戻る<<

コラムリコラム:バックナンバーへ

「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第33回:沖縄再生についての「夢物語」

100127up

名護市長選挙は終わったけれど…

マガ  嬉しいニュースも、たまにはあります。

ジン  ははあ、それは基地移設反対派の稲嶺進さんが当選した沖縄・名護市長選挙のことですな。

マガ  当たりです。僕は正直言って、ホッとしている。ここでもし、基地容認派の島袋吉和さんが勝っていたとしたら、辺野古をめぐる問題はいっそう紛糾して、何がなんだか分からなくなっていただろうと思う。ともかく、これで沖縄の直近の民意は明らかになった。辺野古移設は当然、不可能になったということだよね。

ジン  そうだね。島袋さんだって「県外移設が望ましいが、現状では受け入れ容認しかない」と、かなりトーンダウンしていたし、実際、選挙戦で島袋さんは基地問題にはほとんど言及せず、地域振興策ばかりを強調していた。基地を巡る議論の難しさだね。

マガ  この選挙戦、大接戦だったみたい。結局、稲嶺さん17950票、島袋さん16362票と、1588票差。テレビ局はかなり早い段階で“当確”を速報したけれど、冷や汗もんだったんじゃないかな。

ジン  でも、その本質は投票行動を分析するとよく分かる。

マガ  投票行動の分析?

ジン  期日前投票というのは知っているよね。以前はかなり面倒くさい手続きが必要だったけれど、現在では投票所の入場券さえ持参すれば、簡単に期日前投票ができる。今回の選挙では、この期日前投票がなんと、全投票者数のほぼ40%、14239票にも及んだ。各メディアの出口調査によると、このうちの65%ほどが島袋候補票だったと言われている。だから、選挙戦の前半では島袋候補がかなり優勢だった。しかし、当日投票ではこの比率が逆転、稲嶺さんの当選につながったというんだ。

マガ  期日前投票の多くが、組織的動員だったということ?

ジン  そう考えていいと思う。実際、島袋陣営では建設業など自民党支持層を中心に大動員をかけ、連日のように集会を繰り返した。その集会場が実は、期日前投票所のすぐそばだったんだ。つまり、決起集会を開いて大量動員し、そこに集まった人々に期日前投票を呼びかける。なにしろ、集会参加者に、投票券を持参するよう要請していたというからね。そして集まった人たちを、そのまま投票所へ誘導する。これが、期日前投票が激増したひとつの理由だと言われている。

マガ  なるほど、組織的だね。でも投票は自由だから、いやいや動員されたとしても、言われたとおりに投票しなくてもいいはずじゃないか。

ジン  そこがこういう地方選の難しいところなんだ。投票所へは必ず自派の運動員も同行して一緒に投票する。投票所内の近くに見張りのような形で人がいれば、候補者の名前を書こうとする場合、見えないとしても、自分の投票相手が知られてしまうのではないか、という疑心暗鬼に駆られるのは当然だろう。そうすると、しがらみから抜け出せず、つい言われたとおりの名前を書いてしまう。

マガ  なるほど。地縁血縁、それに会社の縁でがんじがらめの選挙なんだ。

ジン  さすがに当日投票ではその手は使えない。ここで反対派が逆転したという。だから、接戦にもつれ込んだのは、ある意味、当然だったんじゃないかな。

マガ  誘致派がそこまでやってもなお誘致反対派が勝利したということは、明らかに意識が変わってきたということだね。これまでの、自民党による地域振興のバラマキ政策は功を奏さなかったわけだ。

ジン  自公政権はこの10年ほどの間に、名護市など沖縄北部地域に総額2千億円を超える振興資金を投入してきた。しかし、それはほとんどハコモノ建設に使われ、その後の雇用拡大や景気回復にはつながらなかった。沖縄は日本で最も雇用環境が劣悪だと言われているけれど、その沖縄の中でも特に名護市などの北部地区、やんばる地区の失業率は最悪だという。辺野古基地建設による“特需”を期待する人たちに対して、島袋陣営は「振興策の増大による景気回復」を訴えたわけだが、現状を知っている人たちはそれを拒否した。そういう構図だったようだ。

マガ  ハコモノ行政の行き詰まりで、どこの地方も痛い目にあっている。それでもそこに頼るしかない悲しさも分かるけど。

鳩山政権は“民意カード”を生かせるか?

