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2012-04-25up

鈴木邦男の愛国問答

第97回

太陽節慶祝で北朝鮮に行きました

 北朝鮮に行ってきました。4回目です。でも、今回は特別でした。金日成主席生誕100周年の太陽節奉祝で国中が喜び、沸きあがっている北朝鮮に行ってきたのです。毎日が驚きの連続でした。新しいリーダー、金正恩さんを見ました。演説も聞きました。軍事パレードも見ました。正式に招待されたのです。金日成主席、金正日総書記の銅像の除幕式にも出ました。板門店にも行きました。世界一の花火大会も見ました。

 金正恩さんは第一書記になりました。除幕式、軍事パレード、花火大会の3回、金正恩さんは現れました。「外国人招待者」の僕らは、30メートルほどの近くから正恩さんを見ました。正恩さんを見た日本人は、60人ほどしかいません。僕は、その60人のうちの一人です。まさに、歴史の現場にいた、という感じでした。日本からは、いろんなグループが来ていて、アントニオ猪木さん、デヴィ夫人、金丸信吾さん(金丸信さんの息子さん)なども来てました。世界中からもお祝いに来てました。この歴史的な慶祝行事を見たいと思ったのです。希望者が多く、断るのに大変だったようです。でも、アジア、南米、アフリカ、ヨーロッパから1000人以上が来てました。報道陣も、アメリカをはじめ、多くの国から来てました。

 人工衛星かミサイルか分かりませんが、打ち上げられました。しかし、「軌道には乗らなかった」とすぐに失敗を認めて、テレビで発表しました。北朝鮮も随分と変わったと思いました。高層ビルもどんどん建ってます。僕らが泊まった羊角島(ヤンガクトウ)ホテルの47階の回転展望レストランから見ると、まるでニューヨークのようです。前は、写真厳禁でした。高い所から街を撮ってはダメだ、と言われました。国防上の理由だと言います。でも、今回は「どうぞ、どうぞ撮ってください」と言う。板門店も自由でした。

 ニューヨークのようだ、と言いましたが、日本に帰ってきて、そんな写真を見せると、皆、喜ばないんですね。「北朝鮮らしくない」と言います。北朝鮮は拉致をやった酷い国だ。独裁者の圧政に人々は苦しんでいる。脱北者と飢餓の国だ。そういうイメージです。だから、そういうイメージにあった写真を見ると、「北朝鮮らしい」と思います。それ以外は「北朝鮮らしくない」と拒否します。

 金正恩さんを見て、喜び、拍手する一般の人々の姿を見ると、実に嬉しそうに、そして「自然に」拍手をしています。これは驚きでした。だって、日本のテレビでは、大袈裟に絶叫し、体全体で感情を表現する人ばかりが出ます。だから「無理にやらされてるのに違いない」「忠誠心を示す為の演技に違いない」と思ってしまいます。でも違うのです。中にはそんな人もいますが、例外的です。一般の人々は、落ちついて、自然に喜び、拍手しています。ところが、テレビはそれでは面白くない。大袈裟に、体全体で表現し、絶叫する人だけを撮ります。その方が、「絵」になるからです。そんなことも分かりました。

 今回は、「よど号」グループとも会いました。今、残っている男性4人、女性(奥さん)2人の計6人と会いました。全員と会ったのは今回が初めてです。

 会ったのは訪朝2日目です。「今回は公式行事が多いから、もう会えないでしょう」と言ってました。でも、軍事パレードの時にバッタリ会いました。又、最後の夜、巨大なマスゲームを見てたときもバッタリ会いました。

 キムイルソン広場に行って、見ました。軍事パレードの閲兵式も、成年男女の歓迎マスゲームも、全てこの広場です。10万人以上が入ります。最後の夜は、慶祝行事の最後で、10万人の青年男女が歌い、踊ります。外国人招待者席で見ていたら、「よど号」グループを見つけたので、そちらに移って見てました。彼らに説明を受けました。分からない事があると、現地の人に聞いてくれます。「おっ、朝鮮語が喋れるんですね」と僕が驚いたら、「よど号」グループ・リーダーの小西さんに言われました。「42年もいて、喋れなかったらただの馬鹿でしょう」。そうか、20代でハイジャックして、北朝鮮に来た。日本にいた2倍以上も、こっちにいるんだ。そりゃー、帰りたくもなるわけだ。

