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2010-08-11up
パンにハムをはさむニダ
第14回
韓国ギターメーカー労組の知られざる長い闘い(その1)
「世界のギターの30%はCORTが生産しています」
(06年のCORTの広告より)
今年のフジロックにはNGO「A SEED JAPAN」の招待で6人の韓国人が来日していた。
彼らは06年から4年近く続いている韓国のギターメーカーの労働組合「CORT/COR-TECの労働者とともに戦う文化労働者」の人々。今回取材に応じてくれたキム・ソンギョンさんはドキュメンタリー映画「Other Guitar Story」の監督である。一週間あまりの短い日本滞在中、彼らの長い戦いに関する貴重なお話を聞くことができた。
「今回はどういう経緯で、どういう目的で来日しましたか」
「韓国のギターメーカー、CORT/COR-TEKの職人たちの戦いが3年を超えて4年に至っています。私は1年ほど前から彼らのドキュメンタリーを撮り始めました。08年12月からですね。そして今も彼らに同行して取材を行っています。今回は韓国から7人が来ています。CORTの方一人、COR-TEKの方一人、支援者が二人、ルポライターが一人、そして私ですね。え? そういえば6人ですね…なんで7人だと思ったんだろう…あ、通訳の方がいますね。彼は日本の方なので『来ている』のは6人ですね(笑)」
キム・ソンギョン監督。
最初「7人」と聞いた時はキム監督に次作には「7人の韓国人」というタイトルをつけると「日本で受けるかもしれない」と推薦しようと思ったが、なんか惜しいところだ。このように彼は労働争議のドキュメンタリー監督としては「とても気さくな印象の人」なのだ。
また、今回のキム監督からの連絡は突然だった。彼と会うのは二回目で、去年の11月、彼が「横浜楽器フェアー」への遠征闘争で来日した時私は通訳として一日だけ手伝ったことがある。それから7ヶ月ぶりだが、改めて名刺を渡そうとした瞬間、彼は「あ! 同僚の名刺を持ってきてしまった!」と言い、慌てて「同僚の名刺の名前と連絡先のところに線をひいて、自分の名前と連絡先を書き込んで」渡してくれた。別の紙に書いたほうがよかったのでは…?
ところで、CORT/COR-TEKの名前は、韓国とヨーロッパではそこそこいい評判があるが、日本の楽器市場ではあまり有名ではないらしい。しかし日本のバンドマンの中で、IbanezやFender、Gibsonなどの人気メーカーのギターやベースの多くが実は韓国で別の会社によって作られていることを知っている人はあまりいないだろう。
今はまた状況が変わっているのだが、10年くらい前私が韓国にいたころは「工場の警備員に謝礼を払って余分のギターを横取りした」人がいる、といった噂がよく聞こえてきた。当時韓国はギター生産大国であって「アメリカや日本の有名メーカーから依頼を受けて韓国の会社が作ったギター」は「アメリカや日本のメーカーの名前」で世界中に販売されていたのだ。
このような依頼生産は「OEM(Original Equipment Manufacturing)」と言われるもので、韓国で作られたこれらのギターはそのままアメリカや日本に運ばれて、韓国人が買うためには、それを「さらにアメリカや日本から輸入」しなければならなかった。そうすると当然値段は異常に高くなるが、もともとそれを生産している工場は韓国にあるわけだから、ギターを安く手に入れるための裏市場が存在していた。警備員に謝礼を払ったり、偽物を販売したりする集団がいるという噂が流れていたのはこうした背景からだったのだ。
CORTも元々その中の一社であったが、90年代後半に入るとOEMの実績から優秀な職人たちの実力を認められるようになって、自社の名前のギターも販売するようになっていった。「FenderやGibsonを作っていたのと同じ職人たちが作る国産のCORTギター」は、今まで高いお金を払わざるを得なかった多くの韓国のインディーズのミュージシャンたちに、非常に優しい値段の良いギターとして歓迎されたのである。
ここで、キム監督が挙げている「CORTの職員たちが実際作っていた海外メーカー」の具体的な名前を尋ねた。
「具体的にどれくらいOEMを受けているかはメーカー関係者しか知らないでしょう。基本的に私はこんな取材をしている人間なので、社長さんたちは私には教えてくれないんですね(笑)。どういう意味か分かりますよね?
