マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ時々お散歩日記:バックナンバーへ

2011-06-15up

時々お散歩日記(鈴木耕)

50

原発がいらない「20の理由」(その4)

 書き続けてきた「20の理由」の最終回。ほんとうは、まだまだ補足しなければならないことがあるけれど、とりあえずこのあたりでお終いにしよう。
 「もっとこんな理由もあるよ」とお気づきの方は、ぜひ教えていただきたい。原発をやめる理由なんて、掃いて捨てるほどあるのだ。みんなで協力して、もっとたくさんの「理由」を見つけ出し、いろんなところでアピールしていきたい。
 政府の影響力ある人たち、少しでもいいからこれを読んでほしい。そして、脱原発へ勇気を持って踏み出してほしいのだ。
 で、今回は(16)~(20)の5項目。前の(1)~(15)も、時間があったら読み返してください。では…。

(16)自然エネルギーとスマートグリッド

 先週のこのコラムの(15)で、僕は「発送電分離ができれば、ほぼ日本の電力供給は原発に頼らなくて済むようになる。巨大な発電所ばかりではなく、地域に似合う発電方法や、地域密着型の小規模発電なども、大いに発展していくだろう」と書いた。

 つまり、発電所と送電網を電力会社が独占しているから、地域独占企業となって、電気料金も発電設備も電力会社の言いなりになってしまう、ということだ。それを分離できれば、発電会社はもっとたくさん生まれる。そうなれば市場原理が働き、電気料金も安くなるし、企業努力によって安全性も高まる。そういうことだ。
 そう書いたら、またも反論が来た。
 「そんな小規模発電が乱立したら、送電システムがメチャクチャになる。うまくいくはずがない」と。いつものことだけれど、分かったような反論だ。だが、ご心配には及ばない。
 スマートグリッドというシステムがある。これは、需要と供給のバランスを瞬時に判断して、電力供給の安定化をコンピュータ制御するシステムで、このシステムを支えるのがスマートメーター(通信機能付き電力量計)とよばれるものだ。すでに欧米では実用化されており、その作動によって再生可能エネルギーがドイツやスペインなどで爆発的に普及し始めた基盤になっている。つまり、自然エネルギーの普及には欠かせないシステムなのだ。
 実は日本でも、東芝や日立といった"原発メーカー"が、この分野の事業に参入しようとしている。さすがに目端が利くといっていい。特に東芝は、スマートメーター製造大手のランディス・ギア(本社スイス)という会社を、このほど買収した。
 東芝も日立も、発電設備の製造・建設には強いノウハウを持っている会社だ。原発から早急に手を退いて(むろん、廃炉のための努力は行いながら)、自然エネルギー用発電設備製造へ、シフトチェンジしていくべきだろう。ほんとうの発電機メーカーに生まれ変わるチャンスだ。
 それができれば、「脱原発」への道が開ける。

(17)代替エネルギーはたくさんある

 この点については、これまでたくさん書いてきた。だから詳しくは繰り返さない。要点だけ述べておこう。
 政府の環境省でさえ、風力発電の潜在可能性は「原発40基分に相当する」と、4月21日には早くも発表している。むろん、孫正義氏が提唱する「田電計画」もある。これは各自治体から土地の提供を受け、ソフトバンクが主体となって広大なメガソーラー発電をしようというもの。概算では、ほぼ休耕田の2割を使用することで、原発分を賄えるという。
 地熱発電については、火山国日本には無限のエネルギーが眠っているとも言われる。温泉地がこれだけ多い日本だ。膨大な熱が捨てられている。温泉と住みわけることは十分に可能だ。
 他にも、小規模水力発電、潮流発電、バイオマス発電などなど、可能性はいくらでもあるし、それらで発電した電力を電力会社が「固定価格」で買い上げるようにすれば、一気にこれらの発電は拡がるはずだ。
 さらに、シェールガス、天然ガス、メタンハイドレードなどの資源は日本近海には膨大に眠っている。それらを使えば、再生可能エネルギーへのつなぎとしては問題がない。
 コジェネレーション(熱電併給)というシステムがある。発電だけに使用して、残りは廃熱として捨てていた熱を利用すること。これを使えば、効率は数十%上昇する。少ない資源を効率よく利用できる。
 さらに、ガスコンバインド・サイクルというシステムもこのところ脚光を浴びている。これも、いままでは廃熱とされていた熱を繰り返し発電に使うもので、同じガス発電機の倍近い発電が可能だという。
 原発の代替エネルギーはどうするのか! という質問には、これで十分だろう。

