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2011-10-12up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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「汚染企業」と「汚染人物」

 僕には「日記」をつけるという習慣がない。しかし、あの原発事故が起きたとき、原発にまつわるさまざまな現象や僕の想いを、なんとか記録しておかなければと思った。
 その時に思いついたのが「ツイッター」だった。あの事故のほんの数ヵ月前から、友人がセッティングしてくれたツイッター(なにしろ僕は、自分ではセッティングできないほどのIT音痴だ)を、僕は面白半分に使っていた。いわゆる「日々雑感」の呟きである。それを利用しようと決めた。僕は毎日のように原発情報や自身の感想などを書き込んだ。いつの間にか、それは膨大な量になっっていた。

 必要があって、3.11以降の「呟き」を整理し、読み直し始めた。半年以上に及ぶ期間の呟きだ。僕の呟きは、最初のころから変わらない。怒りと嘆き、そして哀しみ…。
 読み返してみると、東電をはじめとする電力会社や政府・経産省の態度はまるで旧態依然。自らが引き起こした凄まじい人災に、なぜこれほど平然としていられるのか、僕にはまったく理解できない。
 3.11~5.11までの呟きは、『反原発日記』(マガジン9ブックレット)にまとめたから、それ以降のツイートをチェックしてみた。
 たとえば、こんな具合だ。

東京新聞の記事。「東電 また"情報操作"、供給上積み隠し 危機煽る」「狙いは原発存続?」。その通りだと思う。(5月12日)

山下俊一長崎大学教授という人が、福島県内で「100ミリシーベルト以下なら大丈夫」と講演して回っている。それを信じて、子どもを学校に通わせても大丈夫、と信じ込む親も多いという。犯罪行為だと思う。(同13日)

54基のうち41基が止まっても停電が起きないとすれば、原発不要論が出てくる。それを防ぐために電力会社と政府は懸命に「節電」を呼びかける。(同15日)

経産省所管の原子力安全基盤機構が、07年の報告書の中で「津波による電源喪失で炉心損傷事故に至る可能性がある」と指摘していた。とすれば、すでに大津波を想定していたことになり「想定外の大津波による事故」という東電の言い逃れは真っ赤なウソ。「想定内」だったではないか。(同15日)

東海第二原発(茨城・日本原電)が、震災後に冷温停止状態になるまで、実は3日半もかかり(通常は1日程度)かなり危険な状況にあったことを、ずっと隠蔽していた。電力会社はどこも同じ体質か。(同18日)

昨年度の電源三法交付金。六ヶ所村24億円(総予算130億円)、東通村55億円(同120億円)、青森県への交付金40億円、同じく県への「核燃料税156億円(県税の13%)。これとは別に低レベル放射性廃棄物受け入れの特別交付金が県と六ヶ所村へ30億円。他に青森市や弘前市へも。(同23日)

班目春樹原子力安全委員長が「いま辞任すると敵前逃亡だと言われる。責務を全うするために頑張る」と辞任を否定。ずっと逃亡していて記者会見に応じなかったのは誰なのか。(同25日)

国会はまたも「不信任案」とやらでザワザワ。この人たち、国民の感情をまるで理解していない。今そんなことをやっている場合か。とにかく原発事故の収束に全力を、放射能対策を完璧に、子どもたちに被曝を絶対にさせない。それが先決だろう。呆れ果てる。(同30日)

「浜岡原発の砂丘耐久性は未検証」「東電が福島原発付近の断層を再検証」「島根原発3号機、中国電力が津波対策未整備のため稼動延期」「原発周辺断層情報を事業者が保安院へ報告、女川30箇所など」…。安全確認のできていない原発状況が次々に出てくる。とりあえず、全部止めるしかない。(6月1日)

不信任案否決。2泊3日のバカ踊り。被災者の嘆きも原発作業員の呻きも聞かず、アドレナリン出しまくりで騒いだ議員たちの虚しい祭り。国民は、冷え冷えとそれを見ていた…。(同2日)

首相退陣を見越して、早くも原発業界の巻き返しが始まった。政府の国家戦略室の「革新的エネルギー環境戦略」では「世界最高水準の原子力安全の実現」として原発推進路線を明確にし「発送電分離」などにまったく触れていない。推進派の経産省の思惑がそのまま反映。ひどい。(同5日)

福島原発から放出された放射性物質は、85万テレベクレル(毎日)、77万テレベクレル(朝日)。何でこうも違うのか。どちらも保安院発表と書いてある。わけが分からない。いずれにしても前に発表された37万テレベクレルよりは倍以上。もうどこも信用できない。それにしても「テラ」という単位が出てくるとは…。(同7日)

政府の国家戦略室とは何か? その事務局に、原発推進にいまだに固執する経産省の息のかかった連中。直島正行元経産相、近藤洋介元経産省政務次官ら。この戦略室の「エネルギー環境会議」では、原子力を重要戦略と位置づけた。国民の生命よりも自らの利権が大事か。(同7日)

佐賀県玄海町の岸本秀雄町長が玄海原発の運転再開に同意したという。ここにも、命よりカネ。(同8日)

現在、世界には436基の原発があるという。こんな小さな、しかも地震多発国の日本に54基。実に世界の12%以上もの原発が乱立。(同14日)

石原伸晃自民党幹事長が「反原発はヒステリー」だと。僕には「菅おろし」や「不信任案」のほうがよっぽどヒステリーに見える。この男、さすがに慎太郎知事の息子。(同14日)

保安院の天下り組織「原子力安全基盤機構」が、福島原発での検査で手抜き。安全弁の不具合を見逃す(毎日)。経産省→保安院→安全基盤機構という流れ。東電に具合の悪い検査結果など最初から出す意思はない。(同15日)

