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癒しの島・沖縄の深層

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おかどめ やすのり 1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。HP「ポスト・噂の真相」

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オカドメノート No.037

2009年は、未曾有の大不況下において、
日米両政権が、大チェンジする時代になるか?

 ひょんなことからこの沖縄からの連載報告を書くことになったが、これが年内最後 である。総括というほどでもないが、今回は年末に当たり区切りをつける意味で書い ておきたい。沖縄には「沖縄タイムス」と「琉球新報」という二つの地元紙がある。ラ イバル同士ということにもなるが、県内で二紙が報道やオピニオンを競うというのは 悪いことではない。沖縄では全国紙と違って、一面トップに地元ネタを持って来るケー スが多い。これは全国どこの地方紙でも事情は同じだろう。もし、沖縄で米軍基地絡 みの事件・事故でもあれば、連日のように一面トップから社会面まで使って詳細な記 事が出る。これこそが、米軍基地をかかえる沖縄の特殊事情である。

 最近では、キャンプ・ハンセンの米軍による実弾訓練の銃弾らしきものが一般住宅 の駐車場にあった車のナンバープレートに着弾していたというニュースがあった。被 害者はいなかったのに、大げさだという見方もあるかもしれない。しかし、それは沖 縄のキャンプ・ハンセンと隣接する金武町が置かれた危険な実情を知らない人たちの 見方だ。この金武町周辺では、こうした軍事訓練による着弾事故・事件はこれまで数 限りなく起きている。イラク戦争のために集中的に都市型ゲリラ対策の軍事訓練をやっ た時には、地元で大掛かりな抗議行動が展開されたこともある。

 こうした米軍基地がらみの事故や事件を報じる沖縄の新聞を初めて見た人は、けっ こう衝撃を受けるという。「内地」から地元の新聞社に就職した記者の中にも,紙面 のつくりを見て自由な表現というイメージを抱いて来たという人物も少なくない。逆 に、自民党や政府系の要人たちは、「沖縄の新聞は偏向している」という見方を示す。 その代表格が小池百合子元防衛大臣だろう。琉球新報社の講演に呼ばれた際、招聘元 の新聞を堂々と批判したこともあった。この小池発言に対して、地元紙の反論はほと んどゼロに近かった。当事者の琉球新報がチラと嫌味を書いたくらいのものだった。

 その時、筆者は小池元大臣に対して反論なり批判をキャンペーンを張るべきではな いかと思った。「沖縄のメディアは偏向しているかどうか」、東京のいわゆる有識者 といわれる人たちのコメントまで集めて徹底的に論争してみたらどうかと提案もした。 小池氏の沖縄に関する無知や無自覚さに対する批判という意味だけでなく、東京の有 識者たちの沖縄に対する認識度を知るにはいい機会になるではないかと考えたからだ。

 これは小池氏だけの問題ではない。日本の米軍基地の75パーセントを押し付けら れている当事者である沖縄の地元紙と、霞ヶ関や永田町と同じ目線に立って官報報道 を垂れ流す全国紙メディアとの間にも認識において大きなズレがある。沖縄にとって 基地にまつわる事故や事件は切実な日常的問題だが、全国紙にとってはまず日米軍事 同盟があり、そのための生贄として沖縄があるというのが偽らざるホンネだろう。日 米関係を維持するためには、沖縄には我慢してもらいたい、その代わり国家財政から の財政支援は惜しまないというアメとムチ戦略である。

 1972年の沖縄返還において米国との間に密約を交わした佐藤栄作元首相が、6 5年に米国のジョンソン大統領—マクナマラ国防長官に対して、「核実験を始めた中 国と戦争になった場合、米国に核による報復を要請した」という事実を、米国の公文 書だけではなく外務省も正式に認めたばかり。さらに佐藤栄作は、「核は(日本の) 陸上は認めていないが、洋上の核ならば発動可能」とも発言していた事実も報道され た。非核三原則なんて嘘っぱちなのに、こんな人物がその功績でノーベル平和賞を貰 うんだから、インチキ極まりない話だ。

