マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ鈴木邦男の愛国問答:バックナンバーへ

2013-01-23up

鈴木邦男の愛国問答

第117回

愚安亭遊佐「ひとり芝居」に体が震えた

 「僕は三島由紀夫が好きで、三島の小説は全部読んでますよ」と言う。ビックリした。「ホントですか」と思わず聞き返した。芝居をやってる人だから、三島になんか興味はないだろう、と勝手に思っていたのだ。学生時代は左翼の運動をやり、その中で、身体を使った表現・抗議運動に目覚め、芝居の世界に入る。今、芝居の世界で活躍してる人は、そういう人が多い。と思っていたのだ。それに、「中央大学に入って学生運動をやりました。赤いヘルメットを被って闘ってましたよ」と言う。やっぱり…。芝居も、脱原発を訴える芝居だ。見に来る人だって市民運動をやってる人や左翼的な人が多いのだろう。だから、この芝居をやる人だって、そうだろうと思っていた。申し訳ありませんでした。僕の偏見でした。僕が無知でした。

 無理矢理、打ち上げに押しかけて、よかったと思いました。芝居の後、誰も誘ってくれなかったけど、勝手について来たのです。あまりに迫力のある芝居で、体が震えました。この日本を、我々の生活を、「このままでいいのか」と問いかける芝居でした。今の日本に対する怒りがある。憂いがある。この大地と一体になった、いわば<宗教的>な情念さえ感じました。1月19日、愚安亭遊佐さんのひとり芝居『こころに海をもつ男』を見て、衝撃を受けたのです。この激情は、この迫力はどこから来るのだろう、と思って、勝手に打ち上げについてきたのです。主催者の人たちを尾行して…。

 そしたら向かいに愚安亭さんがいる。「初めまして、『マガジン9』の鈴木です」と自己紹介したら、「僕は鈴木さんの本を随分と読んでるんですよ」と言う。そして、三島の小説は全部読んでるという。驚いた。嬉しくって、ずっと話し込んでしまった。

 「そうだ。先週も僕はここに来たんですよ」と言った。1月10日(木)、ここ「北とぴあ」に来たのだ。芝居ではない。<古今独歩 出口王仁三郎とその一門の作品展>を見に来たのだ。大本教の出口王仁三郎の書、絵、陶器などが展示されている。「至誠」と書かれた雄渾な書には感動した。「神」も「光」もいい。出口なおの「お筆先」も初めて見た。

 「どうして大本教の展示をここでやったんでしょうね」と言う人もいる。大本教は国家転覆を企てたとして国家によって徹底的に弾圧された。神殿はダイナマイトで爆破され、王仁三郎らは逮捕された。当時は「不敬」「危険思想」扱いされた。だが、冤罪だった。今はNHKでも、ついこの前、放映されていた。「北とぴあ」は北区の建物なのだろう。「北(区)のユートピア」を目指すのだろう。だから、「日本のユートピア」を目指した大本教の展示もやるんだ。そう言ったら、「そりゃ面白い」と愚安亭さんも手を叩いて喜んでいた。「僕も大本教は好きなんですよ」と言う。

 えっ、三島だけでなく大本教も好きなんですか。僕は、高校、大学と「生長の家」の運動をやった。「生長の家」は宗教団体だが、当時は非常に愛国的な宗教だった。だから、その延長戦上で右翼運動に入った。

 「生長の家」の初代総裁は谷口雅春先生だ。元は大本教にいた。だから、大本教に対しても、僕らの先祖、ルーツのような親しみを感じる。大本教をモデルにした高橋和巳の『邪宗門』は何度も読んだ。国家の弾圧と闘い死んでゆく主人公に自分を重ねて読んでいた。「自分たちもいつかこういう闘いをして死ぬのか」と漠然と考えた。「今日の芝居を見て、底流のところに宗教的なものを感じました」と言ったら、「僕は、いろんな宗教に誘われて、のぞいて見たんですよ」と言う。意外な話が、どんどん出てくる。

