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森永卓郎の戦争と平和講座
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北朝鮮ミサイル発射から2週間。
マスメディアは、こぞってこの問題を大きく取り上げてきました。
いっせいにむけられた北朝鮮への非難は、
ついに「先制攻撃」もやむなしといった言葉さえも、飛び出すことになりました。

第14回“先制攻撃という暴挙”
 国連安全保障理事会が7月15日に公式会合を開催し、北朝鮮に弾道ミサイル開発計画の全面停止を求める非難決議案を全会一致で採択しました。日米が当初提案した経済制裁や北朝鮮への武力行使を可能とする国連憲章7章への言及は、中国やロシアの反発を考慮して盛り込まれないことになりました。
 私は北朝鮮に限らず、すべての国のミサイル開発に反対です。ですから、この決議自体に文句を言うつもりはありません。ただ、7月5日に北朝鮮がミサイルを発射してからの日本のマスメディアや政府の対応には、大きな疑問を持っています。

 ミサイル発射実験自体は、世界中で行われています。それでは、なぜ北朝鮮のミサイル発射実験だけが国際的に非難されるのでしょうか。それは、北朝鮮が金正日総書記による独裁政権であり、暴発の危険が非常に高いからです。しかし、私の目には、北朝鮮よりもはるかに危険な国があるようにみえます。それは、アメリカとイスラエルです。
 イラク戦争のときに、イラクに大量破壊兵器が存在するのかどうか、もう少し時間をかけて査察を続けようと国際社会が慎重な対応を求めたのに、アメリカはそれを無視して、イラクを侵攻しました。ブッシュ大統領は、後にイラクに大量破壊兵器はなかったと過ちを認めましたが、それでもアメリカに制裁しようという話が日本の政府やマスコミからでたのを聞いたことがありません。
 一方、今回の北朝鮮ミサイル発射問題で、日本のマスコミが大きく採り上げなかった大きな問題があります。それがイスラエルによるレバノン空爆です。

 イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが7月12日にイスラエル兵2人を拉致したとして、イスラエル軍は即時に報復行動に入り、ヒズボラの拠点があるベイルート南郊の橋や幹線道路、発電所、さらにはベイルート国際空港まで空爆をしました。
 いくら逃げ道を塞いで、拉致された兵士を奪還するためとは言え、いきなり他国であるレバノンを空爆するのは、どう考えても正当化できることではありません。実際、7月15日にはイスラエル軍の攻撃でレバノン市民の死者が100人を超えているのです。

 こうした攻撃について国連のイゲランド事務次長(人道問題担当)は、7月14日に、イスラエル軍の空爆を「国際法違反であり、和解へ向けた努力に反する」と批判しています。ところがブッシュ大統領は、このイスラエル軍の行動を「自衛のための行動」と容認したのです。国際紛争の震源地は、いまやアメリカとイスラエルになったと言っても過言ではないでしょう。

 しかし、日本もアメリカやイスラエルのことを批判できないような状況になってきました。北朝鮮からのミサイル被害を避けるために、敵地への先制攻撃をすべきだという議論が政府与党内で、次々と出てきたのです。きっかけは、7月9日に額賀防衛庁長官が「国民を守るために限定的な能力を持つのは当然」と発言したことでした。翌日には安部官房長官が「国民と国家を守るために何をすべきかという観点から常に検討、研究は必要」と述べ、武部幹事長も同調しました。

 北朝鮮からミサイルが飛来したときに、いまの技術では巡航中に迎撃することはできません。あまりに時間が短いからです。日本に落下してくる段階でミサイルを迎撃することは不可能ではないようですが、日本上空で迎撃したら弾頭に装着された生物・化学兵器が拡散して、日本国民の被害を避けることができません。だから先に敵のミサイル基地を叩いてしまおうというのです。
 政府は、自衛のためやむを得ない場合には、憲法の範囲内で敵地攻撃は可能との解釈をとっています。昭和31年2月に鳩山一郎総理は、国会答弁で次のように言っています。
 「誘導弾などの攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる場合に限り、誘導弾などの基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」。

 私は、憲法が「国の交戦権は、これを認めない」と言っている以上、先制攻撃が認められるはずがないと思います。
 しかし、いまの日本は、そうした発言が平然と行われるほど、思考力を低下
させてしまっています。このまま行ったら、アメリカとイスラエルと日本が世界平和を乱す震源地になりかねないのです。

 北朝鮮を批判するだけでなく、我々はそのことに関心を払わなければならないのではないでしょうか。

日本国憲法および、憲法9条は、近隣諸国に侵略戦争をした、
大きな反省を踏まえて作られたものです。
しかし今、北朝鮮の挑発行動にのって、「専制攻撃も検討の余地」としてしまう、
わが国のリーダーたち。「このまま全面戦争」は、決して飛躍した話ではないと思います。
私たちは、過去の過ちについて、今こそ検証するべきときかもしれません。
森永先生、ありがとうございました。
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