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2010-07-28up

パンにハムをはさむニダ

第13回

金賢姫の来日で考えたこと

自衛隊に入ろう!入ろう!入ろう!

 今から2年ぐらい前、財布をなくしたので交番に行って名前を記入していたらそれをみたお巡りさんがこう言ってきた。

 「韓国人? 留学生なの? 俺、金賢姫のサイン持ってるよ」

 どういうことかとたずねたら、金賢姫が日本経由で韓国に送還される時、この警官は警備をしていたか何かで金賢姫と直接話をする機会があったそうで、有名人だからと、サインをお願いしたらしい。けっこう愉快な警官で、財布をなくして落ち込んでいると言ったら「パチンコで増やす」みたいなアドバイスもしてくれた。

 その金賢姫が先日、日本政府が用意したチャーター機で来日した。彼女は軽井沢の鳩山元首相の別荘に泊まって拉致被害者家族会の人々とも会ったという。報道された新しい事実は「北朝鮮では『君が代』を歌ってもいい」くらいであった。もちろんこのビッグ・イベントを実現するにあたっては韓国政府の許可と協力があった。

 彼女が韓国に帰った23日にはベトナムのハノイで開かれた「ASEAN地域安保フォーラム(ARF)」において「天安号事件」に関する声明が発表された。ここで「北朝鮮による攻撃と断定した韓国と同国を支持する日本、米国の三カ国と北朝鮮が激しい応酬を展開」と東京新聞には報道されている。

 しかし声明文には「攻撃」という言葉はあったが「北朝鮮」と「糾弾」は抜けていて韓国政府からすればあまり「期待通りの結果」にはならなかったみたいだ。このような一連の流れでみると「今回の金賢姫の来日には何の狙いがあったのだろう」とも思うが、私は「陰謀論嫌い」なので、いずれ明らかになる時を待ちたい。

 ところで、ほとんどの日本人は「金賢姫はきれい」だから興味があるみたいだが、そもそも彼女は何者なのか。87年の「大韓航空爆破事件」のことは日本では良く知られた大事件であるようだが、実は私はあまりよく知らなかった。盧武鉉政権の時「韓国政府の自作自演だというでっち上げ説」が話題になって、遺族のほうから何度か裁判も行われたことは覚えているが、事件当時、韓国は軍事政権時代であったため、日本の方でいろいろな疑問が提起されたようだ。「大韓航空爆破事件遺族会」には「金賢姫自体が偽物ではないか」という意見もあるようだが、実際にこの事件の唯一の証拠は金賢姫自身の陳述である。もちろん私は「だから偽物だ」とは言わないが、とにかく遺族会のホームページに載っている事件の流れをみてみよう。

・87年11月29日、KAL858失踪 
 12月1日、日本人に身分を偽装していた金賢姫逮捕(ともにいた男性は毒を飲んで自殺)
 12月7日、韓国政府、「北のソウルオリンピック妨害策動」と発表し事実上「捜査終結」
 12月16日、大統領選挙実施、KCIA「北のテロ工作である」と確定表現

・88年1月15日、金賢姫記者会見
 1月21日、米政府北朝鮮を「テロ支援国家」と規定、この措置は08年までつづく

・89年2月3日、金賢姫「殺人罪」、「航空機爆破致死罪」そして「国家保安法違反」で起訴

・90年3月27日、大法院、金賢姫に死刑宣告
 4月12日、金賢姫恩赦で釈放

 恐ろしい! 115名が亡くなった事件の捜査が大統領選挙に合わせて事件発生から二週間あまりで終結している。この当時の大統領は全斗煥、その次の盧泰愚大統領も軍出身である。当初全斗煥は盧泰愚を支援して当選させたのだが、後に盧泰愚が全斗煥を裏切って全斗煥は寺に引き込むことになった。そして民間出身の金泳三が大統領になったら「歴史の審判」ということで二人揃って刑務所に送られたのである。因みに政権が変わり大統領就任式がある度に、生存している歴代大統領が出席するのだが、この三人が集まった時の緊張感は毎回話題になっている。

自衛隊の車の中で

 こうして政権が次々替わり民政化が行われたわけであるが事件の真相に関しては未だに疑っている人が多い。また金賢姫は97年元KCIAの男性と結婚して韓国のどこかで暮らしているようなので前回高度な工作能力をみせてくれた大分KCIAに事件の真相をたずねたら、90年生まれの彼は「事件自体をあまり知らない」らしい。

 今回の金賢姫の来日について韓国メディアはどんな反応をしているだろうか。韓国では日本人拉致被害者のことはあまり知られてないのでそれほどの反応はない。それより「日本がテロリストをシンデレラにしあげている」とか「日本が戦時中拉致した韓国人が何人だと思っているのか」などの意見が載っている。

 おそらく北朝鮮もこのような認識を持っているようだが、戦時中の朝鮮人動員について、横田めぐみさんのような直接関係がない人を「日本人である」ことで同一視するのは、私にとってはあまり納得がいくようなものではない。

 金賢姫の来日は、日本の北朝鮮に対する感情を盛り上げる効果があって、イ・ミョンバク政権にとっては対北制裁のためにも強い味方を手にいれた、という指摘もある。
 しかし大韓航空爆破事件の被害者遺族は、今回の来日についてどのような気持ちであるだろうか。政治家は一国の「国民」から票を集めるが、金賢姫を巡る問題は(彼女自身を含め)「国民」という枠組みを越える問題を抱えている。
(もちろん戦時中に動員された被害者については、彼らがまだ生きている間になんらかの保障が実現しなければ、今後日本の歴史には汚点として残るだろう。)

 ところで金賢姫の来日に必要な費用は日本政府が負担したそうだが、その正確な金額はまだ公表されていないようで「3千万円」から「4億円」に至る様々な噂が流れている。「第1回マガ9学校」に参加するために来日したイ・ギルジュンさんは、殺人を犯したわけでもなくイ・ミョンバクに逆らった(徴兵拒否した)だけで金賢姫より14倍も長い時間を刑務所で過ごすことになったし、彼の来日にかかった費用は「3万8千円」だった。ここには改めて格差を感じる!

この写真の経緯を説明しておこう。自衛官募集をしているところで「車の写真を撮ってもいいですか?」と聞いたところ、自衛隊の方がすごい親切に「どうぞ、どうぞ」と言ってヘルメットと防弾チョッキまで持ってきて着せてくれた。そして自衛官の方々からは「君、似合うね」と誉められた!?(ありがとうございました!)

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キム・ソンハさんの「政治家は一国の『国民』から票を集めるが、
金賢姫を巡る問題は『国民』という枠組みを越える問題を抱えている」
という指摘は、土井香苗さんと伊勢崎賢治さんの「マガ9対談」
「人権侵害被害が国家主義を高めるために使われるのは間違いである」
と指摘したことに重なります。
今回のキム・ヒョンヒ来日についても、
加害者も被害者も「国家に利用されている」違和感ばかりが残ります。

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キム・ソンハさん
プロフィール

キム・ソンハキム・ソンハ1984年、釜山生まれ。高校中退後大検で卒業しイギリスに2年間留学し、その後日本の大学に進学した。韓国徴兵制の不条理にムカつき、日本で韓国徴兵を考える会「PANDA」の結成に参加。現在高円寺に滞住しながら、「仕事募集中」。納豆も食べられるので食生活には特に問題なし。