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森永卓郎の戦争と平和講座
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アメリカ軍に対する、日本の駐留経費負担の金額は、
他の国と比べても突出しています。これについて、
私たちはどう考えればいいのでしょうか?

第13回“「応分」の経費負担っていったい何だろう”
 4月23日に行われた日米防衛首脳会談で、沖縄に駐留する米軍海兵隊のグアム移転経費の59%、7100億円を日本が負担することで合意がなされました。占領軍が引き上げるのに、なぜ日本がその経費を負担しなければならないのか分かりませんが、アメリカ側の主張では、そもそも海兵隊のグアムへの移転は、沖縄の負担軽減という日本側の要請に基づいたものなのだから、日本が応分の負担をするのは当然なのだそうです。
 ただ、日本の負担はそれだけでは終わりそうにありません。日米防衛首脳会談の2日後の記者会見で、ローレス米国防副次官が、このグアム移転経費を含めた在日米軍再編にかかる日本側の負担は、少なくとも3兆円にのぼるとの見通しを明らかにしました。
3兆円という数字については、その後ローレス副長官自身が積算根拠のないことを認めていますし、額賀防衛庁長官は、5月14日のテレビ番組で、事務方が「いかに沖縄の負担が大きいのかということをアメリカに示すために、交渉術のなかである程度の金額を示したのではないか」と述べて、日本側としても、そんな巨額の負担を示したことはないと主張しました。
 ただ、米軍再編は、普天間飛行場の海兵隊をグアムに移すだけではないのですから、今後かなり大きな負担が日本に求められるようになることは間違いないでしょう。
 しかし、日本は海兵隊の撤退経費の6割もの負担をしないと、「応分の負担」をしていないことになるのでしょうか。


 そもそも日本政府は、在日米軍のために「思いやり予算」を含めて年間6000億円以上の負担をしています。日本を米軍に守ってもらっているのだから、ある程度の負担は仕方がないという意見もあります。しかし、日本の負担額を他の同盟国と比べると、日本の負担は突出しているのです。
 アメリカ国防総省の「共同防衛に対する貢献」(04年版)というレポートによると、日本の駐留経費負担は、44億1334万ドルで、ドイツの2・8倍、韓国の5・2倍、イタリアの12倍になっています。日本の駐留経費負担の金額は、日本を除く26の同盟国全体よりも大きいのです。  

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 日本に駐留する米兵の数が多いから負担が大きいのではありません。駐留米兵1人当たりの負担でみても、日本は10万6千ドルで、ドイツの4.9倍、韓国の4.9倍、イタリアの3・8倍になっています。
 さらに、米軍駐留経費の何%を同盟国が負担しているのかでみると、日本は75%、ドイツは33%、韓国は40%、イタリアは41%と、やはり日本は突出しているのです。(以上のデータは「しんぶん赤旗」2006年2月21日より)。
 アメリカが日本側の要請に基づく海兵隊のグアム移転は別枠で負担すべきだと言うのであれば、普段日本が支払っている米軍駐留経費も、他の同盟国と同じ水準にすべきではないでしょうか。

 私は、今回の米軍再編が日本の要請に基づくものだというアメリカの主張自体が、おかしいのではないかと考えています。例えば、グアムに移転する海兵隊は、陸空海の3軍に続く、アメリカの第4の軍隊で、上陸作戦などを主な任務としています。実際、沖縄の海兵隊は、さかんにイラクに派遣されてきました。そもそも、沖縄や日本を守るための兵隊ではないのです。
 アメリカは、中東への兵力をグアムに集中させて、効率的な運用をしようと考えています。つまり、米軍の中東戦略のために沖縄の海兵隊を移動するのですから、これは明らかにアメリカの都合なのです。

 それでは、中東戦略をグアムに集中させた後、中国や北朝鮮に対する戦略はどうするのかと言えば、その軍事拠点として考えられているのが日本なのです。
 在日米軍再編の最終報告によると、府中市にある航空総隊司令部は2010年度に横田基地に移転され、米軍第5空軍司令部との「共同統合運用調整所」が新設されることになっています。そのなかで自衛隊と米軍のレーダー情報は共有化されます。統合運用と言えば聞こえはよいのですが、現実には自衛隊が、米軍の対中、対北朝鮮戦略の下に置かれてしまうリスクはきわめて高いと言えるでしょう。

 日本を守るために作られた自衛隊が、世界で最も戦争好きで、最も危険な国の軍隊の指揮下に入ってしまう可能性が高いのです。そうなったら、日本の負担は6000億円などという規模では済みません。極論すれば、防衛費4兆8000億円をすべてアメリカに差し出してしまうことになるのです。
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さらに、自衛隊はミサイル防衛(MD)でも、米軍と情報を共有し、アメリカと共同で防衛網を築くことになっています。しかし、軍事の専門家に聞くと、例えば北朝鮮から日本にミサイルを撃たれたとしても、日本までは到達時間が短いために、MDで迎撃することは不可能で、アメリカ本土への攻撃を防ぐこと以外に、ミサイル防衛の効果はないと言います。
 結局、いま日本が行おうとしている応分の負担というのは、単に米軍の軍事費を、米国のために負担しているだけに過ぎなくなっているのではないでしょうか。それはお金をドブに捨てるということだけには止まりません。それは、世界の平和を脅かしているアメリカが仕掛ける戦争を支援することになるのです。
 日本は、平和憲法を持っているのですから、戦争のために人的協力も資金協力もしませんと、なぜはっきりと言えないのでしょうか。それを言う能力がないから、日本の為政者たちは、憲法改定を急いでいるのかもしれません。

日米が一緒になって軍事活動をするということ。
それは、「応分」の経費負担をするということです。
世界の平和を脅かしつづける米軍の巨額な軍事費を、
私たちの税金で負担していくということになるのです。
このままで本当にいいのでしょうか? 
森永さん、ありがとうございました。
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