「原発指針総崩れ」「見直し論争、年単位」(朝日6月12日)という記事。あの班目委員長すら「安全設計審査指針は明らかに間違っている」と認めているのに、海江田経産相は「もう措置はすんだ」ので「原発再稼動を各自治体に要請する」という。開いた口が塞がらない。(同18日)

「自殺急増で震災影響調査」(毎日21日夕刊)。5月は3329人の自殺者で昨年同期より20%もの増加だという。原発と放射能不安による自殺者も、相当数に上るだろう。それは東電と政府による殺人である。(同21日)

今朝、東電の清水社長と西沢常務(次期社長に内定)が、埼玉県加須市の福島県双葉町住民の集団避難地を訪問、双葉町長に挨拶と謝罪。しかし、避難住民には会わず謝罪もなし。住民からは罵声。民放はその場面を少しだけ報じたが、NHKは住民の反応には一切触れず。(同23日)

東電は、爆発の予兆を前日にデータで把握していたが、それを保安院や自治体に通報していなかったという。悪質な情報隠蔽。また、浜岡原発の耐震工事の検査機関に、中部電力の坂口正敏副社長や中電出身の久米雄二電事連理事らが入っていたという。どこまで腐っているか原子力ムラ。(同25日)

福島原発1号機でも爆発予兆データがあったと朝日が報じた。東電は、それも国や自治体に伝えなかった。そのせいで逃げ遅れ、相当量の被曝をした住民がいる。東電は、どう責任をとるのか。(同26日)

ひどかったなあ、佐賀県玄海原発の説明会。なんと、国が選んだ住民たった7人への説明。しかも本来は原発の規制機関であるはずの保安院が安全性を強調。それを受けて古川康佐賀県知事は「一定の役割を果たした」とコメント(注・これが後に大問題になるヤラセ事件の発端)。(同27日)

海江田経産相「政府が玄海原発の安全性に責任を持つ」と、岸本玄海町長に説明。いったいどういう「責任」か? 福島がこんな現状なのにそんなことを言うのはむしろ「無責任」というべきではないか。岸本町長もこれに応じる。吐き捨てたいほどのデキレース。(同29日)

玄海原発の説明会がケーブルテレビでしか中継されなかった理由は、なんと「予算が600万円しかなかったから」と国側が説明。原発マネーを何千億円もばら撒いておきながら、600万円しか予算がなかったなどと。もう少し上手いウソをつけばいいのに。(同29日)

腹立ち記事が多すぎる。東京新聞「原発事故直後、浪江町の高線量把握、文科省1ヵ月地名明かさず」。つまり、浪江町の住民たちは高線量被曝を文科省によって強いられたことになる。これは犯罪、強い言葉で言えば「殺人未遂」ではないか。(7月5日)

九州電力は、佐賀県で行われた「玄海原発住民説明会」で、「原発再稼動容認の意見を番組あてに送るように」と関連会社などへ指示。資源エネルギー庁と保安院もこれに絡んでいた。官民一体のヤラセ。腐臭…。(同6日)

 ここまで書いて、いい加減ウンザリしてきた。もっと大量の東電や安全委、保安委、関連機関や天下り法人などの「犯罪調書」があるけれど、書き写すだけで僕は鬱状態になってしまう。だから、この辺でやめておく。
 ここに書かれている内容は、新聞からの引用が多いけれど、他に知人のジャーナリストや専門家から得た情報もある。どれをとっても、電力会社や政府機関、御用学者などの癒着が陰にちらつく。
 それこそが「原子力ムラ」の腐臭漂う実態である。政府、官僚、財界(電力会社)、(御用)学者、そして原発マネー(広告費)に縛られたマスメディア。このペンタゴン(5角形)の癒着こそがあの凄まじい原発事故を引き起こしたのだ。
 数十年、いや数百年単位での放射能汚染。それを招きながら責任を回避し、まるで他人事のように自らの保身を図る「東京電力の幹部」たちや役人ども。

 誰一人として刑事訴追されない。警察・司法は死んだか。
 警察は、反原発デモの若者たちを、理由もなく逮捕する。だが罪には問えぬから、すぐに釈放する。要するに「脅し」なのだ。
 そんな暇があるのなら、きちんと電力会社や官僚たちの責任を追及して、彼らの罪を暴くのが先だろう。
 高濃度の放射線量の放出を隠して住民を被爆させた東電や文科省、経産省の役人などは、確実に裁かれてしかるべきではないか。その当然の仕事を放棄しているという意味で、原子力ムラはペンタゴンではなく、そこに司法も加えたヘキサゴン(6角形)で構成されている、と見るべきかもしれない。
 この司法の堕落については、「週刊金曜日」(10月7日号)の特集「原発事故を招いた裁判官の罪」に詳しい。ここでは、原発メーカーや電力会社に天下った司法関係者を、以下のように実名を上げて断罪している。

味村治(元最高裁判事など)→東芝社外監査役
野崎幸雄(元名古屋高裁長官など)→北海道電力社外監査役
清水湛(元東京地検検事、広島高裁長官など)→東芝社外取締役
小杉丈夫(元大阪地裁判事補など)→東芝社外取締役
筧栄一(元東京高検検事長など)→東芝社外監査役・取締役
上田操(元大審院判事など)→三菱電機監査役
村山弘義(元東京高検検事長など)→三菱電機社外監査役・取締役
田代有嗣(元東京高検検事など)→三菱電機社外監査役
土肥孝治(元検事総長など)→関西電力社外監査役

 僕は、東京電力を「汚染企業」と命名する。そして、その延命に手を貸す連中、原子力ムラの住人たちをまとめて「汚染人物」と呼ぶ。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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