マガ  しかし、この選挙結果で鳩山首相は“民意”というカードを握ったわけだよね。そのカードを、対米交渉の中でどう有効に使っていくのかが問われることになる。

ジン  普天間問題の結論を引き延ばしてきたわけだから、この選挙結果は鳩山首相にとってはそうとうな足枷になる。この足枷を外すような真似は、絶対にできないだろうな。もし、それでも辺野古へ移設、などということになったら、鳩山政権というより、民主党政権そのものが崩壊する。もっとも、平野官房長官が「市長選の結果を斟酌しなければならない理由はない」と25日の記者会見で発言。それに対し沖縄県民が激怒しているという。アメリカへの配慮だろうけど、この人、いったいどこの国の官房長官なんだろうな。

マガ  アメリカは、もう一度、自民党政権に戻ることを望んでいるのかしら?

ジン  そんなことはないだろう。日本の政治が揺らぐことは、アメリカにとってだって決して望ましいことじゃない。民主党政権が安定し、日本がアジアに目を向け、中国などとうまくやってくれることを、むしろアメリカも願っている。アジアの不安定要素を取り除くことが、イラクやアフガン問題を抱えるアメリカにとっては重要なことだからね。

マガ  となれば、辺野古移設をアメリカも諦めざるを得ない?

ジン  それは覚悟したと思うね。

マガ  そうなると、普天間基地はどうなる?

ジン  世界一危険と言われている基地を、このままにしておくわけにはいかない。そもそも今回の辺野古問題は、普天間基地周辺住民の負担軽減ということから始まったことなんだから、これを放置しておくことは政治の怠慢ということになる。

マガ  それじゃ、どうする…?

ジン  県外移設、海外移設、ヘリコプターなど航空機の分散移転など、いろいろな案が出てくると思うけど、私はやはり「普天間基地の無条件撤去」という方向へ進むべきだと思う。

マガ  それは可能だろうか?

ジン  米軍再編ということで、アメリカは基地の再配置を考えていた。実はその中で、辺野古は優先的な移転先ではなかった。海兵隊はほぼグアムへの移転が決まっているし、別にどうしても辺野古に基地が必要なわけじゃない。在沖縄海兵隊は1万9千人と言われているが、実際は1万人弱しかいないという説もある。そのうち8千人ほどをグアムへ移すというのが、当初の米軍再編の計画だったのだから、実際のところ、海兵隊の基地である普天間基地の必要性はかなり低くなる。だから、アメリカだって普天間基地移転に同意したんだ。

マガ  それならなぜ、辺野古移設にこだわるの?

ジン  いや、辺野古移設にこだわったのは、実はアメリカ側ではなく、日本側だったとも言われている。

マガ  えっ、日本側の要求だったの?

ジン  アメリカは海兵隊のグアム移転を決定していた。ところが日本政府や防衛庁(当時)、それに大手ゼネコンなどが、辺野古基地建設による利権獲得を意図してここにこだわった。実際、辺野古周辺の山や原野を大手ゼネコンが買い漁っていたともいう。しかし辺野古移設がなくなれば、手に入れた山や原野は無駄になる。それに地元建設業者たちだって、喉から手が出るほど仕事が欲しい。そこで、政府や防衛庁に働きかけて辺野古案を飲ませた、という話だ。

マガ  それはすごい話だけど、でも日本のメディアは、「辺野古移設ができなくなれば、アメリカは激怒し、普天間基地は永続的に存在することになる」と、相変わらず言っているよ。

ジン  アメリカにとってみれば、せっかく日本が造ってくれるという立派な基地を断る理由なんかひとつもないさ。なにしろ、滑走路が2本あるV字型の素晴らしい基地だ。おまけに日本にいれば、美味しい“思いやり予算”までくっついてくるのだから、基地を存続させておくのは願ったり叶ったり。

マガ  つまり、あまり必要性はなくても、せっかく造ってくれるんだから、とりあえず確保しておこう、ということ?

ジン  アメリカ側の意識としては、それに近いんじゃないかな。硫黄島移転という案もあるだろう? あの案の反対の本音は、実は「兵士たちの息抜きの場所が硫黄島にはないからだ」ともいう。確かに20歳前後の若い海兵隊員は、息抜きなしでは暴発しかねないからなあ。

マガ  米兵の息抜きの場所として、沖縄が使われているってことか。

ジン  そういう側面もある、ということだよ。

長寿の島=医療立県

マガ  しかし、基地容認派の人たちが繰り返し主張していることだけど、米軍基地がなくなったら、そこでの雇用がなくなり、困る人がたくさん出てくるよね。その点はどうすればいいんだろう。

ジン  基地に代わる雇用策を作り出さなければならない。これは私の夢想に近い案だけど、聞いてくれるかな?

