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2011-07-06up

鈴木邦男の愛国問答

第78回

僕の編集者レーニンさん

 〈編集〉は〈革命〉だ。最近、そう思う。
 「これで闘おう」と思ったら、そのテーマを大きく立てる。なぜ、この闘いが必要かというリードを付ける。言いたいことを強調するための見出しを考える。写真やイラストを入れて、よりビジュアルに訴える。不要な文章や冗漫な文章は思い切って捨てる。この非情さが一番大事だ。同人誌のように、集まったものは全て載せる、というのでは〈編集〉がない。闘いもないし、〈革命〉もない。
 実際の革命も、編集のようなものだ。闘いのテーマを大きな題字にし、リードを付け、見出しをつける。今、世界はどうなっているのかを、切り取って見せてくれる。写真、イラストも入れる。〈敵〉をはっきりと示す。それと闘うために、味方の中の有能な人間を思い切って抜擢する。無能、不要なものは切り捨てる。勝つためには非常になり切る。編集も革命も同じだ。
 マルクスもレーニン、毛沢東、ゲバラも編集者だ。この世界に否を言い、変える。大きな題字を付け、リードを付け、世界を編集し直す。不要なものは切り捨てる。革命は流血の闘いだ。お客を招いて御馳走を出すのとは違う、と毛沢東は言っていた。同人誌を出すのと、本を編集するのは違う。そういうことだろう。
 学生時代、(勉強のために)左翼の集会にもよく行った。全学連大会も見た。「敵のスパイが来た。やっつけろ」なんて言われたい。「勝手に見たらいいだろう。我々の力を思い知れ」と言っていた。牧歌的な闘いの時代だった。どの集会でも、初めに「基調報告」がある。世界はどうなっているか、その中で、日本はどうなっているのか。だから、我々はこれをやらなくてはならない。この闘いが必要だ。と、畳みかけていく。大きな世界に目をやり、それをグイグイと狭めてゆく。カメラのレンズを絞るように、焦点を合わせてゆく。不要な部分はどんどん切り捨ててゆく。絞られた焦点には、「闘うテーマと僕たち」だけがいる。
 これは〈編集〉作業だ、と思った。この「基調報告」は、2時間も3時間も続く。そのあと、各大学の「闘争報告」やら、他の団体からの「連帯の挨拶」がある。〈編集〉された世界の中で、どう闘っているか。目に見える「見出し」や「イラスト」「写真」が闘争報告であり、連帯の挨拶だ。
 だから、革命家は編集者であり、編集者は革命家だ。出版社の社長や幹部、雑誌社の編集者に学生運動出身者が多いのも当然だ。元活動家で今、編集者として大活躍している松岡正剛さんにこの説を披瀝したら、「その通りですね」と言われた。松岡さんは、だから今も革命家である。宝島社の社長もそうだ。他にも沢山いる。かつて一世を風靡した『噂の真相』の岡留編集長もそうだ。現在、『紙の爆弾』を発行している松岡利康さんもそうだ。でも、この二人は革命というより、ゲリラ戦なのかもしれない。
 革命家で編集者のレーニンさんには、最近、大変お世話になっている。元活動家で今、「椎野企画」という編集プロダクションをやっている椎野礼仁さんだ。レーニンと読む。本名だ。お父さんは『論語』から取って、「礼」と「仁」にあつい人になれ、と付けたという。だったら「仁礼」でもよかった。わざわざ「レーニン」にしたのは、「革命家になってもいいぞ」という期待があったからだ。それに違いないと僕は思っている。
 2003年にイラクに行った。そこで知り合った。連合赤軍関係の本や、日本赤軍、PANTAの本などを作っている。僕の本は3冊作ってくれた。レーニンさんと、高橋あづささんが担当してくれた。次の3冊だ。
 1冊目は、川本三郎さんとの対談本で、『本と映画と「70年」を語ろう』(朝日新書/2008年5月)
 2冊目は、『遺魂 —三島由紀夫と野村秋介の軌跡』(無双舎/2010年10月)。
 そして、3冊目は、6月末に出たばかりの『新・言論の覚悟』(創出版)だ。
 3冊とも好評だ。「編集がうまい。素晴らしい」と褒められている。それは事実だが、「編集」ばかりが褒められると、「書いたのは僕なのになー」と僻んでしまう。「でも編集がうまい」と言われる。レーニンさんにはかなわない。
 川本さんとの対談は、レーニンさんが川本さんを口説き、対談の場につれてくることから始まった。山の上ホテルで6回、対談し、厖大なテーマを整理し、革命的に編集した。川本さんは若き日、「赤衛軍」という革命集団にシンパシーを持ち、かかわり、それで新聞社をクビになる。それ以来、「あの川本」と言われるのが嫌で、政治や学生運動、革命については沈黙を守り、文学評論、映画評論に専念してきた。対談では、文学や映画の話をしながら、少しずつ、昔の話を引き出す。ポロリ、ポロリと語る。その「ポロリ」を大きく取り上げ、前面に出して、「あの川本」を甦らせる。さすが革命家、レーニンだ。
 本の帯には、「天皇制、テロ、三島由紀夫、暴力革命、三丁目の夕日」という言葉が踊っている。今の川本ファンには「知らない世界」だ。
 あとの二冊は、月刊誌の連載をまとめたものだ。『遺魂』は「月刊タイムス」の連載を、『新・言論の覚悟』は月刊「創」の連載をまとめた。ただ、膨大な量で一冊の本には入らない。それで三分の一か、四分の一にした。大部分を非情にも捨てるのだ。書いた本人では出来ない。下手な文章かもしれないが、どれに対しても愛着がある。書いた時の思い出がある。自分の子供のようだ。「お父ちゃん、捨てないで!」と子供が泣いてすがる。捨てられない。非情な編集者にしか出来ない作業だ。思い切り、切り捨ててくれる。僕は一切見ないことにした。「復活要求」もしない。〈編集〉という名の流血の革命が終わるのを、ただ、じっと待っているだけだ。
 それに、連載をまとめるとなると、普通は、掲載順にする。時系列にする。ところが、そんな〈常識〉を捨てるのが革命家だ。時間を無視し、闘うテーマごとに集める。そして、闘う軍団をつくる。いや、章立てをする。これは見事だ。下手に愛着があったら出来ない。この兵士はいいやつだ、かわいいから死なせたくない… なんて思ってたら、革命戦略は鈍る。失敗する。自らの感情を捨て、突き放し、冷酷に〈編集〉しなくてはならない。情けがあったら編集者はつとまらない。
 それに編集者は、著者の「隠れた一面」を発見し、前面に出す。「俺はこれを言いたいんだ」と著者は思っても、「いや、本心はこっちの方にある。それを大きく取り上げましょう」と、(著者には相談なく)断行する。監督と俳優の関係にも似ている。自分のことは自分ではよく分からない。「これが得意だ。これをやりたい」と思って俳優が自分で監督をやると、ほとんど失敗する。他人の方が、その人のことをキチンと見ているのだ。
 『新・言論の覚悟』は、レーニンさんの革命的発想・戦略によって章立てされている。僕が自分でやったら、こうは出来なかった。相談されたら、「これで章立ては無理だろう」「捨てた原稿のこれは生かしてくれよ」とか、「もう一つ、こんな章立てをしてよ」と提言し、〈レーニン革命〉をぶち壊しただろう。そうなると、中立的な、面白くないものになる。
 レーニン革命の章立ては4つだ。
  1. 言論の覚悟
  2. 赤軍・よど号・北朝鮮
  3. 映画から読み解く日本
  4. 愛国心・憲法・人権を考える

