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2011-02-23up

鈴木邦男の愛国問答

第69回

ワークショップに参加して

 実に刺激的で、楽しいイベントでしたね。第6回「マガ9学校」は。伊勢崎賢治さん、マエキタミヤコさん、ありがとうございました。東京外大生の皆さま、ご苦労さまでした。マガジン9スタッフの皆さま、お疲れさまでした。
 それに、当日、雪の降る寒い中、参加して下さった皆さまにも感謝です。「平和と軍事のシミュレーション〜あなたが決める尖閣問題」と聞いて、一体何が始まるんだろうと思い、期待に胸を膨らませて来られたのでしょう。1時から6時と、時間が長い。参加費も高い。これで人が集まるのかと思っていたら、満員でしたね。企画がよかったんでしょう。
 実はゲストの僕も、何が起こるのか全く知らないで参加しました。いろんな「設問」が出され、それを3グループに分かれた参加者が、討論し、その結論を、それぞれ発表する。それが何回かあって、最後に、ゲストがちょっと感想を言う。そういうことかと思っていた。じゃ、会場の隅で、5時間、じっと聞いてればいいのか。と思ってました。ところが、「あなたが決める」という。参加者もゲストも一緒に入ったワークショップなんですね。
 外大生によるプレゼンテーションも、いい。よくまとまってるし、スクリーンに映しだされたニュースなどを使って、尖閣問題を解説してくれる。配られた資料も詳しい。そして第一の設問だ。「中国は非常に脅威だと思いますか」。これを受けて、3グループで討論。突然、討論しろと言われても無理だろう。皆、モジモジして話せないんじゃないか。…と思っていたら、いきなり活発な議論が始まる。3つのグループを回ってみたが、かなり激越な議論になってるとこもある。あっ、こんなシーン、テレビで見たことがあるな、と思った。各人の発言を紙に書く。時間になると、全体の結論というか、議論の流れを、各グループが発表する。

 これがワークショップなのか、と初めての体験に驚いていると、「臨時ニュース」だ。衝撃的な映像が流れる。
 「中国の漁民(30人)、尖閣に上陸」「上陸可能な船着き場の建設を開始」…と。一触即発の危機だ。「漁民を逮捕しろ!」「自衛隊を出せ!」という声も起きる。その自体を踏まえて、再びグループ毎の討論。そして発表。その間にも「事件」は起き、ニュースが流される。「漁民に対し説得にあたった海保職員7名が攻撃された」。さらに、「『尖閣の自然を守る会』の自然保護活動家・野口賢治氏が拘束される」…と。
 「そんなの自己責任だ」「いや、国内の問題だ。自衛隊を出して救出しろ!」という声も出る。さて、どうする、どうなる日本! …と、白熱の議論は展開する。スリリングだし、このシミュレーションにのめりこんでしまった。

 「次は、ぜひ憲法でやりたいですね」と、終了後に伊勢崎さんは言っていた。いいですね。学生や主婦、サラリーマンを入れた討論会というのは、NHKでも時々やってるが、今回のワークショップの方が面白かった。参加者も、次に何が起きるか分からない。先が読めない。そのシミュレーションの中で、必死に考え、討論する。次は、憲法をテーマにやるんなら、どうやってこの憲法が出来たか。それを映像で流す。なぜ改憲論が起こったか。国際情勢の説明をする。変えるなら、どこを変えるのか。その「試案」も紹介する。三島由紀夫も改憲を考えていたし、それも発表する。そして、3グループに分けて、白熱の討論だ。
 「右翼と左翼を実際に集めたらどうですか」と僕は提案した。右翼(20人)は勿論、改憲派だ。左翼(20人)は勿論、護憲派だ。2時間、ノールールで闘わせる。レフェリーはいる。終了したらそれを見ている人が、採点する。論旨、討論態度、言葉の美しさ。熱意…などの項目ごとに採点。それを集計し、レフェリーが発表する。
 20分の休憩のあと、第2ラウンドが開始。今度は、左翼・右翼は場所を交替。そして、「主張」も交替する。つまり、右翼は「護憲」を主張する。左翼は「改憲」を主張する。そして、2時間、真剣勝負をやる。
 「昔テレビでそんなディベートがありましたね」と伊勢崎さんが言う。そうなんだ。「ザ・ディベート」だったかな。20分くらいで、「主張」を交替させ、見てる人が、それを採点する。「主張」の正しさ、熱意よりは、討論の「技術」を競い合ってるように見えて、日本では人気がなかったし、根付かなかった。

