたの?」
 てな話をしてるんだろうなあ、この方たちは。

 


 閣議後のぶら下がりで私語問題(?)を聞かれた松岡農水相、
「いやあ、私語していたかどうか記憶にありませんなあ。でも、忠誠心は誰にも負けないほど持っている」んだそうだ。記憶にないほどしょっちゅう私語してるってことなのか、それは! とツッコミたくなる。

 中川幹事長に叱られちゃった安倍内閣。
 塩崎官房長官が「規律正しくやっています。これからもしっかりとしまりのある閣議運営を続けていきます」とかなんとか、まるでしまりのない言い訳。叱るほうも叱るほう、弁解するほうもするほう、ああ情けない。
さらに情けないのが、安倍首相ご本人。
「ご心配していただくには及びません」と、顔は笑っているものの、唇の端がフルフル。これが「美しい国」の「闘う政治家」だったっけ?
 こんな首相、こんな閣僚たちにこの国をまかせておいていいものだろうか?

 だから、支持率の下降は止まらない。
 朝日新聞の世論調査ではついに、安倍内閣の支持率は37%、不支持率は40%と、初めて不支持が支持を上回ってしまった(2月20日付け)。
 いよいよ「危険水域」への突入である。
 読売新聞では、かろうじて支持が不支持を上回ったものの、42%対40%とほとんど並んだ(同日付け)。
 この内閣、いつまでもつか?

今週のキイ選定委員会
 
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