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森永卓郎の戦争と平和講座
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選挙後、圧倒的な力を持った政権与党は、マニフェストに掲げなかった
大幅増税を行う準備を着々とすすめています。
にもかかわらず、小泉内閣は一層の支持率拡大を示しています。なぜでしょう?

第8回“集団的熱狂はなぜ起こるのか”
 9月11日の総選挙は、後々、日本を決定的に変えた一日として記録されることになるのかもしれない。 自由民主党だけで296議席、公明党も合わせると、与党が議席の3分の2以上を占めるという選挙結果は、圧倒的な力を政権に付与してしまった。
 解散のきっかけとなった郵政民営化法案は、選挙後、ほとんど内容を変えずに再び特別国会に提出された。だが、衆議院では、郵政民営化法案に反対し、無所属で復活当選した元自民党議員13人のうち、野呂田芳成元農水相が本会議を欠席し、平沼赳夫前経済産業相が反対票を投じたほかは、全員が賛成にまわった。また、参議院でも、通常国会では17票差で否決された郵政民営化法案が、34票の大差での可決となった。通常国会で郵政民営化法案に反対した自民党議員22人のうち、19人が賛成票を投じたからだ。2人が離党、亀井郁夫議員が採決前に退場した他は、すべての造反議員が賛成に回ったのだ。
 ほとんど同じ法案を審議して、結論が180度変わったのは、強い基盤を築いた自民党執行部に逆らえば、選挙のときに公認が得られないという現実的な恐怖もあったが、郵政法案に賛成しにくい時代の空気が支配したことも大きかったのだろう。
「改革を止めるな」と言うキャッチフレーズを掲げ、「殺されたっていいんだ」と見得を切った小泉劇場に、国民が酔いつづけたからだ。
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 この空気は、相当強い力を持っている。例えば、選挙の2日後に谷垣財務大臣は、定率減税を全廃する意向を表明した。さらに、その後、政府税調の石弘光会長の口からは、「消費税率は10%から15%」という具体的な税率さえ飛び出してきたのだ。
 消費税の増税は、導入時にも、3%から5%への税率引き上げの時にも、政権を転覆させてしまったほど、国民には不人気の政策だ。しかも、選挙期間中に自民党は「サラリーマンねらい打ちの増税はしない」と断言していたし、マニフェストにも消費税の増税は記されていなかった。言ってみれば、国民をだまし討ちにするような増税が行われようとしているのに、11月2日の日本経済新聞に掲載された世論調査では、消費税率引き上げについて、「年金の財源などに限定する形ならばやむを得ない」29%、「現在の財政事情を考えればやむを得ない」19%と、合計48%の国民が条件付きで容認の姿勢を見せているのだ。
 いま日本には、「改革を口にしない者は非国民だ」という空気が蔓延している。だから選挙後の内閣改造を受けて各紙が行った世論調査は、小泉内閣の一層の支持拡大を示した。内閣支持率は、共同通信の調査で5.6%ポイント増の60.1%、日本経済新聞調査で9%ポイント増の56%、朝日新聞調査で5%ポイント増の55%となっている。
 こうした空気が安全保障問題に波及しないはずがない。例えば、選挙後に行われた民主党の代表選挙では、前原誠司氏が新代表に選ばれた。ご本人でさえ想像していなかったという。タカ派の前原氏が代表になることなどあり得ないと思われていたからだ。それがひっくり返るのが空気のなせる業としか考えられない。
 そして、前原民主党は、与党とともに憲法改正へと踏み出した。衆議院は9月22日の本会議で、憲法改正手続きを定めた国民投票法案を審議する「憲法に関する調査特別委員会」の設置を与党だけでなく、民主党の賛成も得たうえで、賛成多数により可決した。
 さらに10月31日には、民主党憲法調査会が、憲法改正の方向性を示す「憲法提言」を党内了承したが、このなかで「制約された自衛権を明確にする」と記すとともに、自衛権のなかには集団的自衛権が含まれること、そしてそのなかでの武力の行使が容認されることを打ち出したのだ。
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 旧社会党を知っている人であれば、その流れを汲む民主党が「集団的自衛権の行使」を容認する時代が来るとは信じられないだろう。しかし、旧社会党系のハト派が封じ込められ、民主党は安全保障面でも「改革政党」に転じたのだ。
 さらに気になるのは、11月2日の新聞各紙の世論調査で、タカ派の安倍晋三氏が次の総理として、圧倒的な国民人気を集めたことだ。例えば共同通信の調査では、安倍氏を次期総理として期待する国民は51.9%と、第二位のハト派・福田康夫氏の9.7%を大きく引き離している。しかも、その福田氏は閣僚に任命されなかった。

 濱口雄幸首相の誕生から満州事変、日中戦争、太平洋戦争と続く挙国一致の空気は、結局太平洋戦争が終結して、300万人を超える人命と国富の4分の1を失う「焼け跡」になるまで、冷めることはなかった。このまま行くと、日本は同じ轍を踏んでしまうのではないだろうか。
前回のコラムもそうでしたが、歴史と照らし合わせながら、
時代の空気を鋭く見つめる森永さんの予感はよくあたります。
しかしそれは恐ろしいこと。
一人でも多くの人が、「熱狂」と「改革至上主義」の病から醒め、
森永さんの声に耳を傾けてもらうためにも、
このコラムを多くの人に読んでもらいたいと思います。
森永さん、ありがとうございました!
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