 でも、ワークショップでは、やってみる価値がある。「面白い。やってやろう」と出てくる勇気のある人は本物だ。「自分の思想に反することを言うなんて嫌だ」という人は未熟だ。本当は、自分の思想にも自信がない人だ。日本では、「趣味」と「思想」は(本当は)大して違いはないのに、「思想」は貴いと思われている。「思想」は命をかけるものだと思っている。だから、「立場を変えてみる」というシミュレーションなど、思いもよらない。
 その「思いもよらない」ことをやってみたらどうか。実際の右翼、左翼が集まらなかったら、右翼、左翼になり切った外大生でもいい。事前に、それぞれ1ヶ月程、「体験入翼」してきたらいい。ただ、ここで心配なことがある。「無気力相撲」や「八百長」が行われる危険性だ。特に本物の右翼、左翼が出て来た時は危ない。第1部は真面目にやるが、第2部になった途端、無気力になって、闘わなくなる。自分の意に反したことを言うんだから、熱意が入らない。中には、わざと論争に負けて、「私が悪うございました、あなたの考えが正しいです」と言う人間も出るだろう。
 でも、これは厳しい真剣勝負だ。その時点で「負け」にする。あるいは、無気力、八百長は即、退場だ。そうすると、本来の自分の主張(第1部で言ったこと)も、全て「負け」になる。第1部、第2部、両方を通して勝ったものだけが真の勝者になる。又、第2部で、「相手の立場」に立ってみることで、「敵」の気持ちも理解し、弱者にもやさしい気持ちが養われる。
 なんなら、最初から第2部だけでやってもいいな。あるいは、左翼、右翼をゴチャ混ぜにして、2グループに分ける。あとは、くじ引きで、改憲派、護憲派にして、闘わせる。これも面白いじゃないか。共に闘うなかで、禁断の友情も生まれるだろう。

 ここでフラッシュバックした。40年前の刺激的な体験が甦った。乃木坂にある「生長の家」の学生道場に僕は住んでいた。当時、「生長の家」は全国の愛国運動の中心になり、他団体をリードしていた。その学生道場だから、「この日本を護る」「左翼なんか徹底的にやっつけてやる」と燃えていた。30人位の学生が日々、修行し、闘っていた。
 全国の「生長の家」の親たちは、ぜひ息子をそこに入れたいと思った。でも、30人以上入らない。そこで、国立市に第2学生道場を作った。そこも30人ほどが入った。何年かして、両方の学生道場で、合同道場祭をやった。学生らしく「模擬国会でもやろう」と僕は提案した。憲法改正についてだ。それも「生長の家」の本部でやった。「生長の家」は改憲運動をリードしている。どっちも、改憲派をやりたい。でも、それじゃ「模擬国会」にならない。仕方ない。我々が譲歩した。国立の学生道場に改憲派を譲ろう。我々、乃木坂の学生道場は、嫌だけど「護憲派」をやる。それで僕らは急遽、「護憲」の勉強をした。
 「生長の家」本部で、全国の信徒が集まる前でやった。大道場が超満員だった。あらかじめ、「打ち合わせ」をした。初めから改憲派が圧勝したら、誰の目にも八百長だと分かる。だから、初めは護憲派の我々が、ガンガン攻める。それで途中から、こちらのミスを衝いて改憲派が攻撃に出る。あとは流れでやろう。と、八百長相撲の打ち合わせと同じだ。最後は改憲派が勝ち、護憲派の我々は「チクショー」と言って、机を蹴とばしながら退場する。
 そんな筋書きだった。初めは、こっちがガンガン攻めた。気分がいい。本当に俺は左翼だったんじゃないかと、自分で不安になった。時間が半分ほどすぎた。改憲派の攻める番だ。こっちは、サインを出した。ところが、どうしたことか、攻めてこない。前半、押されっ放しで、やる気をなくしたのか。でも、いきなりこっちも攻め手をゆるめては八百長だとバレる。仕方ない、力を少々抜いたが、攻めた。向こうは何ら抵抗できない。仕方ない。攻めまくった。そして、あろうことか、我々護憲派が勝ってしまった。
 あとで、皆に文句を言われた。「何で勝ったんだよ、バカ!」と。でも、向こうの実力が低すぎて、勝負にならなかったんだ。その頃から、「お前は本当は左翼じゃないか?」とか、「本当は護憲じゃないのか?」と疑われた。迷惑な話だ。でも、40年たって、今は「マガジン9」に連載をするようになった。友達も左翼の人間ばっかりだ。「やっぱり本性をあらわしたか!」と40年前の仲間たちは思ってるだろうな。

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寒〜い雪の日の「マガ9学校」は、なんとも熱い盛り上がりに。
鈴木さん、ありがとうございました!
ワークショップという形式、まだまだいろんな可能性がありそうです。
次回は「憲法ディベート」か、それとも? お楽しみに!

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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