(18)原発の電気代はものすごく高い

 これも言い尽くされたことだけれど、言及しておこう。原発推進論者のひとつの論拠は「原発は他の発電に比べて安価である」ということだった。もはや、そのリクツが破綻していることは誰の目にも明らかだろう。単純に、この大事故の補償を考えただけでも、それは分かる。原発災害で家を失い故郷を捨てなければならなかった人たちへの補償額など、誰も計算できはしない。そんなことより、故郷喪失で受けた心の傷を金銭で換算することなどできようか。
 しかしそれ以前に、原発電力が安いものでなかったことは、さまざまな観点から指摘されている。
 まず、原発立地自治体へ膨大にばら撒かれる原発マネー。これは、このコラムでも何度も指摘してきたから、もうご存知だろう。建設が決定してからほぼ10年間で300~500億円の金が落とされるのだ。それが建設費に計上されていない。
 廃炉に金がかかるのは当然だ。その金額は明らかにされていないが(実績がないので詳しくは電力会社さえ分からないという)、研究者によれば100万キロワット級の原発1基で2000億円前後だろうとされている。これも、なぜか発電経費に計上されていない。
 さらに、もっとも問題なのは、今回の事故でも注目された使用済み核燃料の処理費用だ。それを解決するためとして、青森県六ヶ所村に核燃料再処理施設が建設されているが、トラブル続きで稼動できていない。これまですでに2兆2千億円もの巨額な費用をつぎ込んでいるけれど、まったく動く気配さえない。そこでもう2千億円をつぎ込むことにしたのだが、それで動く可能性などない。むろん、これも原発発電費用には加算されていない。
 まだある。高速増殖炉「もんじゅ」という、どうにもならない「原発」がある。これは「運転しながら燃料を作り出す夢の原発」などという謳い文句で華々しくスタートしたものだが、冷却材に使うナトリウムが爆発するなどの過酷事故を起こした。さらに現在は、原子炉の中に機材が転落して、それを引き上げる作業が難航して、かなり危険な状態にある。運転などそれこそ「夢」の原発なのだ。このポンコツ原発もんじゅにつぎ込まれた費用が、これも2兆円以上。当然、この費用も原発電気代には含まれていない。
 まだまだあるのだ。原発の電気代は約6円で、水力14円の半分以下、というのがこれまでの電事連(電気事業連合会)などの説明だった。しかし、ここに落とし穴。揚水発電を水力発電に加えているのだ。確かに揚水というのだから水を使うのは間違いない。けれど、これは夜間にも止められない原発の余剰電力を使って水を山の上に汲み上げ、それを昼間に落とすことによって発電するシステムだ。それを水力発電の費用に組み入れるのだから、そちらが高くなるのは当たり前だ。揚水発電は、原発が行っているのだ。それらを換算すると、水力と原発の電気代は逆転する。
 もう説明するまでもないだろう。原発で作る電気は、決して安くなどないのだ。