マガ  ほう、夢想ね。夢を語るのは楽しいよ。

ジン  沖縄は、かつては「長寿の島」と呼ばれていた。最近は、それこそアメリカが持ち込んだジャンクフードが蔓延したこともあって、長寿日本一の座から滑り落ちてしまったけれど、沖縄のおじいやおばあの元気ぶりはいまでも有名だよね。気候や沖縄食の賜物だろうけど、それを利用しない手はない。

マガ  町おこしや村おこしに“長寿”というイメージを活用しようということだね。でも、それはちょっと古いし、イメージだけじゃ難しいでしょう。

ジン  いや、イメージではなく具体的な施策で「長寿の島」を売り出すんだよ。つまり「長寿←医療→環境」という戦略。まずリゾート感覚の病院、高齢者施設、高度先端医療研究施設、医科大学など、医療関係施設を沖縄へ集中的に誘致する。島全体を「医療特別区域」に指定するんだ。沖縄へ行けば素晴らしい治療が受けられる、先端医療の研究は沖縄が世界一、温暖な環境での高齢者施設は他のどの地方よりも充実している、というようなことを具体的な形として造り上げる。米軍基地跡地や米軍占有ビーチなどに、適地はかなりあるはずだ。現在、沖縄には「貿易特区」があって、外国製品の関税免除などが行われているけど、「医療特区」によって法律を整備し、治療費の軽減、割安運賃制度の導入、滞在費負担補助などへ、政府が資金援助を行えばいい。「貿易特区」よりははるかに効果的だと思う。沖縄便増便でJAL再建にも一役買えるだろうし。

マガ  なるほど。「長寿の島=医療の島」となれば、イメージが具体的になるな。

ジン  さらに、それを観光に結びつける。医療・介護施設周辺に、長期滞在も可能な安価な宿泊施設をたくさん造る。つまり、お見舞いに来た家族などが、ゆったりとくつろげるような施設。家族に病人がいれば辛い思いもするだろうけど、一日中、医療施設にいるわけでもない。多少は海辺でリゾート気分を味わったって構わない。そうすれば、お見舞い旅行もそんなに気が重くなることもないだろうし。

マガ  なるほど。かなりいいアイデアだね。当然のことながら、医療従事者や介護施設職員、それに滞在施設の従業員、さらには施設建設の需要も見込める。新たな雇用がかなり生まれるね。

ジン  もちろん、周辺には店舗やレストランなどの商業施設もできるだろうから、さらに雇用は増えると思う。観光産業も、今以上に盛んになるはずだよ。

マガ  うーん、沖縄を新しい「長寿の島」に生まれ変わらせるわけだ。いいなあ、それ。

ジン  井上ひさしさんに『吉里吉里人(きりきりじん)』(新潮社)という名作がある。これは、東北の岩手県にあるらしい「吉里吉里村」が日本政府に叛旗をひるがえして独立してしまう、という奇想天外波乱万丈の物語なんだけど、この吉里吉里国が高度先端医療で医療立国を目指し、世界各国の要人などが医療を受けるために訪れる、という発想が根底にある。私の“夢想”は、実はこの井上さんの小説に触発されたものなんだ。

マガ  そうか。僕も『吉里吉里人』はずいぶん前に読んだ記憶があるけど、確かに“医療立国”というテーマがあったな。でも、文学が実際の世界を変えていくなら、こんな素晴らしいことはないよね。ほんとうに、そういう構想が実現するといいなあ。

ジン  キャッチコピーは「基地の島から命の島へ」。沖縄には「命どぅ宝(ぬちどぅたから)=命こそが宝物」という言い回しもあるくらいだから、基地よりも医療のほうが絶対に似合う。

マガ  素晴らしい!! 夢なんかじゃなく、具体的にそれを提言したいね。この究極の沖縄振興策を、政府も沖縄県も真剣に検討してほしいな。基地問題解決への、ひとつのステップになりそうな気がする。

(放光院+α)

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条