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2013-07-10up

鈴木邦男の愛国問答

第129回

今でも、改憲派を自認しているのに…。

 普通だったら、「激突!」と、タイトルに付くところだろう。だって改憲派の代表的存在である小林節さん(慶応大学教授)と護憲派の代表的存在である小森陽一さん(9条の会事務局長。東大教授)が対談しているんだ。「激突」であり、「対決」であり、「白熱の討論」になるはずだ。

 ところが、そうはなっていない。月刊『創』(8月号)に載ってるが、表紙には「自民党改憲案の杜撰」と出ている。改憲派、護憲派共に自民改憲案に反対なのだ。この席には僕も出ている。鼎談だ。僕も改憲派だから、「小林節・鈴木邦男」VS「小森陽一」の激突になるはずだ。いや、数年前なら、そうなった。ところが、そうはなっていない。

 〈「護憲派」「改憲派」の枠組みが崩れた〉

 と、『創』の見出しにはある。それほど自民党案がひどいということだ。そして、改憲派、護憲派も内情がかなり様変わりしてきた。そんな印象を持った。12ページの鼎談で、本文のタイトルはこうだ。

 〈96条改定案はひどすぎる。
  自民党改憲案の中身は論外だ〉

 自民党は改憲しやすくするためにまず96条を改定してハードルを下げるという。これには、改憲派からも批判の声があがっている。「ここでは一致するでしょうから、ここから始めて、憲法論議をしましょう。あとは改憲・護憲の対決になるでしょうから」と司会の篠田博之さん(『創』編集長)は言う。小林節さんは「96条改定は“裏口入学”だ」と厳しく糾弾。朝日新聞などに紹介されていた。又、改憲派・護憲派の「垣根」を越えて「96条の会」が出来、6月14日に上智大学で「96条の会」シンポジウムが行われた。定員300人の会場に1200人が押しかける盛況だった。入場できない人のために別の教室でもモニターで視聴できるようにしたが、次々と入場者が来るので、結局第9会場まで増やしたという。改憲派・護憲派を超えて「自民改憲案」に危機感を持っているのだ。

 小林節さんはもともとの改憲派で、自民党や読売新聞からは呼ばれて、改憲案作りにアドバイスしている。今、問題になってるのは自民党の改憲案ばかりだが、最近、産経新聞も改憲案を出した。僕らから見ると皆、同じように見えるが、どこが違うのだろう。小林さんは、「読売の案はよかった。自民と産経は話にならない」と言う

 〈読売は1年間、学者を招いて勉強会を開き、その内容を報道し、社内の政治部や論説などのメンバーで憲法起草委員会を設置して勉強しました。私も講演して、発表前に朱筆も入れています。だから読売試案は当時の私の案に似ているのです〉

 しかし、まともだから論議されず、「叩き台」にもならないのか。又、読売もそういう意欲を失ったのか。今は、自民の出した改憲案だけが注目され、たたき台になっている。それに、分からないのは産経だ。自民を応援してるんだから、自民案だけでいいはずなのに、なぜ、独自の改憲案を作ったのか。それも右派の憲法学者がかなり入っている。「読売への対抗意識もあるのでしょう」と前置きし、小林さんはこう言う。

 〈産経は一応憲法らしい作りですが、気持ち悪い。「国民の憲法」との謳い文句とは逆に、中身は「権力者がやりやすい憲法」で、国民にとっては敵対する憲法です。憲法は権力者を縛るものであるべきなのに、産経試案では「国と国民は協力し合わなければならない」となっている。憲法や人権で権力を縛るのは古いと言ってますが、無教養の極みですよ〉

 と、ズバリと斬って捨てる。自民の改憲案については「論外だ」と言う。むしろ、小森さんよりも激しい。大学者二人を前にして、僕は、ほとんど喋れなかったが、小林さんには自民案、産経案、読売案の違いを詳しく教えてもらった。又、小森さんには、自衛隊の問題を聞いた。

 護憲というと、まず「9条を守る」。そうすると自衛隊は9条違反だから解散しろ。と言うのかと思っていた。昔は、そういう人が多かったと思う。あるいは、自衛隊を改組して、「災害救助隊」にしろ。そういう人が多いと思った。

 ところが、それは違うと小森さんは言う。「(自衛隊が)違憲だと主張する人も、自衛隊が存在してもいいという人も一緒にやるのが“9条の会”の特徴です」と言う。どうも、認めてる人の方が圧倒的に多いようだ。「自衛隊は憲法違反というのは、ある時期までの日本社会党と、共産党の主張です」とも言う。

 東日本大震災時を見ても、「自衛隊が日本にいてくれてよかった」と多くの国民は思っている。「(厳密に言ったら)9条違反」だが、そういって否定することもできない。それだけ大きな存在になったのだ。といって、9条を改正して、「自衛隊だけを認める」とも言えない。9条と自衛隊は矛盾した存在ではあるが、ある意味で歯止めをかけている。そう思っているのかもしれない。だったら、自民党の「解釈改憲」と同じことではないのか。

 自民党は、「9条も、自衛権までは否定しないだろう。自衛隊はそのための存在だ」と言って来た。3分の2を取れないから改憲は無理としても、9条の「解釈」をかえて、自衛隊を持てるようにした。今度は、同じことを「護憲派」が言い出したのだ。

 だったら、9条に「自衛隊をおく」と加えたらいい。公明党の言う「加憲」だ。ところが、9条を少しでもいじったら、一挙に、全面的に変えられてしまう。それを恐れているのだろう。いや、「同じテーブル」に着いたら、負けると思っているのか。だったら、「これだけは変えない」という「縛り」を作り、その上で改憲論議をしたらいい。たとえば、海外派兵しない。核は持たない。徴兵制はしない。…の3点でもいい。そういう「歯止め」がないと、「国防軍」はどこまでエスカレートするか分からない。

 「海外派兵しない。人は殺さない」自衛隊に対し、自衛隊も誇りを持ってると思う。自民や、保守の人間だけが「人を殺してない」ことにコンプレックスを持っている。そんなものは持つ必要はない。むしろ外国からは、こうした自衛隊に羨望の念を持っているだろう。「軍隊」の進化した形として見ているだろう。

 『創』の座談会のときはそんなことまでは言えなかったので、6月30日の「マガ9学校」のときに言った。伊藤真さん、春香クリスティーンさんを前にして言った。

 矛盾的な存在だが、今は自衛隊を認める。そして、世界に対しても、このことをアピールする。「平和憲法」を押し付けたアメリカは、まず、自らも平和憲法を持ってほしい。又、世界も、まず軍隊を自衛隊化しよう。さらに、日本の自衛隊は進化する。それを世界に示す。今は。自衛隊を持たざるを得ないが、将来は、「保安隊」に戻す。さらにその先は「警察予備隊」に戻す。そして究極は「警察」だけにする。そのくらいの理想や夢を打ち出してもいい。「マガ9学校」でそう言ったら、伊藤真さんに言われた。「鈴木さんは、護憲派の最先端をいってますね」と。これには驚いた。今でも改憲派だと思っていたし、自民案はあまりにひどいので、それには反対してるだけなのに…。でも、憲法の自由・平等・平和の理念は守るべきだと思う。何よりも、自由が抑圧されるのはたまらない。そう思っているだけなのに。今度又、「マガ9学校」で、じっくり話してみたいです。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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