 それぞれが完結している。第2章では、「よど号」グループとの関わり、訪朝失敗、そして「よど号」グループと会えた所まである。又、第3章は、自分がこんなに映画に関わってきたのか、と驚いた。「靖国」「太陽」「ザ・コーヴ」…と、それぞれにドラマがあり、闘いがあった。章立てがうまい。僕だったら、第1章だけで終わり、進歩がなかっただろう。ましてや第4章を独立してまとめるなんて考えつかない。こう見てくると、僕の思想の過去・現在・未来と、進んでるようにも見える。いや、革命家レーニンの〈期待〉があるのだろう。僕にとっては、「例外的」なエピソードだ。大阪アムネスティで死刑について講演した。ニューヨークでベアテさんたちと憲法についてシンポジウムをした。世界の愛国者による「反戦平和」の会議をした…と。それを、ラストの最重要テーマに持ってきて、「さらに躍べ!」激励されている。そうみえる。
 「最後は、“マガジン9”的世界で締め括っていますね」と言う人もいた。自分では気がつかなかったが、そうかもしれない。僕の〈進化〉かもしれない。巻末では田原総一朗さんが特別に対談してくれた。もうこの人は、「右翼と言うよりアナーキストだ」と言っていた。最大限のおほめの言葉だと思った。さらに進化し、躍んでみたい。

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〈編集〉は革命だったのか! と、
ちょっと身が引き締まる思いに。
そして「進化」を続ける鈴木さんの1冊、必読です!

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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