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2011-1-26up

鈴木邦男の愛国問答

第67回

「タッチ君」の時代

1.女子生徒のスカートを破った。でも私は悪くはない。痴漢ではない! 生徒は家に帰って、お母さんに言いつけた。お母さんは娘をたしなめた。「鈴木さんは人格者です。そんなことをする人ではありません。『マガジン9』にだって連載してる人だし…」と。娘は黙って「証拠」を突きつけた。破れたスカートだ。「まあ!」と、お母さんは絶句した。

 これと似た事件が最近あった。「産経新聞」の今年1月22日付に出ていた。女子学生のスカートを切った男(42才。新聞には実名が出ている)が逮捕された。「似たような事件」でもこっちはいきなり逮捕だ。「憂さ晴らしでやった」と言う。もっと別のことをして憂さを晴らせばいいのに。それに彼は、7件もやった。地下鉄飯田橋駅で「スカート切り」事件が頻発していて、捜査員が張り込んでいたところ、この男は、前にいた大学生の女性(19才)のスカートを、ハサミで20センチ切った。それで現行犯逮捕された。何とも大胆な手口だ。それに、ハサミを持ち歩くなんて。容疑は「器物損壊の現行犯」だ。スカートは「器物」なんだ。でも、女性の持っていたカバンに落書きをした、とか。持っていたぬいぐるみに傷つけた、とか。同じ「器物損壊」でも、大いに違うだろう。大事なスカートなんだから。でも痴漢にはならないのか。触っていないから、痴漢ではなく、単なる「器物損壊」なのか。これでいいのか! と、糾弾する資格はない私だが…。

2.別の日。別の女子生徒のスカートをめくった。別に悪気はない。痴漢ではない。「憂さ晴らし」だ。子供の頃、やれなかったので、今頃になってやってみただけだ。ちょっと時期がズレただけだ。

 『三島由紀夫全集』(新潮社)を読んでいた時に、何のエッセイか忘れたが、三島の友人の「タッチ君」の話が出ていた。会社で、女の子のお尻にタッチしまくり、皆に「タッチ君」と言われている。今なら、「セクハラ」「痴漢」だし、下手したら逮捕だ。でも、「タッチ君」は皆に愛されている。「キャー!」「いやらしい!」と女の子は叫びながらも、喜んでいる。タッチされない女性は、「どうして私はタッチされないの?」「魅力がないのかしら」と悩む。40年ちょっと前の日本だが、全く別世界だ。そんな時代があったんだ。今では、信じられないし、そんなエッセイも絶対に書けない。

3.又、別の日。別の女子生徒の穴に指を入れた。温かかった。柔らかかった。気持ちよかった。でも、これは今なら痴漢かもしれない。「タッチ君」と同じように、40年前のような気がする。いや、最近かな。ともかく、今じゃ出来ない。

 はい、これで終わりです。私の「懺悔録」でした。ごめんなさい。心を入れかえて、これからは真人間になって生きたいと思います。でも、これだけだと誤解されるかな。じゃ、蛇足というか、「解決編」を付けよう。

1.何年か前だ。何十年も前かな。皆でキャーキャーと遊んでいたんですよ。歩いていたのか。ハイキングか。「疲れた」と女の子が言い、「クニオ、おんぶ!」と言う。周りの皆も、「おんぶしてやれよ!」とはやし立てた。嫌々、おんぶした。女の子は、私の背中に乗り、両脚をひろげた。私は足をかかえた。その時、スカートがビリっと裂けたのだ。ピッタリとした、窮屈なスカートだったんだろう。彼女が両脚を広げた瞬間に破けたのだ。不可抗力だ。私の責任ではない。でも、「スカートを破った男」という汚名だけは残った。

2.女の子は、ジーンズをはいてたんですよ。その上に、スカートをはいていた。こんな奇妙な格好をする女の子が最近はよくいる。スカートの下にズボンをはいている。こうなると、これはもうスカートではない。ズボンの上の「飾り」だ。スカーフのようなものだ。だから、めくってやった。あっ! と彼女は叫んだ。でも、下はジーンズだ。これは、スカートめくりではないだろう。「でも、めくられるのは恥ずかしい」と言っていた。
 でも今、同じことをやる「勇気」はない。たとえ、スカーフだろうと、アクセサリーだろうと、触っただけで、「セクハラ!」「痴漢」と言われかねない。「タッチ君」が通用した時代ではない。だから、私は今は、慎重に、臆病に生きている。

3.穴のあいたジーンズを若い女の子は、よくはいている。何だ、これは! と初めは思ったが、今は慣れた。これも「日本文化」なのか。でも、余りに穴が多い。大きい。だからつい「指を入れていい?」と聞いたのだ。「いいよ!」という。柔らかくて、温かかった。その感触を今でも覚えている。でも、たとえ「合意」でも、今なら「セクハラ」「痴漢」になるだろうな。「タッチ君」の時代とは違う。反省している。

 思い出した。何年か前、元『噂の眞相』の編集長の岡留安則さんと対談した。『サイゾー』だったかな。「天皇制と言論の自由」について話をした。カメラマンは若い女の子だ。フィルムを替える時、むこうを向いて、しゃがんだ。その時、セーターがめくれて、背中(というか、腰の上ですな)がちょっと見えた。「うわー! 裸だ!」と岡留さんは喜んだ。5センチか16センチだが、「裸」が見えたんだ。オジさんは、その〈事実〉に興奮した。
 それを見て、編集者の女性が、「じゃ、私も見せましょうか?」と言った。岡留さんは、すかさず言った。「いや、君はいい!」。君は見せなくてもいい、と言ったのだ。「それもショックだわ」と編集者は、しょんぼりしていた。
 一瞬の判断が難しい。岡留さんは優しかったのか、残酷だったのか。「君は編集者なんだから、オジさんにサービスする必要はないよ」と言ったのか。「若い女性のナマ背中だから興奮したんだ。君じゃ…」と言ったのか。今でも謎だ。私ならば、「じゃ見たい」と言っても、「見たくない」と言っても、どっちでも「セクハラ」「痴漢」と言われそうだ。難しい。オワリ。

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最後には岡留さんまで登場した、
鈴木さんの「懺悔録」。
さて、あなたはどう判断しますか?

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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