 大学時代、下宿した家の大家が、ある宗教団体の熱心な信者で、執拗に勧誘された。たまりかねて、他の下宿に移ったら、そこは又、別の宗教をやっていて毎日勧誘される。他にも宗教体験はあるという。又、芝居の中でも恐山が出てくるし、子供の頃から宗教的風土になじんでいたのだろう。

 僕は学生時代は「生長の家学生道場」にいて、毎朝4時50分に起床してお祈りしていた。高校はミッションスクールだ。宗教に、どっぷり浸かった青春時代だ。高校で事件を起こし、卒業が半年のびた。1浪になった。後半の半年は上京して、早稲田予備校に通った。下宿を探してたら、人のよさそうなおばさんに声をかけられ、「それなら家に来なさいよ」と言われて、そこに下宿した。ところが宗教をやっていて、毎日、誘われた。愚安亭さんとは、偶然、似たような体験をしたんだ。

 酒を飲んでいるうち、ハッと気がついた。これは偶然じゃない。宗教活動を熱心にやる人は、意図的に下宿屋をやっていたんだ。学生は、住んだらすぐには逃げられない。ジワジワと攻めてゆく。それに、駅前の不動産屋の傍を歩いて<獲物>を狙っている。地方から来た純朴そうな学生に声をかける。「学生さん? どこから来たの。まあ、私も宮城県出身なのよ。ところで下宿決まった?」と。僕も愚安亭さんも、それに引っかかったんだ。同じ<獲物>だったんだ。

 左右の違いはあるけど、学生運動をやった。宗教体験もある。三島、大本教も好きだ。それに同じ8月生まれだ。年だって、ほとんど同じだ。「じゃ、ぜひマガ9学校で話しましょうよ」と言った。面白い話が聞けると思う。

 そうだ。「三島好き」に関しては僕より徹底している。三島の小説は全部読んだというが、全て、初版本で読んだという。凄い。僕のまわりにそんな人はいない。僕なんて初版本は一冊も持ってない。『決定版 三島由紀夫全集』(新潮社)だって、一冊ずつ、中野図書館で借りて読んだ。「すごい財産ですよ。今度見せて下さい」と言った。でも、芝居をやっていて金がなくなって、高円寺の古本屋に売ったという。泣きの涙で。ところが、その一週間後に三島事件だ。そのあと、古本屋に行ってみたら、売った本が3倍になってたという。今ならもっと高い。「ひと財産」を失ったんだ。それも芝居になるだろう。

 芝居の中で、漁業権を売った漁師が叫ぶ。「海も売った。土地も売った。誰か、空を買いに来てくれねえか…」。全てをカネにかえて、人間は堕ちてゆく。愚安亭さんは言っている。

 「六ヶ所村で起きたことは、日本のどこにでも当てはまる。原発だけでなく、空港建設、ダム建設、水俣病などもそう。芝居としての普遍性があるんだよ」

 そうです。僕らの生き方、仕事、恋愛、結婚、離婚、子育てなどについても言えます。その「普遍性」については、愚安亭さんと、いつか「マガ9学校」でじっくり話しができたらと思いますが…。マガ9のみなさん、いかがでしょうか?

←前へ次へ→

終演後、「とにかく素晴らしかった」との言葉が、
あちこちで飛び交っていた愚安亭遊佐さんのひとり芝居。
鈴木さんも、その魅力のとりこになった1人だったようです。
鈴木さんと愚安亭さん、なんだか意外な顔合わせですが、
打ち上げでは話すことが尽きない様子で話しこまれていましたよ。

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

「鈴木邦男の愛国問答」
最新10title

バックナンバー一覧へ→

鈴木邦男さん登場コンテンツ
【マガ9対談】
鈴木邦男×中島岳志
【この人に聞きたい】
鈴木邦男さんに聞いた