しかしメーカーの広告からいろいろと推測はできます。「CORTが世界のギターの30%を生産する」というキャッチ・フレーズですが、CORTギターがそんなに多いはずはないんじゃないですか。それはOEMを含めての数字であって――それでも30%まではいかないだろうけど――、今はそういう広告はしていません。
私は職人さんたちの話から逆算出する方式で、メーカー名を把握しています。まずはエレキのほうから話します。職人たちによればIbanezが最も多かったようです。最初はFenderが多かったけど途中からIbanezの比率が大きくなったようです。Gibsonは少量生産依頼を受けたことがあるといいます。その他にも少量生産のOEM依頼を受けたのがParker、GLEN、Lakeland、Conkrin、そしてSchecter…CUREのRobert Smithが使うモデルもありました。こうした「少量OEM生産依頼」は、CORTだけではなくてほかに沢山ある小さい会社も受けています。
とにかく私が楽器フェアーでみた中ではPRSとMusic manくらいを除いて『ほぼ全てのメーカー』のギターを作っていました。Jacksonも少しやってた。そしてESP! ESPの場合はまたエピソードがあるんですよ。ESPの社長さんが『自分たちはお前らに依頼してないからESPの名前は外してほしい』と言ったこともあるんです。
今度はCOR-TEKをみましょう。つまりアコースティックギターについてですが、Martin以外はすべてOEM生産をやったことがあるみたいです(笑)。主に作っていたのはGUILDとかALBAREZ、日本の会社では「ヤイリ」という会社からも依頼を受けていたようです」
「フジロック」で取材中のキム監督
それでは現在に至るCORT社の歴史をみてみよう。創立時期は資料によって異なるが、おそらく60年代末から70年代の頭だという。80年代には海外からのOEMギターを沢山作っていて、キム監督が会ったアメリカの楽器フェアー「NAMN」の関係者によれば「当時は誰もがその会社にOEMを依頼していた」という。
当初インチョンにあったCORTは90年代に入るとアコースティックギターのメーカCOR-TEKを新たに創立し、韓国中部の大田にその工場を置くことになった。キム監督に「なぜ評判もいいのに別の会社を作ったんですか」と聞いたところ、「離れた場所にその工場を設けた主な理由」として「CORTには労組があったからCOR-TEKは無労組経営にしたかった」からだと話してくれた。
またCORT/COR-TEKの職人たちは酷い環境で働いていたという。
「8時半出勤で8時半に行ったら『お前なんで30分早く来ないんだ』と怒られたり…『あの工場は軍隊だった』と回顧する職人さんたちが多くいました。特に女性の職人はセクハラでも苦しんでいて、自殺した方もいます。インチョンの方には機械で指を切り落としてしまった職人も多くいます。またペインティング作業、ここがまたずるいところですよ。アメリカとかの場合は労働者の安全のために禁止されている薬品が数多くあるらしいです。しかし韓国では関連法律がないため、それが使える。『これがOEM生産のもう一つの理由かも知れない』と楽器フェアーで会った関係者が言ってました(なんか悲しそうな笑いが続いた)」
韓国の「軍事文化」が社会全体に、ギターを作る作業にまで影響を及ぼしていることは、私としては今更驚くことでもないが、ここでまた指摘されているので改めて伝えておきたい。
また、キム監督のドキュメンタリー「Other Guitar Story」の中で、「旋盤作業部署」に勤めていた職人は「安全教育が貧しいため、この部署の人は8割が指を機械に切られ失っていますけど、会社側は自己責任として何の保障もしていません」と語っている。
指がなければギターフレットを押さえることができない。私たちは人の指を切って作ったギターのフレットを押さえているのかも知れない。
そして黒字経営を続けていたCORT/COR-TEKは、90年代から中国とインドネシアに工場を設けることになる。
ここで「『CORTインドネシア』で作っているのはCORTの自社モデル? それともOEM?」と訪ねてみた。キム監督の説明が続く。
「両方です。OEMについては、例えばIbanezは自社の生産ラインがなくて全てOEM生産だそうですが、日本の会社が作ったギターは『日本Ibanez』、CORTが作ったギターは『韓国Ibanez』、そしてCORTのインドネシア工場で作ったギターは『インドネシアIbanez』という名前になるのです」
何か話が複雑になったのでシンプルに消費者の立場から尋ねてみた。
「それ、買う人はIbanezだと思って買うんじゃないですか」
「まぁ…つまり、それがIbanezですね(笑)」
つまり韓国で作っていた「海外有名メーカーの既存のOEM生産ライン」はそのまま中国とインドネシアにも移りつつあって、また「フィニッシュ作業」だけを韓国で済ませ「made in Korea」として皆さんの手元に届いている場合も多いという。
そして07年、リストラの危機に直面したCORTとCOR-TEKの職人たちは意外な展開でお互い出会い(以前は厳しく社側によって遮断されていた)、COR-TEKにも組合が結成されて、ミュージシャンたちに自分たちの状況を直接訴えることになっていく。
(つづく)
NHKの番組『日本の、これから』の「日韓併合100周年」(8月14日放送予定)に出演するために来日した韓国の若手ライター3人。左からチョ・ビョンフン、パック・ヨン、ヤン・スンフンさん。真ん中のパック・ヨンさんは二十歳で、今年の1月に出版された、韓国の20代にインタビューした『この頃の若い連中』という本の共同著者だそうだ。
*
ギターをめぐる、さまざまな知られざるお話。
登場したメーカーのギターを持っている! という方もいらっしゃるのでは?
4回程度の連載企画でお届けします。次回もお楽しみに。
キム・ソンハさん
プロフィール
キム・ソンハ1984年、釜山生まれ。韓国で家出と登校拒否を経て十代にイギリスに2年間留学後、現在は日本の大学に在学。留年の危機に直面している。仲間とロックバンド活動を試している(バンド名は長崎中央郵便局)。韓国徴兵制の不条理にムカつき、日本で韓国徴兵を考える会「PANDA」の結成に参加。現在高円寺に滞住しながら、ローカルの「貧乏人」と交流している。納豆も食べられるので食生活には特に問題なし。
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