マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ時々お散歩日記:バックナンバーへ

2012-12-26up

時々お散歩日記(鈴木耕)

119

「原発本」を読む

 今回が2012年最後の更新。
 年末になると、「今年の回顧」とか「来年への期待」などが、新聞雑誌の紙面を飾り、テレビ各局も同じような特番を流す。
 でも、今年をどう総括すればいいのだろう。来年にどう期待すればいいのだろう…。僕には思いつかない。
 僕にとって、2012年は「稀に見るひどい年」だった。むろん、僕は直接震災の被害を受けたわけではない。それでも、身内の厄災があの原発事故とまったく無関係だったとは言い切れない。詳しくは書けないが、切な過ぎる不幸があった…。

 僕は昨年来、さまざまな集会やデモ、学習会、講演会などに参加してきた。研究者やジャーナリストたちに会って、さまざまなことを学んだ。ものぐさな僕の手帳がこんなに予定で埋まるとは、会社を辞めたときには想像すらしていなかった。
 フリーの立場で、気に入った場所へ出かけ、好きなことを探し、面白いものを見つけ、そして書きたいことを書く。それが、望んでフリーになった僕の希望だったのだが、原発事故がそんな個人の小さな幸せを吹き飛ばした。

 11年3月11日以降しばらく、僕は、ほとんど本らしい本が読めなかった。自宅にいる時間は、新聞記事を漁り、雑誌の特集をファイルし、原発関連本を調べる。ほぼそれに費やされた。映画を観る時間もめっきり減った。スポーツ中継も、いつの間にか忘れていた。
 好きだった海外ミステリも時代小説もほとんど手にできなかった。今年になって、少しはそんな本のページをめくれるようになったけれど、やはり数は激減したままだ。
 それに反して「原発関連本」は、僕の書棚に増殖中である。

 安倍自民党が圧勝してしまった。圧勝の仕組みについては、前回の「お散歩日記」で言及した。歪んだ選挙制度(最高裁さえ「違憲状態にある」と言っている)を放置したままにしておけば、この国の「間接民主制」そのものの崩壊を招くかもしれないことも、指摘したつもりだ。そして、どう改革すればいいのか、という僕なりの考え方も書いてみた。
 その、歪んだ制度の産物である安倍晋三次期首相は、早くも「原発再稼働」はおろか「原発新設」まで言い出し始めている。本来は、原発事故の最高責任者だったはずの自民党の、なんと厚顔無恥なことか。
 なんとしてでも、それは阻止しなければならないと、僕は強く思う。そのためには、知識と知恵を蓄えておく必要がある。集会や講演会には、あまり足を運べない人も多いだろう。だから、読んでみてほしい。さまざまな知見に満ちた「原発関連本」を。
 今年最後のこのコラム、僕の読んだ「原発本」を紹介することで終わりにしよう。

■事故の中身に迫る本

1.『福島原発独立検証委員会 調査・検証報告書』(日本再建イニシアティブ、ディスカバー21、1500円+税、以下定価はすべて+税)、
2.『国会事故調 報告書』(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、徳間書店、1600円)

 この2冊は、詳細な事故検証本。基本的な問題点を理解するためには、ぜひとも必要な資料。意外に読みやすい。2には、会議録のDVDも付いている。

3.『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』(鹿砦社特別取材班、鹿砦社、2362円)

 3は、かなりセンセーショナル。原発事故に責任があったはずの人々を俎上にのせて斬りまくる。スキャンダラスな編集が面白い。

■事故のドキュメントとしての本

4.『レベル7 福島原発事故、隠された真実』(東京新聞原発事故取材班、幻冬舎、1600円)
5.『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(大鹿靖明、講談社、1600円)
6.『プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実』(朝日新聞特別報道部、学研、1238円)
7.『プロメテウスの罠2 検証!福島原発事故の真実』(同上)

 これらはすべて、当時の状況に迫ったドキュメントだ。かなり生々しい現場の息遣いがよく分かる。新聞記者たちの"良質な部分"が出ている。事故以前に、なぜこんな取材ができなかったのか。