 そろそろ結論にいこう。今、世界は未曽有の大不況に入っている。そんな中、来年 一月にはオバマが大統領に就任する。日本も、来年こそは自民党政権が下野して民主 党を中心とした野党政権が誕生するはずである。戦後一貫して日米両政府にいいよう に使われてきた沖縄の不幸は、沖縄の行く末を自民党と外務省や防衛省という霞ヶ関 官僚たちが沖縄県民の意向と関係なく独断で決めてきたことだ。日米地位協定はその シンボル的存在といえる。

 奇しくも日米両政権が大きくチェンジする時代を迎えるということは、やり方によっ ては日米関係を歴史的に再点検し、根本的に見直す千載一遇のチャンス到来というこ とである。もし、この機会を逃せば、沖縄の米軍基地問題は半永久的にこのままの状 態が50年、100年と続くだろう。沖縄の新聞の役割として、今こそ沖縄の立場と意見 をオバマ大統領や日本の新しい野党政権に直接的にアピールするくらいの気概、オピ ニオンリーダーぶりを発揮して欲しいものだ。霞ヶ関や沖縄県と関係なく、メディア としての社会的責務という立場からである。

 ここからは、「2009年がどんな世界になるのか、どんな世界を希望するのか」 といったテーマについて書こう。

 まず来年は、現代を生きる人たちにとっては経験したことのない未曽有の試練にさ らされる可能性が強い。日本経済をリードしてきたトヨタ、ソニー、キヤノンといっ た大手企業から中小企業まで経営事情を理由に非正規雇用、派遣、パートといった 人員の首切りを進めており、住むところもなくネット難民やホームレス化していく人々 もますます増えていくだろう。まず、何よりも不景気で仕事のない人たちが路頭に迷 い、街に溢れかえるというのは、世界恐慌と共通する社会現象である。戦争や戦後の 混乱期を経験した高齢者や預金や資産を蓄積している富裕層は、こうした厳しい時代 をそれなりに生き残る事はできるかもしれない。

 しかし、若年層を中心とした豊かな時代しか知らない人々にとっては、未体験ゾー ンへの突入である。仮にビンボー生活は耐えたとしても、世相的に気持ちの上ではす さんでいく。絶望や刹那の気分も社会に蔓延してくるだろうし、将来への不安から鬱 や狂気も必然的に生み出される。となれば、精神を病む人や自殺者も増える。そうし た精神状態が外に向かう、強盗・殺人といった凶悪犯罪も増えるに違いない。むろん、 貧しさゆえの窃盗や詐欺事件も横行するかもしれない。要は、極端な「階級・格差社 会の先進国」である米国の貧困層に蔓延する社会的病理が日本にもどんどん押し寄せ てくるということだ。

 来年一月には米国でオバマ政権が誕生し、日本でも麻生内閣、自民党政権が崩壊す る可能性が高い。ついでにこれまで自民党と二人三脚でやってきた霞ヶ関も一度解体 して、明治維新以来続いてきた官僚システムの革命的改革を断行するチャンスである。 米国追従一辺倒の戦後史、米国流の金融工学やグローバリズムに巻き込まれたあげく の閉塞状況から再びあたらしい価値基準を作り直すチャンスでもある。

 テレビ、新聞といった日本の大手メディアも来年は経営が厳しくなる。個人的には、 経営的に瀕したマスメディアがどんな報道を展開するのか興味ぶかい。しかし、こん な時代だからこそ、ホンモノが試される側面もあるし、人間として生き抜く全身体的 な知恵と行動が求められているのではないか。来年は確実に暗い時代になるだろうが、 生き抜くためには、「禍い転じて福となす」というポジティブな指向性もまた必要な 時代ということではないだろうか。

日米両国で予想される、政治的状況の大きな変化。
2009年は、それをどういい方向へ活かしていけるのか、
すべての人の「知恵と行動」が問われる年になりそうです。
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