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2012-11-14up

鈴木邦男の愛国問答

第112回

60年後の<謝罪>

 「そうだ、今日のテーマは"愛国心"だから、これだけは言っておかなくては」と、北村肇さん(『週刊金曜日』発行人)が付け加えた。「『マガジン9』で、鈴木さんが"愛国無罪"について書いています。これは面白かった。ぜひ読んで下さい!」と力説した。「『マガジン9』って何ですか?」と会場から質問する人もいて、北村さんは丁寧に説明していた。これで、マガ9の読者も秋田でグンと増える。次は秋田で、「マガ9学校」を開けるだろう。

 そうなんですよ。秋田で北村さんとトークをしてきた。11月11日(日)、午後5時半から。秋田市土崎港ベイパラダイス2階・ドリームタイムというお洒落な会場でした。市会議員の倉田芳浩さんが主催するイベントだ。テーマは、「言いたいことは山ほどある、2012=愛国について」。北村さんと僕が30分ずつ話し、そのあと二人でトーク。そして質疑応答だ。主催者からは、「領土問題、憲法、教育、戦後補償、ネット右翼、日の丸・君が代、愛国心について話して下さい」と言われた。でも二人の話は、どうしても「愛国心」が中心になる。
 北村さんは学生時代は左翼的だったから、愛国心なんて考えないし、真剣に向き合って来なかったという。「その点、鈴木さんは"愛国無罪"で暴れてたんでしょう。その話が面白かった」と言う。中国の反日デモもそうだが、「愛国」の為なら全てが許される。何でも出来ると思ってしまう。暴力的な右翼学生の時代、その後の過激な右翼活動をやった時代。「愛国無罪」の基に僕は闘い、暴れていた。
 この国の為に闘う。この国を愛し、この国の為なら死んでもいい。そう思っていた。そんな自分が崇高で、立派で、美しいと、自己陶酔していたのかもしれない。「愛」は人間の中で最も尊いものだ。無償の行為だし。これがあるから人間だとも言える。「愛」は全てが美しい。国への愛、自然への愛、人間への愛…と。
 「それで鈴木さんは、逃げた女性を奪い返すんですよね」と北村さん。「当然でしょう。島だって奪われたら、奪い返すでしょう」と私。「逃げた女は別の男と同棲していた。そこを襲って、男を殴り、女性を連れ去ったんですよね」「だって、それが愛でしょう。下らない男に女性は騙されてるんだから。僕の愛は純粋だし、正しい。だから取り戻しただけです」「でも、相手の男の愛の方が本物で、純粋かもしれませんね」。そんなことはない! と反駁した。でも今考えると、そうかもしれない。昔は、そんなことを全く考えなかった。愛国心も恋愛も、全て、自分本位で考えていた。それが本当の愛だと思い、それを貫くためならば、何でも許されると思ったのだ。
 「愛国心があるから戦争が起こるんだ」と、学生時代、全共闘に言われた。自分の国だけが正しいと思い、誤りを認めず、他国の人間は全て排除する。だから戦争が起こるという。馬鹿な! と思い、論争になり、殴り合いになった。でも今思うと、「愛国心」という言葉には、そう思わせ、暴走させる危険な側面もある。40年間の右翼人生の中で、そのことに気がついた。「"愛国無罪"で日本は戦争をした。その反省や謝罪・補償も完全に終わったとは言えない」と北村さんは言う。その点については、次の機会に北村さんに教えてもらい、ゆっくり話をしたいと思った。
 面子がつぶれるとか、いや相手の方も悪いのに…とか、ゴタゴタ言わず、国家もキチンと謝ったらいい。個人だって、謝れるんだから。そう言った途端に、「そうだ。ここに来る前にも、僕は過去の犯行を反省し、当人に謝罪してきたんだ」と思い出した。
 この日、僕は昼に秋田市に着いた。かなり早く来た。実は、小学校の同級生と会ってたからだ。僕は、親父の仕事(税務署)の都合で、2年ほどで東北地方を転々とした。秋田市には小学校の2年、3年の2年間いた。保戸野小学校だった。その時の同級生に会ったのだ。60年ぶりだ。前世の記憶のようだ。60年間、秋田の同級生とは一度も会ってない。ただ、セトモノ屋の同級生がいたな、と思い出し、地元の新聞社の人に調べてもらった。昔、東京にいた時から知ってる記者で、僕のおぼろげな記憶から、調査し、探し出してくれた。そして、この日、セトモノ屋の敬三君と、同じクラスの勝君、ミチ子ちゃんの3人と再会したのだ。
 一緒にお昼を食べ、小学校を訪ね、僕の家のあったところを訪ねた。懐かしかった。ただ、建物は皆、建て替えられている。家の近くの一本松だけがそのままだった。「奇跡の一本松」だ。会った3人だが、僕のことは余り覚えてない。今なにをやってるかも知らないようだ。ただ、「弱々しい、なさけない子供だった」と言う。「だって、遠足の時、姉さんが付いてきてた」と言う。馬鹿な! と思ったら、「証拠」を見せつけられた。60年前の遠足の写真だ。確かに僕がいる。ジャガイモみたいな顔をして、ニコニコしている。そして姉もいる。僕より12才上だから、この時、20才位だろう。母親がわりに、たよりない弟に付いてきたのだろう。なさけない子供だ、僕は。
 「勝君、敬三君、ミチ子ちゃんの3人に連絡が取れたので秋田駅に迎えに行きます」と、前に聞いていた。ミチ子ちゃんも来るのか。嬉しい。でも不安だ。あの事を糾弾されるかもしれない。いや、ここはキチンと謝罪すべきだ。そして戦後補償すべきだ(これはないか)。ともかく、覚悟を決めた。あの事は、60年間、ずっと心の中にひっかかっていた。8才の少女にあんなひどい事をしたのだ。どんなに傷ついたか。謝って済む事じゃない。
 でも、なかなか言い出せない。小学校を訪ね、僕の家があったところを訪ね、そして、奇跡の一本松を訪ね。講演会の時間が迫ってくる。別れの時間が近づいてくる。焦った。
 「ミチ子ちゃんが給食当番だった時なんだけど」と、思い切って話し出した。白いエプロンをしていた。とっても可愛い子だった。僕たち2人はとても仲がよかった。あれが初恋だったのかもしれない。その日、たまたま廊下にいたら、エプロン姿のミチ子ちゃんが僕を見つけ、「クニオ君!」と叫んで、駆けて来た。傍の男どもがひやかした。「オメ、好ぎなんだべ。抱ぎしめてやれよ!」「んだ、んだ」…と。まさか、そんなことは出来ない。小学3年生だ。それで、照れかくしに、サッと足を出した。全力で走ってきたミチ子ちゃんは、つまずいて倒れ、ワーッと泣き出した。アッ、大変なことをしちゃった、と思ったが、かけよって抱きかかえることも出来ず、謝ることも出来ず。ただ、オロオロし、その場から逃げだした。何とも卑怯な男だ。こんな<犯罪>をおかしながら、現場から逃げ出したんだ。
 照れて、好きなのにちょっとイタズラするのだったら分かる。気を引こうとしてるのだ。でも、こいつ(僕だ)のやったことは、ひどい。許されない。謝る<勇気>がなかったのだ。戦後日本と同じだ。でも、贖罪意識はずっと持っていた。あの事件から60年だ。思い切って告白し、謝罪した。「あの時は、本当にすみませんでした。卑怯な男でした。殴るなり、殺すなり、なんとでもして下さい」と。足を踏んだ人は忘れても、足を踏まれた人は生涯忘れない。クニオ君を慕って、喜んで、全力で駆けてきたのに、そのクニオ君に足をかけられ、転ばされるとは…。思ってもみない仕打ちだ。蛮行だ。犯罪だ。どんなに嘆き、心が傷ついたことだろう。そう思ったから、真摯に謝った。
 そのあと、5時半から、北村さんとのトーク会場に行ったのだ。<大仕事>を終えてから、行ったのだ。60年前の犯罪を告白し、謝罪をした。だから、<愛国について>も、熱が入ったトークになった。終わってからは、打ち上げで、キリタンポも頂いた。おいしかった。
 というわけで、秋田の報告でした。次はぜひ、「マガ9学校in秋田」をやりましょう。オシマイ。

