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2011-1-12up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.092

政府与党幹部の訪沖は米国に対するアリバイ作りだ

 昨年から続く菅内閣の迷走は今年もより一層ドタバタぶりを発揮しそうな気配である。 通常国会前の内閣改造はほぼ間違いなく断行されるだろうが、最大の懸案は菅内閣を実質的に仕切っている仙谷官房長官の解任と横滑り人事の行方だ。同時に、検察審査会による強制起訴が迫っている小沢一郎氏への対応も焦点だろう。たとえ、この二つの懸案をクリアーしても、3月末には予算と予算関連法案の決議が待っている。野党の協力がなければ、菅内閣は完全に行き詰まり、内閣総辞職か解散しか選択肢はないだろう。これも、菅総理に政治力もリーダーシップもないことが招いた自業自得の結果というしかない。

 新年早々、岡田幹事長が2日間の予定で沖縄にやってきた。民主党沖縄県連との間で取り決めた沖縄協議会のためである。しかし、辺野古新基地建設は不可能という民主党沖縄県連と、日米合意=辺野古新基地建設を一貫して主張する岡田幹事長との断絶は埋めようもない。沖縄県知事選で仲井真知事が当選した後、菅総理、前原外相が相次いで沖縄を訪問している。岡田幹事長の後は馬淵国土交通大臣だ。いずれも表敬訪問もしくは米国に対するアリバイづくりでしかないというのが地元紙を含めた沖縄側の冷めた見方だ。菅内閣は沖縄側に完全に見透かされているのに、なぜ無駄足とも思える徒労を尽くすのだろうか。それは、米国に対して従属の盲目的な忠誠心を示すということに尽きるのではないか。もはや、菅―仙谷ラインは反小沢の怨念のあまり、その反目ともいうべき霞が関との二人三脚、米国追従一辺倒路線に大きく舵を切っていることからも容易に推察できることだ。

 3月に予定される菅―オバマ会談で、日米関係が良好であることを示すと同時に、普天間基地問題においても菅内閣は米国の意に沿うために最大限の努力を尽くしていることをアピールするためだろうと思われる。しかし、米国側にも民主党政権内では、辺野古基地建設はきわめて困難な状況にあるとの認識も少なくない。米国国務省や国防総省首脳の「辺野古基地がベストである」との言辞は立場上の戦略・戦術であり、タテマエにすぎないのではないか。何よりも、新基地受け入れ先の地元名護市の市長も市議会も反対であり、県知事も県外移設を主張して当選した。地元に歓迎されないところに基地はつくらないという米国のこれまでの言動からいえば、沖縄の県民意思を無視して強権力でゴリ押ししてまで新基地建設にこだわるとは思えない。

 昨年、沖縄を訪問した前原外相は、辺野古新基地が建設されない限り普天間基地はこのまま固定化されるとの前提で、普天間基地周辺の学校や病院に転居をすすめ、そのための費用は惜しまない旨の発言をして地元の顰蹙を買った。基地の移設ではなく、住民に立ち退けというのは本末転倒ではないか。かつて、ラムズフェルド国防長官(当時)が普天間基地を視察した際、「密集した市街地にあり、世界一危険な米軍基地」と発言したことがある。まさにその通りだろう。ラムズフェルド氏の〈一刻も早く辺野古へ代替基地をつくれ〉というメッセージが隠されていたとしても、普天間基地の危険性そのものについての認識は紛れもない事実だろう。

 今回の岡田外相の訪沖は、沖縄協議会の窓口である沖縄民主党県連だけでなく、遺骨収集のボランティア団体「ガマフヤー」の具志堅隆松氏、翁長雄志那覇市長、安里猛宜野湾市長、知念栄治県経営者協会会長、上原良幸副知事、NPO法人「珊瑚舎スコーレ」、連合沖縄幹部との懇親会などの予定がぎっしり組まれていた。堅物といわれる岡田幹事長にすれば、異例とも思える聞き役行脚だった。しかし、「珊瑚舎スコーレ」での意見交換においては、辺野古移設に回帰した外相時代の対応について聞かれ、「普天間の危険性除去とグアムへの8000人の海兵隊移転のためには、県外で受け入れるところもなく、日米合意以外の答えがなかった」という発言をしている。はっきりいって素人を相手にした対話集会である。筆者ならば、「なぜ、沖縄に海兵隊が必要なのか」「海兵隊に抑止力があると思っているのか」「県外への受け入れ先をどこまで本気で検討したのか、そのプロセスを公開すべき」という最低限の突っ込みをしただろう。さらにいえば、岡田氏は「最初から普天間基地の嘉手納統合案しかないと決めていたのではないか」、それは「外務官僚に完全洗脳された結果ではないのか」と畳み掛けてみたかった。だいたい、足下の民主党沖縄県連とも意見が対立しており、政党組織なのにそこも説得できない岡田幹事長に一体何ができるのかというそもそもの疑問がある。沖縄県知事選で、伊波洋一陣営を応援した民主党議員にはペナルティを科すという岡田幹事長の恫喝の真意も聞いてみたかった。

 どうせ、普天間基地の代替施設建設は当分の間は不可能なので、時間を稼ぎながら沖縄側の諦めを待つくらいしか手の打ちようがないのだろう。むろん、その前に現在の民主党執行部が自滅する可能性も高い。そんな民主党に翻弄される沖縄も、まさに悲劇の島ではないか。

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前政権時代から「次」を睨んで普天間問題ではダンマリを決め込み、
首相の座を射止めてからも前任者の言い分を繰り返すだけの菅首相。
先日、書店で7冊の本を買ったそうですが、
沖縄や日米安保に関する本は1冊もありませんでした。
米国の言い分だけでなく、もっと幅広い意見を見聞きしてほしいものです。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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