(19)諸外国は脱原発へ

 イタリアで「脱原発を問う国民投票」が行われた。6月12、13日のことだ。結果はもうみなさんご存知のように、脱原発派が94.5%の得票率で圧勝した。
 ドイツ、スイスはすでに完全脱原発の方向を決定している。韓国では、釜山にある古里原発の再稼動を住民たちが止めた。さらに、韓国の江原道知事選では「反原発」を掲げた野党候補が当選。推進の李明博大統領を追いつめている。
 ブラジルでは新たに建設予定だった原発4基について、ロバン鉱業エネルギー相が見直しを発表。
 インドネシアでも、「原発はイスラムの教えに反する」として、国内最大のイスラム組織NUが反原発の姿勢を明確にした。インドネシアは世界最大のイスラム信者を抱える国だけに、以後の原発建設は難しくなるのではないか、とも言われている。
 アメリカでは、1979年のスリーマイル島原発事故以来、新規の原発は1基も建設されていないが、オバマ大統領は原発推進の姿勢を示している。しかし福島原発事故を受けて、推進が難しくなってきている。アメリカの大手電力会社エクセロンは、これまで約39億ドルという巨額な原発への投資計画を進めてきたが、福島事故以後、同社のロー最高経営責任者(CEO)は、「調査次第では計画の取り止めもある」と言明した。
 当然のことながら、日本の原発メーカーにも暗雲が立ち込めている。東芝と東電が組んで、米テキサス州に建設予定だった原発は、福島の影響で計画中止。ほかにも、イスラエルやベネズエラなどでの新設計画も断念の方向だ。東芝や日立などの日本の原発メーカーは、売り込み戦略の根本的な見直しを迫られている。
 むろん、フランスやロシアなどは原発推進の立場を崩していないが、フランスのパリでも大規模な反原発デモが起きるなど、推進国でも変化は起きつつある。
 現在、世界では、30カ国・地域に436基の原発がある。こんなちっぽけな日本、それも地震多発国のこの国土に、世界の12%以上もの原発があることに、我々は無関心でありすぎた。
 当事国である日本が脱原発へ向かわないならば、それこそ世界からは、決していい意味ではなく「不思議な国」だと思われるだろう。

(20)原発は日本を滅ぼした…

 ようやく、この連載も(20)に辿り着いた。結論を書こう。
 今回の福島原発の過酷な事故は、確実に日本という国を崩壊へ導いている。「日本は強い国」なんかではない。原発によって、「日本は弱い国」に成り下がったのだ。
 事故による直接的な被害は、どれほどの金額になるか、誰一人として予測できない。なぜなら、原発事故が終わる見通しがまったく立たないからだ。東電が出した「工程表」どおりに来年の早い時期に事故が収束できればいい。しかし、そんなことを信じている専門家(いわゆる御用学者でさえ)は、ほとんどいない。
 日本人が信じていないのだ。それを外国人が信じるわけがない。とすれば、日本への外国からの観光客も投資も減り続ける。これ以降、回復する兆しなどまったくない。
 たとえば、政府観光局が発表したこんな数字がある。
 今年、2011年3月の訪日外国人数は35万2800人。前年3月は70万9684人だったから、実に半分以下に激減している。4月は、78万8212人から29万5800人へ。実に-62.5%。これは暫定の数字だが、5月以降もこの傾向は続いている。観光立国を目指した日本は、その分野では完全に終わった。福島原発事故が収束しても、多分、数年もしくは数十年単位でこの減少は続くだろう。
 財務省の発表によれば、この5月上中旬(1~20日)の貿易統計速報で貿易収支は1兆534億円の赤字になった。統計を取り始めてから最大の赤字だという。むろん、5月期全体でもそれを上回る赤字になることは確実だ。これが早期で回復する兆しはない。貿易立国日本に、巨大な赤信号が点った。
 少子化にも歯止めはかからないだろう。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)は、2010年1.39で、09年の1.37をかろうじて上回った。しかし研究者たちは、原発事故の影響により、来年は激減するだろうとの予測を立てている。当然だろう。誰がこんな放射能汚染の中で、子どもを産みたがるか。
 50年後には日本の人口は8千万人を割り込むだろう、との予測も出ていた少子化だが、そのスピードはもっと速まるに違いない。子どもの生まれない国。国力が衰えるのは当然だ。
 外国人労働者が日本から逃げ出している。少子化の歯止めとして積極的な外国人労働者の受け入れを主張する政治家もいたけれど、逆に外国人たちは日本から逃げ出している。労働力不足も、いずれ深刻な問題になるはずだ。
 どれをとっても、明るい予測はない。
 原発は、日本という国を根本から、基礎からぶち壊してしまった。そんな原発は、日本にはいらない。単純な結論である。

 これで、「原発がいらない『20の理由』」は終わり。
 今回は、我が家の塀の極小「脱原発ポスター・ギャラリー」第2回の写真を添付しようと思ったのだが、諸般の事情で来週へ。
 では、また。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

「時々お散歩日記」最新10title

バックナンバー一覧へ→