 えっ? ミチ子ちゃんの反応ですか。60年前の犯罪を告白され、謝罪されて、どうしたかですか。勿論、涙、涙ですよ。「クニオ君、よく告白してくれたわね。あなたも苦しかったでしょう! ずーっと思い悩んできたんでしょう。かわいそうに」と言って、手を取り合い、2人は号泣。そして、ヒシと抱き合い…。
 となるはずだった。少なくとも、手をにぎりあって、「もういいのよ、許してあげる」と言ってくれるのかと思っていた。ところが、ところが。「そんなことあったの?」とミチ子ちゃん。全く覚えてないのだ。じゃ、夢なのか。でも給食当番で白いエプロンを着ていたことは覚えていたし…。ウーン、ますます、謎が深まった秋田行きだった。

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<罪>を告白して、謝罪して、心も晴れ晴れと軽くなり…と思いきや、の結末ですが、
ひとまず鈴木さんの60年を経た<謝罪>は無事に済んだよう。
一方、国家の<謝罪>のほうは、まだまだすっきり、とは行きません。
少なくとも、いくら謝罪の言葉を並べたところで、
それを打ち消す言動が続く限り、真摯に響かないのは当然なのでは?

そして鈴木さん、12月もまた東北へ。
12/1は新潟で、12/4は山形でイベントに出演するそうです。
詳しくは鈴木さんのブログで!

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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