マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ癒しの島・沖縄の深層:バックナンバーへ

2011-1-26up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.093

いったい政府首脳は沖縄に何をしに来たのか?

 菅総理が内閣改造をして、総理本人、北沢防衛大臣、枝野官房長官(兼沖縄担当大臣)などが次々と沖縄にやってきた。いずれも仲井真知事に対しては表敬訪問でやってくるものの、カンジンの名護市の稲嶺進市長には全員とも会わずじまい。「辺野古の海にも陸地にも新基地はつくらせない」と断言している地元市長の稲嶺進氏に会う自信がないのだろう。しかし、沖縄県民のほとんどが普天間基地の県外移設を求めているのに、菅総理以下、「日米合意=辺野古新基地建設」を計画通りに進めると明言しつつ、「沖縄の基地負担軽減を図り、県民の理解を求めたい」とオウム返しのような切り口上を述べるだけだ。

 一体、どういうことなのか。地元が反対しているところに基地はつくらないというのが、米国のこれまでのスタンスではなかったのか。菅政権及び関係閣僚、防衛・外務官僚が、米国に対して「何が何でも辺野古に新基地をつくります」というメッセージを送っているために、米国政府もそれを信じて期待して待っているという図式に過ぎない。そう言っている日本側にとっても、確たる自信や見通しがあるわけではない。北沢防衛大臣が来沖の際、沖縄の基地問題と振興策のリンクをほのめかした発言をしたことに対して、枝野官房長官は「(リンクはしないということで)閣僚の認識は一致している」と述べた上で、「誤解なきよう(報道の)皆さんからも(国民に)伝えてほしい」と報道陣にクレームをつけるシーンもあった。

 政府の腹の中は見え透いているのに、北沢防衛大臣は、嘉手納基地の戦闘機F15の訓練の一部(約20機の訓練を20日間、グアムで行ない、日本が費用を特別協定で負担する)をグアムに移転する案やギンバル訓練場(金武町)の返還に向けた具体的な協議の開始を県知事に提案した。しかし、極東最大の米空軍基地である嘉手納基地の騒音公害は一向に改められることがないし、「負担軽減」という政府の発言が到底信用できるものでないことは、嘉手納基地周辺の住民が一番よく知っていることだ。これまでどれだけ戦闘機の早朝離発着や恒常的な本土所属の戦闘機の飛来で地元住民が苦しんで来たか、それを多少でも体感するために閣僚たちもしばらく嘉手納基地周辺で生活してみたらどうか、マジに。北沢防衛大臣の申し入れに対して、仲井真知事も「F15移転とギンバル訓練場の返還は移設問題とは別」というすげない返事で応じている。

 沖縄懐柔作戦と同時並行で、思いやり予算の総額を5年間維持するという文書に前原外相が署名した。民主党政権の成立で思いやり予算の削減を覚悟していた米国も民主党菅政権と閣僚の弱腰を見抜いて、強気の要求を突き付けて、これまでの総額1881億円の維持に成功したのである。おまけに、グアムでのF15戦闘機訓練にも日本側が費用の一部を負担する規定まで盛り込んだ。前原外相は、これまでの「思いやり予算」の名前を「ホスト・ネーション・サポート」(接受国支援)と呼びかえる考えを示している。歴史的には特例として容認してきた思いやり予算を正式に認定したのだ。自民党よりタチの悪い政権の本性があらわになった感じだ。

 地元紙の『琉球新報』で「ウチナー評論」を毎週連載している元外務省分析官の佐藤優氏が1月22日付の連載で、菅総理の外交演説に対して「きわめて無礼な発言」という手厳しい批判記事を書いていた。しかし、その後の文脈の流れで、こうも書いている。少し、長くなるが、正確を期すために該当部分を紹介しておこう。

 「筆者がもっとも期待しているのは前原誠司外相だ。母子家庭で苦労して育った前原氏は、他人の気持ち、特に弱い立場の人の気持ちになって考えることができる。それに前原外相は現実主義者だ。菅演説のラインで普天間基地問題を解決することが非現実的であるということを沖縄が一丸となって前原外相に礼儀正しく伝えることにより、菅政権の認識を変化させる方策を追及した方がいいと思う」

 菅総理の外交方針への批判は、筆者も同感だ。しかし、前原外相に対しては買い被りではないか。前職の国土交通大臣兼沖縄担当大臣時代からの言動を検証すれば、かっこつけて、大胆発言をしてもいつの間にか尻つぼみの連続ではないか。JAL再建問題や八ッ場ダム建設中止問題に関して、また、泡瀬干潟埋め立て工事再開、辺野古をかかえる名護市の基地賛成派や建設業者たちとの密会など、どれひとつまともな判断も政治力も発揮していない。外相になってからも、尖閣諸島中国漁船衝突事件や対ロシア外交においても国益など念頭にないタカ派発言が目立つ。現実主義という意味では、対米追従一辺倒こそが日米関係の絆をより強くするためのベストな戦略と信じ込んでいる姿勢も不可解だ。もともと、自民党防衛族よりも親米タカ派の体質を持つ人物だ。にもかかわらず、偽メール事件では民主党代表とは思えないお粗末な対応で失脚した人物ではないか。母親が久米島出身ということで、親沖縄文化人で中央官庁エリートとの戦いの論陣を張ってきた佐藤氏らしからぬ認識の甘さを指摘しておきたい。筆者的に言えば、沖縄に対して基地と振興策を巧妙な語り口でごまかす前原外相は、表面的にはソフトながら内面は官僚タイプの親米タカ派であると睨んでいる。それは、沖縄の見識ある人々の共通認識だと思うのだが、佐藤氏はどうだろうか。

←前へ次へ→

手ぶらでは行けないから「負担軽減策」を打ち出したものの、
肝心の普天間・辺野古問題に関しては従来の「お願い」に終始した政府首脳。
前回、当欄で岡留さんが指摘したとおり、
政府首脳の相次ぐ来沖は、米国に対するアリバイ作りとしか思えません。

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

「癒しの島・沖縄の深層」
最新10title

バックナンバー一覧へ→