■当事者たちの発言

8.『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(菅直人、幻冬舎ルネッサンス新書、838円)
9.『叩かれても言わなければならないこと。「脱近代化」と「負の再分配」』(枝野幸男、東洋経済新報社、1300円)
10.『官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機』(田坂広志、光文社新書、780円)

 これらは、事故当時、首相官邸に詰めていた当事者の発言である。特に8は、相当の切迫感があって、凄まじかった菅バッシングへの反論にもなっている。10は事故時に内閣官房参与を務めていた大学教授のインタビュー集。

■学者、研究者たちの提言

11.『この国は原発事故から何を学んだのか』(小出裕章、幻冬舎ルネサンス新書、830円)
12.『福島原発事故はなぜ起きたか』(井野博満編、井野博満・後藤正志・瀬川嘉之、藤原書店、1800円)
13.『原発を終わらせる』(石橋克彦、岩波新書、800円)
14.『原発はなぜ危険か―元設計技師の証言―』(田中三彦、岩波書店、700円)
15.『市民科学者として生きる』(高木仁三郎、岩波新書、820円)
16.『巨大地震 権威16人の警告』(『日本の論点』編集部編、文春新書、850円)
17.『福島第一原発 真相と展望』(アーニー・ガンダーセン、岡崎玲子訳、集英社新書、700円)
18.『大転換する日本のエネルギー源 脱原発。天然ガス発電へ』(石井彰、アスキー新書、743円)
19.『福島原発メルトダウン』(広瀬隆、朝日新書、740円)
20.『原発の闇を暴く』(広瀬隆・明石昇二郎、集英社新書、760円)
21.『原発ゼロ社会へ!新エネルギー論』(広瀬隆、集英社新書、760円)
22.『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場』(小出裕章・渡辺満久・明石昇二郎、集英社新書、700円)
23.『原発のコスト』(大島堅一、岩波新書、760円)

 14と15はかなり古い本だが、今読むとその警告が恐ろしいほど的中していたことがよく分かる。これらの真摯な追及・批判を無視してきた原子力ムラに今更ながら腹が立つ。また、小出裕章氏の多くの警告(『放射能汚染の現実を超えて』河出書房新社、『原発のウソ』扶桑社新書など)や、広瀬隆氏の数多くの著作(特に『東京に原発を!』集英社文庫や『危険な話』八月書館などは、原発問題の初期著作として貴重)は、今もその輝きを失っていない。13と16は、地震と原発の問題を深く掘り下げたもの。23は「原発電力は安い」という電力会社や政府の言い分を徹底的に論破している。

■別の側面から原発を見る

24.『3.11 複合被災』(外岡秀俊、岩波新書、860円)
25.『原発訴訟』(海渡雄一、岩波新書、820円)
26.『日本の大転換』(中沢新一、集英社新書、700円)
27.『犠牲のシステム 福島・沖縄』(高橋哲哉、集英社新書、740円)
28.『てんつく怒髪 3.11、それからの日々』(落合恵子、岩波書店、1600円)
29.『電力と国家』(佐高信、集英社新書、680円)
30.『福島原発人災記 安全神話を騙った人々』(川村湊、現代書館、1600円)
31.『大津波と原発』(内田樹・中沢新一・平川克美、朝日新聞出版、740円)
32.『検証 福島原発事故記者会見』(日隅一雄・木野龍逸、岩波書店、1800円)
33.『原発列島を行く』(鎌田慧、集英社新書、700円)
34.『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(開沼博、青土社、2200円)
35.『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』(高橋洋、日本経済新聞出版社、1600円)

 26、27、34が注目に値する論考。また32は、癌でお亡くなりになった日隅さんの鬼気迫る追及が痛いほど伝わる。33は少し古いが原発ルポとしては最良の1冊。

■原発と文学

36.『恋する原発』(高橋源一郎、講談社、1600円)
37.『詩の礫』(和合亮一、徳間書店、1400円)
38.『詩ノ黙礼』(和合亮一、新潮社、1200円)
39.『原発と拳銃』(杉浦昭嘉、祥伝社、1500円)
40.『日本原発小説集』(柿谷浩一編、水声社、1800円)
41.『夏の寓話 山岸凉子スペシャルセレクションⅥ』(山岸凉子、潮出版社、1200円)