 広場では、歌やマスゲームが終わり、皆で踊り出す。その瞬間、招待者席にいた外国人たちが、柵を越えて、広場に雪崩れ込む。何だ、これはと思った。皆、広場に行って一緒に踊り出したんだ。「僕らも行きましょうよ」と「よど号」グループの若林さんが言う。大丈夫なのかな。勝手なことをして逮捕されないのかな、と言ったら、「大丈夫です。誰も阻止してません。それに世界中のマスコミが報道してるんです」と言う。そうだね、こんな機会はない。そう思って、広場に行き、僕も踊りましたよ。でも、踊りなんて全くやったことがないから、どうもぎこちない。でも、女の子がリードしてくれる。教えてくれる。僕は必死に覚えて、踊ろうとした。世界中のマスコミがカメラを向けている。ウーン、凄い体験だな、と思った。

 でも若林さんに言われた。「鈴木さんは柔道をやってるんでしょう。そのわりに、リズム感がないですね」。「いやー、組むとすぐに投げようとするから」と言った。でも、若林さんは、日本にいた時は「裸のラリーズ」にいた、れっきとしたミュージシャンだ。プロだ。そんな人と比べられたらたまらない。

 9日間なんて長いよな、と行く前は思ったが、アッという間に過ぎた。毎日が驚きの連続だったし、「歴史の現場」に立ち会っている感じがした。拉致問題、核の問題、遺骨収集、日本人妻の帰国などについても、向こうの人と話し合った。過去3回もそうだ。民間レベルで動き出したものもある。しかし、最後は政治だ。政治家がやってくれなくてはダメだ。いくら北朝鮮を非難しても、戦争は出来ない。だったら彼らを交渉の場に引っぱり出さなくてはならない。その為には政治家が現地に行き、交渉し、激論し、状況を打開してほしい。

 しかし、政府も、政治家も一切、やらない。「北に行ったら、利用されるだけだ」「反日分子とマスコミに叩かれ、選挙に落ちる」と皆、思っている。だから、日本という「安全圏」から叫んでいるだけだ。「北朝鮮を許さないぞ!」「あんな国は攻めてしまえ!」と。

 でも、これでは何もしてないのと同じだ。「いや、経済制裁し、北を追いつめている」と言う。だが、北朝鮮はギブアップしない。北朝鮮には資源があるし、他の国々が支援してくれる。経済的にも成長してる、という自信が見えた。そして制裁する日本に反撥するだけだ。

 向こうでは、あたたかい歓迎を受けた。しかし、羽田に帰ってきたら、冷たかった。関空に帰った人もそうだが、皆、荷物を徹底的に調べられ、みやげ物は全て没収された。日本は経済制裁している。その国に行って、買い物をし、お金を落とすのは「経済制裁」違反だ。日本の方針に従わない、反日分子だ。という意味らしい。おかしいだろう。政府は全く交渉しようとしないし、北に行く勇気もない。そのくせ、民間人が少しでも交渉の場を作ろうと訪朝すると、嫌がらせをする。我々の側からは、「裁判に訴えようか」と言っている。政府は、自分たちの無策を棚に上げて、一般人の小さなみやげ物まで取り上げる。

 「鈴木さんも没収されたもののリストを送ってください」と言われた。「ハイ」と言ったが、困った。僕だけ没収されてない。何か申し訳ない。いや、元法務大臣の南野知恵子さんも没収されてない。2人だけが「見逃された」。

 ちょうど空いてたカウンターだった。南野さんと2人だけだった。パスポートを見ると、向こうでは、いろんなデータが出る。僕も出る。見つけながらも、通してくれた。僕に対しては係官は正直に言っていた。「経済制裁してるんだから、どんな小さなみやげ物でも取り上げろ、と上からは厳しく言われてます。100円のみやげ物も取り上げてます。でも、僕はそれには反対なんです。ただの嫌がらせです。拉致問題解決には全く役立ちません。おかしいですよ」と堂々と言う。「僕にそんなこと言っていいのかよ」と思った。でも、僕だから言ったのかもしれない。カバンの中は調べたし、北朝鮮で買ったみやげは沢山ある。でも、それを見ながらも、そのまま通してくれた。勇気のある人もいるんだ、と思った。

 ダメだな、日本は。政治家がいない。そう痛感した。北朝鮮は、独裁的な国家だ。いわゆる民主主義もないだろう。だが、若いリーダーに拍手し、期待している。それを批判することはやさしい。「じゃ、日本はどうなんだ。政治があるのか? 政治家はいるのか?」と問われた気がした。「おみやげ没収」なんかやってる時じゃないだろう、と思った。

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鈴木さんの貴重な北朝鮮レポート、いかがでしたか?
北朝鮮という国に「おかしい」点があるとしても、
日本からただ批判しているだけでは何にもならない。
それよりは、まずは相手を交渉の場に引っぱり出すこと。
鈴木さんの指摘は、それは単なる人道主義ではなく、
拉致や核の問題を解決に導くための、
極めて現実的な手段でもあると思います。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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