 3.11後、最も早く出版された小説が36。詩の分野では37、38が特筆に価する。ツイッターでの呟きが見事な詩に結実した。41にはチェルノブイリ事故を描いた名作漫画「パエトーン」が収録されている。

■原発とジャーナリズム

42.『原発報道 東京新聞はこう伝えた』(東京新聞編集局編、東京新聞、1800円)
43.『暴走する原発 チェルノブイリから福島へ これから起こる本当のこと』(広河隆一、小学館、1300円)
44.『テレビは原発事故をどう伝えたのか』(伊藤守、平凡社新書、780円)
45.『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(マーティン・ファクラー、双葉新書、800円)
46.『福島第一原発潜入記 高濃度汚染現場と作業員の真実』(山岡俊介、双葉社、1300円)
47.『原発とメディア 新聞ジャーナリズム2度目の敗北』(上丸洋一、朝日新聞出版、2000円)
48.『玉川徹のそもそも総研 原発・電力編』(玉川徹、講談社、1400円)

 原発報道では東京新聞が図抜けている。特に特報部記事は圧倒的、他の追随を許さない。42はその記事をテーマ別に編集しなおしたもの。史料価値も高い。テレビではテレビ朝日系「モーニングバード」の健闘が光る。特に玉川氏の追及には見るべきものがあったが、48はそれをまとめたもの。47は朝日新聞の連載。サブタイトルにあるように「新聞ジャーナリズム2度目の敗北」を真摯に振り返っているが…。

■その他・市民運動など

49.『もう原発はいらない!』(郡山昌也・大野拓夫編、ほんの木、1400円)
50.『いまこそ私は原発に反対します。』(日本ペンクラブ編、平凡社、1800円)
51.『私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。』(飯田哲也・坂本龍一・内田樹ほか、ロッキング・オン、1900円)
52.『社会を変えるには』(小熊英二、講談社現代新書、1300円)
53.『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』(山本義隆、みすず書房、1000円)
54.『原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語』(安冨歩、明石書店、1600円)
55.『「東京電力」研究 排除の系譜』(斎藤貴男、講談社、1900円)
56.『金曜官邸前抗議 デモの声が政治を変える』(野間易通、河出書房新社、1700円)
57.『電通と原発報道 巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ』(本間龍、亜紀書房、1500円)
58.『脱原発社会を創る30人の提言』(池澤夏樹・池上彰・小出裕章ほか、コモンズ、1500円)
59.『原発から見えたこの国のかたち』(鈴木耕、リベルタ出版、2000円)

 反原発デモの高まりから社会変革の道を探るのが52。東電という会社の暗部に迫る55は迫力十分。原子力ムラの人びとの「言い逃れ話法」がよく分かるのは54。毎週金曜日の官邸前デモは、確かにこの国の姿を変えつつあるが、その当事者による貴重な証言が56だ。57は元博報堂社員だった著者による広告代理店と電力会社の恐るべき関係。59は恥ずかしいけれど僕の本。また58にも僕の小論が掲載されている。

■写真集

60.『福島 原発震災のまち』(豊田直巳、岩波ブックレット、800円)
61.『鎮魂と抗い 3.11後の人びと』(山本宗補、彩流社、2500円)
62.『ゴーストタウン チェルノブイリを走る』(エレナ・ウラジーミロヴナ・フィラトワ、池田紫訳、集英社新書、1200円)

 ただただ、切なさに胸が熱くなる写真ばかり。やがて福島も、チェルノブイリのようになるのだろうか…。

 ざっと紹介してきたが、どれも読んで損のない本ばかり。この中からどれかを読んでみてほしい。原発という巨大な敵と闘うには、こちらも腰を据えてかからなければならない。
 僕の書棚にはまだまだたくさんの「原発本」が並んでいるが、とてもすべては紹介できない。それはまた後日。

 では、2013年が希望の年になるように祈って…。
 来年も「マガジン9」をよろしく。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

「時々お散歩日記」最新10title

バックナンバー一覧へ→